【リドル】「数毬島」

 青く広がる大海原。微風によって静かに進む小型帆船の甲板上、二人の人間が釣り糸をたらしていた。


「釣れないね」

「食べられないフグが釣れたじゃない」


「食べられないのはノーカンだ」

「まさに外道」


「外道ってなんだっけ?」

「ジョーカーに含まれない魚のことじゃなかったかしら」


「赤か黒かって話? アンネッタ」

「じゃあ違うのかな」


 釣果とジョーカーを間違えた女性の名はアンネッタらしい。

 となりでアクビをしている人間に、


「ヴィカならフグくらい簡単にさばけるんじゃないの? 器用だし」

 とフグを差し出すアンネッタ。

「ぼくは器用だったのか。初耳だ」

連鶴れんづるとか作ってたじゃない。折り鶴が三体尾とクチバシでつながってるやつ」

「意外と誰でも出来るよ。自転車に乗るみたいに」

「わたしはアレができなくてローゼン野井寸前だったわ」

「ノイローゼのこと?」

「いえ、ローゼン野井よ」


「ていうかフグと折り紙は全然関係ないだろ」

「まあそうかもね」


「……」

「……」


 またしばらく釣り糸を眺めたり寝転がったりして、いると、積乱雲が見えてきた。


「西からくるぞ」

「土砂降りがきそうなのは確かね」


 その一分後……

 土砂降りが来た。


「うわっ! 流される!」

「ちょ、ヴィカ!」


 ドボン!


 そして悲鳴。

「ごぼっごぼっ救け――」

「だ、大丈夫じゃなさそうね! コレに捕まりなさいよ!」


 ――アンネッタは釣り糸を投げ入れたが

 ――あわれ、ヴィカは波に飲み込まれ

 返事がなくなった。

 風と、揺れる船にぶつかる波の音だけが聞こえる。


 * * *


 10分ほどして……

 天気は再び晴れになった。さっきまでの嵐はどこへ行ってしまったのやらというほどの、凪の海に戻った。

 しかし、相棒ヴィカはどこかへ流されていってしまった。


 やがて、陸が見えてきた。


「しかたないわね。任務は私一人でなんとかしないと」


 ヴィカは「しかたない」ことにされてしまった。


 * * *


 アンネッタは小型接岸用ボートをおろし、上陸した。


「ここがシュルーム島であっているのかしら……」


 とくに舗装もされていないところを見ると任務と全然関係のない無人島かもと思われた。しかし、無人島ではなかった。


「なんか歩いてくるわね……怪しいわ」


 キノコのような怪しさだった。

 怪物(怪しいブツ)はアンネッタの目の前まで来ると、言い放った。


「おおっとそれまでだ。金目のモノを置いていきな。噛まれたくなかったらな! 横から触れると噛むぜ? ヒャハハハ!」


 アンネッタはギルド支給のジャンプ=ブーツを使い、身長の5倍ほどの高さのジャンプをした!

 そして怪物を上から踏んだ!


「グアァァァ!」


「『エゴ・テ・アブソルウォ』……」


 しかし、怪物はムクリと起き上がった!

 なんということか!

 キノコのようなものがムクリと!


「オマエ……強いな……まさかオレが上から踏まれると倒れると見抜くとは!」

「それほどでもない。じゃあ、さようなら」


「ちょっと待ってくれ! その強さを見込んで頼みがある!」

「面倒そうね……頼みとかの前に、人間を見かけなかった? わたしよりちょっと若い感じの茶髪のセーラー服の子なんだけど」


「すまない、人間はこの島には1人しかいない……正確には『半人』だが」

「そう……じゃあ、いちおう頼みとやらを聞かせてくれないかしら」


「その『半人』は『姫』と呼ばれている。

 シュルームキングダムの『姫』だ。おれたちクリトヴォン族は姫に仕える戦士の一族なんだ。

 だがいきなり姫が魔王クパァに誘拐され、仕方なくクパァのためにシュルームを裏切ってクパァ城を守ることを強要されたんだ。オマエほどの凄腕ならクパァを倒せるはずだ! 頼む! もちろん、人間を探す手伝いもしてやれる……

 グヴォッ!」


「だ、大丈夫?」


 沈黙。クリトヴォンは血を吐いてしんでしまったようだ。なさけない。

 しかし、もう一度機会をあたえられたかのように空中に浮遊しだした。


「まさか死んでしまうとはな。アドバイスをしてやるからついてきてくれ」

「浮遊霊と一緒にいくことになるとは」


「とりあえずそこの箱を見てくれ」

「この『?』が書かれてるやつ?」


「たたくときのこがでてくる」

 アンネッタは叩いた。そして、でてきたオレンジ色のキノコが美味しそうだったので触ってしまった。

 

 トゥリトゥリトゥリ!


「ち、力が沸き起こるぅー!」


 さながらスーパーアンネッタといったところか。身長が倍くらいになった。


「すばらしい! 菌類に選ばれしオマエならば、クパァを倒すくらいどうということもないだろう!」

「菌類? まあいいか」


 こうしてアンネッタはクパァを倒すために、このシュルーム島の最奥クパァ城への旅を始めることになった。


「そうだ、ヴィカはどうしたんだろう」


 アンネッタはスマホを取り出し、メールを送信してみた。

 すると返信があり、


『今、姫様とギルティギアで対戦してていそがしい。ゴメンね。あと1時間くらいしたらそっちいくから』


「ヴィカ……」

 アンネッタはさらにメールを送った。


『そこにクパァはいる?』

『いるけど?』


『じゃあ、姫様を連れてでてこれそう?』

『ああ、別に監禁も軟禁も監視もされてるわけじゃあないから出れるよ』


『さっさとそうして』

『なんで?』


『なんかクパァを倒さなきゃならないらしくて』

『へ? クパァはいいやつだよ。ぼくが溺れて海岸に漂着してるところを救けてくれたし。倒すなんてとんでもない』


「どういうこと?」

 アンネッタはクリトヴォンの幽霊にたずねた。

「『姫』が邪道に落ちたな」


 アンネッタは困惑した。はたして、どちらがいいやつなのか?

 熟考の末、アンネッタは決意した。


    [了]








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