おわりに

 ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。不妊治療に対して、皆様のイメージが少しでも広がっていれば幸いです。最初に断った通り、字数の都合で内容を圧縮したため、全体的に説明不足な感じは否めません。ですが、何をするか知らない方向けに、概要はおおむね紹介できたのではないかと思います。


 全体的にあっさり書きましたが、不妊治療を何年も続けていると、かき混ぜ忘れたコーンポタージュのようにドロドロとした感情が発生します。読み物として面白くするならば、本来はそのドロドロにスポットライトを当てた方がいいのですが、すべては規定字数お前のせいだ。来年のカクヨムコンテストでは、長編にも是非エッセイ部門を設けて欲しいところです。もしくは今回この作品が受賞したら、刊行時に喜んでエピソードを書き足しますが、この発言は完全に落選フラグそのものですね。


 最後に1つだけ。なかなか妊娠しないと、精神に余裕がなくなり、周囲が見えなくなってしまう瞬間というのがあります。私も経験者なのでわかりますが、子供が欲しいというささやかで幸福な願望が、出産しなければ自分には価値がないという執念になり、その汚泥が積もり積もって恐ろしい無限の底なし沼となるのです。でも、だからといって、誰がその女性を責められるでしょうか。だって、それだけの執念がなければ、乗り越えられないのが不妊治療なのですから。


 なので、もし自分の大切な人が余裕をなくしていたら、無理に励まさず大きな心で見守って欲しいなと思います。そして、出産するにしろ諦めるにしろ、本人が沼から解放された時に優しく迎え入れてあげてください。私の場合は、息子を失うという最悪の形で、ある日突然その沼から解放されました。もう汚泥はありません。澄み切った何もない世界です。そして気付きました。一見マイナスでしかない汚泥も、本人にとっては大切なものであり、第三者が勝手に取り上げるべきではないのだと。


 不妊治療は、努力すれば必ず実る世界ではないですが、皆様の辿るストーリーがハッピーエンドであることを願っています。


2021年11月30日 常木らくだ

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孕まない女(不妊治療体験談) 常木らくだ @rakuda_tsuneki

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