第2話 ライヒスターク
「余が、諸君らを招集したのは他でもない。新たなる勅令を出すからだ。オラニエンブルク子爵前へ!」
「はっ!オラニエンブルク子爵、帝国陸軍大尉、皇帝陛下直隷国防予備軍司令部付フリードリヒ・カールが申し上げます。」
高らかに告げられる、皇帝の声に全ての貴族が招集される
大きく右側にオラニエンブルク公爵派閥、左側にニルドザクセン公爵派閥。
オラニエンブルク公爵派閥からは万雷の拍手で招かれる。
「皇帝陛下より勅許を頂きましたカトラゼウス中将閣下立案皇帝陛下直隷国防予備軍創設のご報告を致します!配布された資料をご覧下さい。」
あれから決定された編制は第一装甲師団に第二歩兵師団、第五山岳師団の3つに俺の率いるチルドレンからなるザラマンダー戦闘団、サエラが指揮するヨハン子飼いの第442独立装甲大隊。
その他少数の中隊、大隊が幾つか。
規模としては平均的な帝国陸軍1個軍の3個師団からなる軍団3つには大きく満たない。
皇帝勅令により認可され、それの遂行を助ける為複数の法令が皇帝官房より提出される。
第一部は皇帝勅令の遂行を行うために政治的権限を大きく保有する粛清候補のひとつであり、皇太子選出に関しては皇太子ヴィルヘルムを推挙している。
第二部は勅令を法務化する事を任務として、皇太子選出には中立を保つ。
第三部は政治秘密警察を構築しており、オラニエンブルク公爵らとは対立関係にあり皇太子選出にはディートリヒ及びアリーシャの即位を要求している。
が、第三部は強硬派の伯爵オーランデンがトップであり、彼は皇太子ヴィルヘルムの即位を要求しており彼もまた粛清候補だ。
「フリードリヒ卿!具体的に反乱勢力は誰を想定しているのだ?」
「はい、フランツ卿。具体的には共和主義者団体ゲルマニア自由民主党、社会主義者はゲルマニア自由革命戦線。更には皇帝陛下の統治大権の総覧に反する自由主義勢力です。」
「オラニエンブルク子爵!それは我々憲政派を指しているのかね!」
「ニルドザクセン公爵閣下らが陛下への反抗をなさるのであらば我々は全力を持って陛下の敵を誅するのみであります。他にも社会主義者より過激な人民解放革命評議会、アスカニア・レーテなる武装勢力も第三部より報告を得て、対応致します。更には植民地での反乱やクーデターにも我々は全軍より先駆け鎮定致します。」
「素晴らしい!余は国防予備軍創設に関して全ての権限をカトラゼウス中将並びに彼の承認する人員全てに必要なだけ認めるつもりである。」
皇帝は凡愚、ヨハンを盲信し、俺もアリーシャの婚約者となった事で信用される寵臣の1人となった。
「マイラント伯爵バローネは反対する!陛下、御再考を!オラニエンブルク家に専横を許してはなりません。」
「マイラント伯、私はオラニエンブルク公爵閣下が反逆者となるなら一切の躊躇なく鏖殺致します。」
「勇ましいな。」
マイラント伯バローネは帝国南方に位置する半島の北部を治めてきた伯爵家の末裔。帝国改革で中央集権の影響で統治権は喪失したものの熱心な皇統派として有名で有能な人物。クーデター後の我々にも有益な人物だが作戦通り進めば皇帝も排除する予定。交わることはないだろう。
「バローネ、余はフリッツを信頼している。更に、カトラゼウス中将は何度も、帝国に栄光を齎してきた。」
「誠に光栄に存じます、陛下。カトラゼウス中将閣下は、帝国の誇る名将でしょう。」
皇帝の目配せに合わせ、口を開く。バローネ伯は俺を威圧しつつも席に着く。
皇帝官房第三部。そちらの命令権は確保している。
赤を使い、バローネの暗殺を行う予定だ。
†
「旦那様、屋敷の門前に人だかりが出来ています。」
「何事だ?」
使用人が運転する車両。コンコンと曇った窓にノックがされる。
「誰だ?」
「失礼します、警察少佐です。こちらは現在閉鎖中ですので迂回するか引き返して貰いたい。」
「あの人だかりかね?あれは私の屋敷なのだが。」
「マイラント伯爵閣下でしたか、申し訳ありません。お車から降りて同行願います。」
扉を開き、警察少佐に先導され、屋敷の門を潜る。
「差別主義者の貴族に天罰を!」
リボルバーを持った男が飛び出し、私を撃った。
「っ、少佐守れ!」
「止まれ!」
警察少佐が、短機関銃をかまえ、威嚇するも再度発砲。
†
「国防予備軍がこの事件に対する対応作戦を担う。」
「皇帝官房第3部が担当する!」
サエラに、オーランデンが激しく怒鳴りつける。
