ドーナツ説

 時間軸は実は直線ではなく、輪の形をしている。そしてこの宇宙はその輪に沿って置かれた『ドーナツ』だ。

 このドーナツはグルグルと回り続けており、時間のある一点である『現在地の宇宙』は『現在地点ポインター』がドーナツの切断面の一つを差すことによって現在地点たりえている。ドーナツの回転運動によって、停止しているポインターが差す場所が変わり、これにより『時間』が過ぎていく。つまり『ドーナツの回転』イコール『時間の経過』なのだ。どんどんドーナツが回っていくと、つまり未来に進んでいくと、そのポインターは前に差していたことがある部分にも到達することになる。ドーナツは円環だからだ。過去は未来であり未来は過去である。

 そうしてこの宇宙ドーナツはすでに何順かしている。二、三回くらい。

 ドーナツの上位の五次元の視点ではさらに多数のドーナツが無限に重なった状態を観測することができ、この宇宙とは物理法則のかなり違った宇宙、回っていない宇宙、高速回転する宇宙、逆回転する宇宙、小さい宇宙、大きい宇宙、ポンデリング、抹茶ポンデリング、フレンチクルーラー、オールドファッションなど様々なドーナツがあるという。

 しかしこの昔からの説に少しだけ違った説が(大もとでは同じであるものの)出てきている。

 ドーナツ説では時間の流れが乱れたり一定ではないことがあることの説明がつかないというのだ。

 最近になって、時間の流れが場所によって乱れたりしていて一定でない、と認めなければならない事象が多く報告されている。例えば「耳なき蒼いロボ」、「NetHack3.4.3」、「厄の王者」、「ミ=サクラ・ナンキョクのペンギン」や「ウヘヒッパエの赤い齧歯類」の存在はドーナツ説では説明できない。

 そして発表されたのが「宇宙は『ドーナツ』ではなく『ピザ』だ」として説明をつけるデーヴ・デモクッテロ博士の説である。

 我々の住む宇宙の、我々が知覚できる範囲はピザの断面のうちのごく小さい一部であるが、ピザの断面はそうキレイではなく、チーズが伸びたりサラミがこぼれ落ちたりアンチョビを食べるタイミングを計ったりするために時間の現在地点ポインターはブレを起こし、観測される時間の流れはこの地球上だけにおいても少しブレているのだ。

 デモクッテロ博士は「タバスコブランド・ドライブ・エンジン」という時空間ワープ装置を開発中で、これが完成すればピザ説を決定的に裏付けることになるだろうとコメントしている。

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