第8話 縁を切る

「本当に良いんだな? 」

「はい。お願いします」


 親との縁は一応、残しておくことにした。一応、親は唯一の存在だから。それで今日はというと、学校の人との縁を切ってもらうことに。


「で、何で身構えてんだ? 」


 彼の手には刀が握られている。縁を切るための太刀で、縁以外のものは切れないらしい。分かってる。分かってるんだけど、怖いというか……いや、怖い。


「まぁ、気持ちは分かります。でも大丈夫ですよ。さっき、柊が斬られてたでしょう」


 太刀は、柊さんをすり抜けていた。頭では分かっていても、本能的に恐怖を覚えてしまう。


「……面倒だから、目を閉じてろ」

「はい」


 腕を前に出す。縁は手や手首に繋がっているらしい。指先に風が当たる。刀が振り下ろされた音と共に。


「終わったぞ」


 頭に、ぽんっと手が置かれる。大きくて優しい手。


「ありがとうございます。頭を撫でるの好きですね」

「何か落ち着くんだよな。嫌か? 」

「嫌じゃないです」


 彼の顔を見上げると、彼は優しく微笑んでいた。心臓が跳ねて、思わず目を逸らす。この前から、こんな調子だ。出会った時よりも、蛍様がかっこよく見える。これが、恋なんだろうか。


「戻りましたー! 」


 柊さんだ。彼は、私があっちから持ってきた物を、家に置きに行ってくれたんだ。蛍様が私の服を引っ張る。


「何ですか? 」


 彼は無言で、自分の膝をとんとんと叩く。えっと……。蛍様の膝の上に座る。こういうことだよね。蛍様は私の体に腕を回す。頭を肩に乗せ、私に尋ねた。


「結月は、俺のこと好きか? 」


 声が耳元で聞こえ、脈が速くなる。


「は、はい。好きですよ」


 心臓の音が耳に響く。顔も熱い。でも嫌じゃない。


「そうか。なぁ、敬語は止めてくれないか。それと、蛍って呼んでくれ」

「え、あっ、分かった。でも、呼び捨ては……恥ずかしいから、もう少し待って」


 正直、今はこれだけでも精一杯だ。彼は「んー」と曖昧あいまいな返事をした。でも、いつか蛍って呼びたいな。いや、呼ぶまでしつこく言ってくるだろうな。


「あの、いちゃつくのは良いのですが。私たちのいない、2人きりの時にお願いします」


 夕さんが言った。柊さんも頷いている。でも、蛍様……蛍は私を離そうとしない。どうしたら良いんだろうか。2人(で合ってるのかな)に助けを求めたが、2人は無視して部屋から出て行った。まぁいいか。背中から彼の体温を感じる。離してもらえるまでは、このままで。

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