アイス=メイジ ダリア

 彼女は幼少の頃、近所の幼馴染とケンカをしたとき能力に気付くことになった。アイスキャンディをとられたことで幼馴染とケンカになり、つかみかかり、アイスごと幼馴染を地面に投げた。そのとき、転んだ幼馴染の服に氷だか霜のようなものがついていたのだ。真夏には似つかわしくなく、幼馴染はそれがアイスのカケラだと思っていたが、ダリアはそれを自分が何らかの力で発生させたものだと気付いた。

 彼女はアイス売りの老婆にそれを話した。老婆は以前から「あたしは魔術師なんだよ、ひひひ」といっていた。そして今回ダリアは老婆が魔術師だと信じたと、老婆に話した。

「おや、本当に魔法なんてのがあると思ったのかい、ひひひ。あんたはもう少し、だまされないように注意したほうがいいね」

 そのように老婆は魔法を否定した。ふだん魔術師を名乗っていたのにもかかわらず。

「あたしをからかってもなんも出ないよ。アイスが欲しいならお金を出しな、ひひひ。それか「あたり」の棒か」

「いやでもわたしが……わたしがその、出したんです、氷を」

「それじゃあもう一回やってみれるかい? ひひひ」

「できると思います。そう、こうやって手でこう何かを掴んで」

 右手で自分の左手首を魔法の杖のように掴む。

「ぐいって上のほうにひねって……」

 ぱきゃん、とごく小さな多面体の氷のかけらが、左手に出現すると同時に砕けてぱらぱらと散る。

「ほら!」

「……こいつはおどろいた」

 老婆は心底感心したようで、同時に、二十年ぶりに昔の友人に出会ったような和らいだ表情もしていた。

 ダリアは誇らしかった。

「これって魔法でしょ?」

 老婆はおもむろに語りはじめた。

「あたしのアイスにはね、魔法のもとが少しばかり入っているのさ。その魔法のもとは、隠れた魔法の素質がある人間が食べたとき反応してその素質を一時的に引き出す。それで「アイスの棒」があるだろう。あたしのアイスの棒は、魔力を持ってしばらく握ると「あたり」がうきでるはずだったんだよ。ひひひ、でも、あたしの作った「あたり棒」の感度も弱くて反応しなくなってるみたいで、あたし自身が持っても「あたり」が最後に出たのはもう二十年前かね、ひひひ。あんたはあたしより強い素質を持っているね。そりゃ、アイスの魔力がきちんと反応するほどの素質があるに違いないさ。ほれ、この棒で魔法を使ってみな」

 老婆は普通のアイスの棒の二倍くらいの大きさの棒をダリアに手渡した。

 『ガリガリ・ヒュージ』という商品の一部であるそれは、「当たりが存在しない詐欺」だという訴訟がなされたことで有名なアイスの、棒だった。

 ダリアが再び氷を出す動作をすると――右手でなにかをつかんでいることが魔法の動作を助けると彼女は学んだ――びゅう、と無数の細かな氷のきらめく風が棒の先から上に向かってふき出した。そして棒には「あたり」の焼印がうきでていた。

 ダリアはそれから氷の魔術を密かに習うことになり、やがて非凡な才で最強の攻撃魔法をも身につけた。


 ダリアはその後『百秒戦争』とよばれる世紀の大決戦で、最強魔法エターナル・フォース・ブリザードを使って活躍するのだが、それはまた、別のお話。

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