「黙れ!」
皇帝が怒りのあまりオーク材のテーブルに拳を振り下ろす、その時点で俺は盗聴を切り上げ、ドアをノックした。
「失礼します、陛下こちらを。」
「何だ?」
「国防予備軍により、12名の第3部の人員を拘束しました。あと、その反逆者のみです。」
同時に引き連れた10名の兵士が短機関銃を構え、銃口を注意深く向ける。
「何事だ?」
「陛下、共和主義者と社会主義者団体を幾つか摘発しました。そこで得られた資料にソレが関与ないしは支援していた記録が見つかりました。国家騒乱罪及び大逆罪により即時銃殺刑を執行したく思います。」
「後任は。」
「一時的に国防予備軍に第3官房を編入したく存じます。統一指揮系統で、動く方が都合が良い」
「結構、ならフリッツ君に任せよう。」
「…巫山戯るな!私が反逆者だと!」
「陛下、失礼申し上げます。これはヴィルヘルム殿下を皇太子に推挙していました。これは、無能なヴィルヘルムが皇帝になれば彼らの望む君主制の廃止が容易と考えての事と口をわりました。皇帝官房第三部を動かし、対立候補の殿下方を殺す気でした。」
従兵が差し出す書類を皇帝の前の机に投げる。
部下に手早く猿轡を嵌めさせると、読了を待つ。
「…殺せ。」
即時に拳銃を向け、眉間に叩き込む。
「連れて行け。陛下、後はお任せを。」
頷くと、目前で行われた事に恐怖するメイドに支えられて、下がっていく。
「伍長、陛下に着いておけ。メイド、着いてこい。」
メイドは、部下に皇帝の身柄を預けると、指示通り俺に従い着いてくる。
「落ち着け、済まなかったな。」
懐から酒を取り出すと、その小瓶を放る。
「名前は?」
1口、飲んだのを確認し声をかける。
「エルマ、エルマ・ハーゼ」
ハーゼ家か、騎士爵ながら現近衛師団長に上り詰めた有能な人間ながら、妹を皇帝の弟に召し上げられた事で不満を溜めている有力な貴族でもある。
「ハーゼ卿のご令嬢か。送ろう着いてきなさい。」
ハーゼ家の一人娘は、18歳。
「あ、あの。私は宮殿のメイドで。」
「国防予備軍将校に保安上の意図による、命令だ。」
宮殿内の宿舎で平のメイドは暮らす。邸宅から通うのは結婚しているか、古参のみである。
「…ありがとうございます。」
宮殿のすぐ傍にあるハーゼ家の屋敷には既に無線で連絡され、ハーゼ卿フェルディナンドが待機していた。
「ハーゼ少将閣下、初めまして。ご令嬢には休暇が与えられます。3週間保安上の要項により、この屋敷に戻るようにと。」
「これは、ご丁寧に子爵閣下。我が娘に御高配頂き感謝する。」
互いに敬語。貴族社会では爵位の上の俺に敬意を見せる必要がある。
「いえ、小官の任務故感謝は不要です。」
自らの軍装を示し、更には一人称を小官とする事で軍務であると示す。
「…そうか、それでも感謝させて貰おう大尉。」
それを察したハーゼ卿は 一礼する。オロオロとしている娘のエルマの手を引き屋敷へ向かう。ハーゼ卿は先導するようにそのままき客室へと通される。使用人により、珈琲が用意され菓子と共に提供される。
「ありがとうございます。」
「して、大尉。何が起きた。」
「…一応機密なので、閣下にはオフレコでお願いしたい。」
頷くのを確認すると、口を開く。
「マイラント伯が社会主義者に暗殺された事はご存知でしょう。国防予備軍は帝都内部の共和主義団体や社会主義団体を一斉摘発。指導者層を一挙に処理しました。その結果、皇帝官房第三部のオーランデンが支援していたことが発覚しました。ヴィルヘルム殿下は無能故に殿下が皇帝になれば帝国は滅ぼせると。」
「その通りだな。大尉。貴官は何処にいる。」
「ハーゼ卿私はヴァルトネスの人間です。」
予定ではもう少し地盤を固めてから取り込む予定のハーゼ卿だが、計画を早めても問題は無い。
「ふむ、些か性急ではないか?」
「皇帝官房第三部を手に入れました。」
頭の良い、理性的な人間だ俺の目的と行動の意図を正確に読んだ。
「…まさか、あの陛下が皇帝官房第三部を君に任せるとは」
「正確には、我々、国防予備軍の司令部隷下に皇帝官房第三部が置かれるという事ですが。」
実質的な意味では間違いじゃない。
「なるほど、理解した。委細承知、君の指揮下で動こう。我らは帝国の剣なれど、皇帝の奴隷にあらず」
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