第7話 決心

 ずっと私には居場所と呼べる所がなかった。でも、ようやく見つけられた気がした。まだ数日しか一緒に過ごしてないけど、皆は私を家族のように思ってくれている。それが、すごく嬉しい。


 此処に来てから全くスマホに触れてない。だからなのか、此処が特別な場所だからか分からないけれど、充電しなくても大丈夫だった。でも、もう必要じゃなくなるのかな。


 そう思っていると、スマホが鳴った。なんだろうと画面を見ると、母親からの電話だった。ずっと連絡なんてしてこなかったのに、どうして。嫌気、嫌悪、よく分からないものが、全身に走った。


「結月さん? どうかしましたか? 」


 夕さんの声だ。


「結月さん、顔が真っ青ですよ。大丈夫ですか? 」


 首を横に振る。大丈夫じゃない。嫌だ、話したくない。嫌だ。早く、早く、鳴りやんで。耳を塞いで、うずくまっていると、暖かいものが私を包んだ。


「結月、何があった。話せ」


 私を心配してくれる声だ。……暖かい。


「蛍、様。私っ……」


 彼の顔を見た途端、安心して涙が零れてきた。蛍様の首に腕を回すと、彼も抱きしめてくれて、背中をさすってくれる。今まで、母の前で泣いたら怒られていた。だから、いつも気持ちを殺してきたんだけど、何故か彼の前では上手く殺せない。


「落ち着いたか? 」

「はい……。すみません」

「謝んなって。それで、何があったんだ? 」


 蛍様に、母親から電話がかかってきたこと、そして私の家について話した。


 私の家族は、私と母、父の3人だった。私が小学5年生の時に、父は他界した。心不全だった。それから、母は変わってしまった。毎日、違う男の人を家に連れてきたり、帰ってこなかったり。


 いつか分からない、覚えてないけど、他の男の人との間に子供ができた。そして、私のことは放っておいて、何処かに行くことが増えた。元々、母は子供が嫌いだったみたい。いつも理不尽なことで怒られて、謝って……。辛かった。


「だから、結月は家に帰りたがらねぇし、よく謝ってんのな」

「癖になってるみたいです」


 蛍様は私の頭をくしゃくしゃと撫でる。彼の方が辛そうな顔をして。「なぁ」と言いかけた、彼の声を遮って言った。


「私、ずっと此処にいたいです。蛍様の傍にいさせてください」


 やっと決心がついた。まだ、恋とか好きとか分からないけど、私は蛍様の傍にいたい。普通の人とは違う、普通の人のような生き方はできなくなるかもしれないけど。多分、これが1番幸せなんだ。


「良いに決まってんだろ」


 はにかんで彼は言った。これから、どうなるか分からないけど、彼……彼らとなら、どうにかなる気がする。幸せに、なれる気がする。

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