第21話 41.dancingBLUE 42.BreakFree
手力男が命を落とす30分前、沖合いで鬩ぎ合う二隻の船。
ノーマークが指揮を執るドクターの4号船。
「全く趣味悪ぅ」
ロンが赤い冷蔵庫の中を探る。
「よく冷えた銃弾、見っけ」
「こら、勝手に触らない」
「あいよ。ノーマークさん、あのふたりは?」
タワーとタップは、軍所有の高速船が難民を乗せた船を蹴散らし、そのまま転覆する。
即座に救出を試みている。
「ジオ、あんた見損なったわ!」
タワーが憤る。
「タップ、あんたからは難民船が見えていたはずよ?」
「丸見えだよ。でもジオが高速船を追っていて難民船が沈没したことに全く気付かないなんてことある?」
「さあね?あんたはジオの肩持つの?これを見ても」
強く跳ね飛ばされ船の残骸に蹲る少女たち。
「きっと何かあったんだよ」
「タップ、あんたはおめでたい人だね?いつからそんなに」
「タワー、そりゃないよ。あんたこそジオに救われたじゃないか?忘れたの!って言わせたいなかしら?あなたの兄弟たちのこと、ジオは知らないかも知れないけどタワー、あんたは感銘を受けたはず」
つかみ合いのケンカが始まる瞬間、
「全くあんたら何してんの!」
ロンが問い詰める。
自前の双眼鏡を覗く。
「何も起きてないじゃない。仕事して!」
「ねえ、見えないの?」
タップがロンに問い質す。
「綺麗な海が、青々とした海がどこまでも果てしなく続いているよ。さあ仕事して、ジオをひとりにしないで」
そこにノーマークがやや凄んで現れて、
「また、ジオが勝手に行動したの!今度ばかり許せないッ!」
「ってちょっとそれ乱暴な」
タップが口出しすると、タワーが詰め寄り、
「タップ、あんたもうその口を開いたの?」
タップを蔑む。
ロンは全くこの状況が判らない。
「何なの?」
何も起きてないのにクルーが仲間割れ。
「何をぼやっとしてるの!早くジオをとっ捕まえて、今後の指揮はあたしが執る」
「いや、もう執ってんだけど」
「ロン、今なんか言った」
さっきまでのノーマークではない。
あの威圧的で無駄を嫌うノーマーク、今日は増していつもの冷静さがない。
いつでも誰かに成り済ませるけれどそれは最後まで奥の手として残している。
そんな彼女の知性はいつでも吐出している。
ジオがキーとしてチームに存在することを一番理解しているのが私たち、中でもノーマーク、あんたがそんなことを口が裂けても言うべきじゃなかった。
「…今度ばかりは許さない」ってさ。
でもノーマークを攻撃することは容易い。
他のみんなはどうだ?タップは理解してくれそうだけどタワーは、ノーマークを攻撃したあたしを許さないだろう。
さて、どうしたものか。
と、腕組みをするロンだった。
(あ、ロンそんなに時間ないよ。5分20秒後※小説内では22行先に敵と対峙するからね)
「あたしは他のお人好しさんと違って分析なんかしない。あたしは怒っている。なんで、あんたらは今日同じ首飾りをしている?気色悪い冷蔵庫を開けたら銃弾の横にキラキラ光ってたぜ」
「…」
「ノーマーク、あんたは触るなって言ったから、あたしは触んなかった。ノーマーク、あたしの目が可笑しいのか、あんたらが意地悪なのか教えてくれ!」
「何を言っているのかよく判らないよ」
タップが遮る。
「ロン、少し寝てな」
肩を叩く。
「首飾りは?」
タップの首には首飾りはなかった。
「だから言ってるんだ。上陸後、ロン、あんたは休んでて構わない」
タップに促されベッドに直行するロン。
ロンのスマホにはアリアナ・グランデのBreakFreeが着信を知らせる。
誰から?
「了解」
先ず、ノーマークを制圧だね。
簡単さ。
タワーは、力任せだ。
タップを出汁にタワーを操れる。
「こういった連携はいとも容易く崩すことが出来る。バカな外れ者が加わることでチームの中から容易く崩せる。見ろよ。とんだ阿呆だ。アハハ…ハハ」
ナターシャとショコラティエが乗船する指揮系統を司る船がロンらの4号船の後から忍び寄る。
「そんなわけあるかあ!」
ロンは寝床を抜け出し、独り救命ボートで後続する船を待ち構えた。
ロンは何も考えなかった。
「今度ばかりは許さない…それってアレのことくらい」
ロンは体の硬度を高め、救命ボートの急進する出力に合わせ体当たり船底に大穴を開け船を沈めた。
ナターシャとショコラティエは沈み行く船に泣く泣く逃げた。
ショコラティエの冷蔵庫作戦はよく分からないまま、海底へ消えたとさ。
ただ、ジオの哀しみは尽きない。
何故?
手力男の死はこの場で起きたのか?
呆然と見つめる。
激しい横波にもめげず甲板に長時間佇むジオ。
4号船はジオを無事救出。
その際、手力男こと、長身の千代田重森の遺体を乗せた。
senseセンシス コバヤシオサム @osamu-kob
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