2. 蹂躙

 担任の先生が現れた時、救われた気がした。僕は、三人の男から、暴行を受けていたのだ。怖くて怖くて仕方がなかった。先生なら、こんな哀れな自分を救ってくれる、そんな甘い考えを抱いていた。


「何してるんだ!茅!止めなさい。血を流しているじゃないか」


 先生は、僕を殴る蹴るなどの暴行に及んだ三人ではなく、なぜか僕に向かって注意する言葉を浴びせた。


 なぜだ。どうしてだ。僕は、同級生を救おうとしただけだ。むしろ、被害者だろ!


 心のなかで、そう叫び、僕は、相当、錯乱していたのか、先生に向かって敵意を込めた目で睨んだ。


「なんだ、その目は、全く反省の色が見えないな。この子たちに、謝れ!」


「謝罪!なぜ、僕がそんなことをしなければならないのですか。僕は彼らが、この子をいじめているのを止めに入っただけですよ!」


 僕は、いじめられていた同級生を指さして言った。


「そうなのか?どうなんだ?」


 先生は、すかさず、同級生に確認するが、同級生は、いじめていた男たちの険しい顔色を見るや否や、耳を疑うようなことを口に出した。


「いえ、この人が、僕をいじめて来ました。三人は、何も悪いことをしていません」


 いじめられていた同級生は、恐怖に屈したのだ。助けられた恩よりも、いじめられっ子に、植え付けられた恐怖から逃げることを優先した。


「はっ、ふざけんなよ!せっかく、助けたのに」


 僕は、同級生の懐を掴むと、先生の言葉が、横から飛んできた。


「もうそれ以上、その子をいじめるのは止めなさい。そんなことをして心は痛まないのかね」


 先生は、僕を蔑むような腐った目で言った。僕を、価値のない生ゴミかなにかだと思っているに違いない。


「いじめる訳がないじゃないですか。先生は、誤解をしています。諸悪の根源は、ここにいる三人組だ!」


 僕と先生の会話を聞いていた三人は、ここぞとばかりに、調子の乗った言葉を言い放った。


「こいつが、いじめてたのを助けようとしたら、殴られました。どうしようもない屑です」

「多分、こいつは人の痛みなんて分からないのでしょう。だって、こうやって、人を傷つけておいて何の罪悪感も抱いていない」

「謝ることもせずに、俺たちに罪を擦り付けようとしている。下道の極みにちがいありません」


 三人は、いじめを行っていた張本人にもかかわらず、僕を陥れようと、僕を軽蔑の目を見ていた。先生もまた、三人の言葉を聞いて、そういった目で見た。


「違う、違う、違う!どうしようもない屑なのは、こいつらだ。僕のせいにして、何の罪悪感も抱かず、自らの行動に責任を持とうとしない。こんな奴らの言うことを信じてはいけない。先生、信じてください!僕は、嘘などついてはいない!」


 先生は、目線をそらし、言った。


「もういい。認めろ。いじめられた本人が、お前がいじめてきたと言ってるんだ。それ以上の証拠がどこにある。反省文を書いて提出しろ。分かったな。それで、なかったことにしてやる」


「そんな......」


 体の力が一瞬にして、抜けて崩れ落ちた。そんな僕の様子を見て、三人はうっすら笑みを浮かべていた。


 どうして、いじめたこいつらが僕を見下ろして、笑みを浮かべているんだ。


 ああ、そうか、多数派が少数派を踏みにじる世界。それがこの世界だーー。


 これで、済んだらまだよかった。だが、僕を更に追い詰める出来事が、これから先、待っていたのだった。

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人妖魔国伝 東雲一 @sharpen12

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