最終話 縁を切る者、結ぶ者

 これで良かったんだ。夕さんに用意してもらった着物に着替えながら、考える。もう、心残りも迷いも無い。


「おい、着替えたか? 」

「まだ! まだ入らないでよ! 」


 急いで着替えてしまわないと、蛍が入ってくる。彼、最近は遠慮がなくなってきたんだよね。それほど、私たちの仲が良くなったってことでもあるんだけど。


「はい、着替えました! 入っていいよ」


 私に渡されたのは、黄緑色の着物。蛍の着物は深緑色……夕さんも狙ってるよね。蛍が私の部屋に入る。


「ど、どうかな? 」

「似合ってる。その、可愛い、と思う」


 蛍が恥ずかしそうに言う。彼は口に出すのが苦手らしい。その分、行動で示してくれるんだけど。どっちにしても、私は嬉しいし恥ずかしい。畳に座った蛍が、私に細長い箱を渡す。


「プレゼント。開けてみろ」


 言われた通りに、箱を開けてみると、中にはかんざしが入っていた。赤い花が付いた簪が。


「わぁ、ありがとう。髪が伸びたら使うね」

「ん。楽しみにしてる」


 そう言って、私の髪をくしゃくしゃにする。彼の耳が、ほんのり赤くなっているのが見えた。照れ隠しか。


「にしても、変な話だよな。縁切りの神が結ばれるなんて」

「確かにね」


 此処、蛍光神社は有名な縁切り神社。その神様と女子高生が結ばれたんだ。本当に不思議な話だな。


「いつか、結月の気持ちが決まったら……嫁にするからな」

「おっ、嫁にもらってくれるんだ? 」

「ったりめーだろ」


 堂々と、でも照れながら言った蛍が面白くて、思わず笑みがこぼれる。私も彼と結婚できるなら嬉しい。でも、18になるまでは待ってほしいかな。嫌ではないし、嬉しいんだけど、法律的にというか。気持ちの問題というか。


「そういえば、これって神隠しになるのかな」

「今更かよ」


 なら、私は失踪したことになってるのか。何か神隠しって、怖いというか、悪いイメージがあったんだけど、こんなに幸せな神隠しもあるんだな。なんて考えていると、蛍が言った。


「結月には責任を取ってもらわねぇとだかんな。俺との縁を結んだ責任を」

「縁を結んだ? 私が? 」


そう聞くと、蛍はニッと笑いながら言う。


「だって、お前の名前、月だろ? 」

「あはは、確かに」


 部屋の中に私と蛍の笑い声が満ちる。本当に、幸せだな。


「これからも、よろしくね。蛍」

「あぁ。こちらこそ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

縁を切る者、結ぶ者 淡月雪乃 @awayuki_728

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