_
わたしの子供ももう16歳だ。
あの日、わたしと岳くんと沙代ちゃんは何事もなく山を下りた。
アレはわたしたちを見守ってくださる神様の試練らしい。
三年に一度、年頃の子供達をお堂に一晩泊めることで神様のありがたさを教えるだけの行事。
「子供が一人持ち帰られる」そうやって脅して、朝まで真っ暗なお堂の中で過ごした子供達に、翌朝神主さんが種明かしをして、神様のありがたいお話を聞かせるだけのつまらない行司も、仕掛ける側になれば面白いものだ。
「あんたらが持ち帰られずに済んだら海外旅行にでも行こうかねぇ……持ち帰られたら旅費が浮くんじゃけど」
わたしたちの冗談を双子の娘達はむくれて聞いている。
岳くんの子供も同年代らしい。
駐車場へ着いてみると、岳くんの奥さんが蒼い顔をして立っている。
「大丈夫ですって。それよりも今日は子供抜きで一緒に夕食でもどうです?」
わたしたち夫婦は岳くんの奥さんに声をかけた。
外の人にも種明かしをするのは禁止されてるとはいえ、いささか可哀想だ。
いたはずの娘がいないなんて気が違ってしまった岳くんのお母さんを思い出して胸が痛む。
私たちの次の世代からは、外の人に「本当は持ち帰られる子供なんて居ない」と教えてあげてもいいのにね。
子供たちをお堂に入れて、私は夫と車に乗って山を下りた。
持って行かれる 小紫-こむらさきー @violetsnake206
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます