持って行かれる
小紫-こむらさきー
持って行かれる
「夏が終わればまーたどうせ宝くじでも当たるから車を買ってしもうたんよ」
大人達が愉快そうに話している。
もう選ばれないから気が楽なものだ。
私の家はとにかく親戚が多い。それもこれも三年に一度、神様が子供を持っていってしまうので多く産むようにみたいなバカみたいな家訓があるからだ。
その代わりにお金持ちになるんだからいいでしょうとはいうけれど、全然良くない。
だって死ぬのがわたしかもしれないのだ。そんなの「仕方ない」なんて思いたく居ないし、可愛い弟や妹が死ぬのももっと嫌だ。
お母さんはお父さんの再従姉妹で、持って行かれなかった子だから平気なんだ。
わたしは唇を尖らせて母親へ態度だけ抗議をしてみせる。
お母さんは私を無視してどこかへ行ってしまった。
夏、わたしたちはご先祖様を祀っている神社へ連れて行かれる。
三年に一度「15歳から17歳までの」持って行かれる年齢の子たちがお堂の中に集められて一晩を過ごすのだ。
私は15歳。例に漏れずに私はそのお堂へ連れて行かれることになった。
「あんたは運がいいよ。美奈ちゃんに岳くん、それに沙代ちゃんまでいるじゃない。お母さんの時なんて二人しかいなかったからすごくこわかったんよ」
バカだ。
人数が多くても死ぬときは死ぬ。
弾が一発しか入ってないから平気でしょって実弾が入ったピストルでロシアンルーレットをさせてみたい。
そんなことを考えてる間に、車はどんどこ進んでしまって山の中へと入っていく。
もう日が暮れかけている。
神社の広い駐車場にはもう車が二台止まっていて、美奈ちゃんと岳くん、それに沙代ちゃんが両親と一緒に蒼い顔をして立っていた。
美奈ちゃんと岳くんのお母さんは外の人だから子供たちと同じような蒼い顔をしていて好感が持てる。
我が子が死ぬかもしれないという親は、普通そういう顔をするものだ。でも、わたしの両親や、沙代ちゃんのお母さん、美奈ちゃんと岳くんのお父さんは平気な顔をしている。
持って行かれた子の家には特に金運に恵まれるらしくて、一人を除いて呑気に宝くじを買っただとか、株に投資したみたいな話をしている。
良心とかまともさとか、そういう心をなくしてしまっているんじゃないかと思う。
妙にツルッとした感じの神主さんがいつのまにかやってきてお堂を空けた。
浅葱色の波模様が描かれた綺麗な着物?みたいな服を着ている。
その神主さんがなにか難しい言葉を話して、私たちはお堂へ閉じ込められた。
スマホもゲーム機も持たせてもらえない。
神主さんに言われた通り、麻の袋の中へ寝転んで目隠しをして待つ。
逃げ出さないように両足と両足を縛られるのも伝統らしい。こんなの児童虐待だ。
でも、お母さん達は何も言わない。
持って行かれることは普通のことだし、持って行かれるとお金がたくさん手に入るから。
私もあんな大人になってしまうんだろうか。
お堂の外が騒がしくて耳を澄ませてみる。
やっぱり、美奈ちゃんと岳くんのお母さんが騒いでいるみたいだった。
ガタガタお堂の扉が揺れる音がしていたけど、それもそのうちしなくなった。
諦めてしまったんだろうか。
外はやかましいくらいの虫の鳴き声と、蛙の鳴き声が響いている。
遠くからは蝉の声も聞こえる。
すすり泣く越えと、それに、ゴロゴロと動く音。
「ちくしょう!あと少しなのに」
岳くんが怒っている。
ドンドンと何度かなにかを叩き付けるような音がして、神主さんが来て怒らないか心配になったけど、何もなかった。
気になってしまってもぞもぞうごくと、目隠しが取れた。
でも、真っ暗闇で何も見えない。
じっと息を顰めていると、今度はガサガサと音がする。
「ダメだよ、岳」
「そんなこと言ってる場合かよ」
ひそひそと岳くんと美奈ちゃんが話している声がした。
岳くんに咎めるように注意されて、美奈ちゃんが声のトーンを落としたので何を話してるのか聞くことはもう出来なくなってしまった。
ひたひたという足音がして、暗闇になれてきた目で二人が部屋の中を歩いていることだけが認識出来た。
時々「ダメだ」という声だけ耳に届く。あの二人は、逃げだそうとしてるのか……と気が付く。
逃げられるのなら逃げたいけれど……とわたしは、おじいちゃんから聞いたことを思い出す。
何年かに一度は逃げる子がいるらしい。でも、逃げ出した子たちの中で大人になれた子はいない。
持って行くものを用意できなかった家の人は何故か凄惨な死を遂げるからだ。
きっと美奈ちゃんと岳くんのお母さんは外の人だから、それを信じていないし、子供にもそう言い聞かせてたんだろう。
あーあ。可哀想。それはそれとして、二人が外に出てしまうのは困る。
私と沙代ちゃんの二択になってしまう。
どうしようかな……二人に逃げたらダメだよって注意するにも、こういうときに気が立っている同年代の男の子を怒らせてしまうのは怖い。
さっきもダンダンと足を打ち付けてたし、力も強そうだ。
どうやって持ち帰られてしまうんだろう。
そんなことを考えていたら、いつのまにか辺りがシンとなっていた。
ドンドンドン
ドンドンドン
ドンドンドン
壁を叩く音がする。
ドンドンドン
ドンドンドン
ドンドンドン
ドンドンドン
ドンドンドン
ドンドンドン
繰り返す音は段々と強くなってくる。
「もういや」
美奈ちゃんが叫んで、岳くんの影が壁に体当たりをするのが見えた。
でも壁はビクともしない。
―て~~ええええぶうぅぅうしのな~~~かにぃぃいいいぃぃぃいいいなああぁぁぁにい~れるううぅぅぅぅうううう
―て~~ええええぶうぅぅうしのな~~~かにぃぃいいいぃぃぃいいいなああぁぁぁにい~れるううぅぅぅぅうううう
変な歌と一緒にずずずずずとなにかを引きずるみたいな音が近付いてくる。
男の人が下手くそな裏声で歌ってるみたいな気持ち悪い歌は耳元で五月蠅いくらいに響いてる。
―い~~~~~っちょば~~~~こや~るかあぁぁぁらまああぁぁあるめええぇぇてお~~~~くれええぇぇえええ
手足が勝手に引っ張られて身体がまるまっていく。
背中が痛くて釣りそうになるし、気持ち悪い歌声は鼓膜を破りそうなくらい大きい。
―まああぁぁあるめええぇぇてお~~~~くれええぇぇえええ
―まああぁぁあるめええぇぇてお~~~~くれええぇぇえええ
自分では見えないけど、私は麻袋ごとお腹の中に居る赤ちゃんみたいなポーズになってると思う。
すぐ近くでばきばきばきという音がする。
いつのまにか美奈ちゃんと岳くんの声は聞こえない。
―てぶしのなぁあああああかにいいぃぃぃ
暗いはずなのに目の前に急に真っ白な顔が洗われる。
真っ赤な瞳をしたソレの口は化け物みたいに口が耳まで裂けていて鋭い牙を剥いてニッと笑ったような表情をしてこちらを見ていた
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