第9話インスピオ戦役編「転戦」

 戦線南部は後発隊の到着もあり、事なきを得た。だが、帝国の進行は収まってはいない。北部へ向けての転戦を余儀なくされたシノア達特務隊は、傷も癒えぬ中、北上を開始した。




 戦線中部は敵魔導部隊の配置が多く、偵察・弾頭観測手は集中的に狙われ、地上部隊は砲撃標準もままならず、一方的な戦況となっていた。




「ここはもう持たない!! 本部はなんと言っている!!」

「撤退は許可しない。そのまま戦線を維持せよとのことです!!」

「この状況で戦えと!? クソッ、本部は前線のことをまるでわかっていない!!」




 寄せ集めの魔導部隊は敵の数に圧倒され壊滅。半ば自棄気味に塹壕から飛び出した者は、魔導狙撃手に撃たれ次々と倒れた。


「死にたくない……。」


 誰かがそう呟く。だが、次の瞬間にはもの言わぬ骸と化した。塹壕に隠れ反撃をしようにも弾測はままならず、突撃をすれば鉛の雨が降る。隠れ続ければ魔導爆裂弾が飛んでくる。だが撤退は許可されない。ここで死ねと言われているも同然である。兵士達は諦めかけたその瞬間、六つの光が敵魔導部隊を包み込んだ。



「な、なんだあれは……。」

「あれは……銀……翼……? 天……使……か……?」



 感知距離外から放たれた共鳴魔導砲を避けられる魔道兵は少ない。魔導部隊は大半が撃墜、もしくは負傷していた。



「なんとか間に合いましたね。」

「残りの魔導部隊はエリィとメイに任せる。私達は地上の援護に回る、いくぞ!!」

「「了解!!」」



 特務隊の到着により戦線は息を吹き返し、その場は押し返せた。が、北上出来る程に戦況は落ち着いていなかった為、シノア達は留まり補給をすることにした。



「やれやれ、とんだ災難だな。まさかここ(中部)がこんな状況とは……。」

「寄せ集めて無理に編成していますから。仕方ありません。」

「それにしてもひどいよなぁ、あの状況で撤退はおろか、増援も送らないなんて」

「後少し遅かったら、壊滅していたのですよ。」



 エリィは出撃前にシグンの言っていた言葉が気にかかっていた。最新鋭の機密装備を持ち、急襲殲滅が目的である特務隊を非常時とは言え、ここまで前線で目立たせる事は本来あり得ない。まるでわざと特務隊を前面に出し、消耗を狙っているかの様であったのだ。



「裏がありそうね……。」



 軍の上層部に帝国への内通者がいる可能性も否定出来なくなった。しかし、帝国は進行し命令である以上、戦う他ない。不穏な影を残しながらも、次の作戦は進行していった。







 特務隊の次の任務は、中部にある敵補給ルートの偵察と警告。警告に従わない場合この補給ルートを破壊、進行を阻止である。




「確かに、進行を阻止するには補給を絶てばいいが……。まさかこの状況で破壊する前に警告は出せだと? なにを考えているんだ本部は……。」

「すでに戦闘が始まっている状態で警告しても意味がないのですよ。」

「破壊するだけいいじゃんかな」

「補給ルート、簡単に見つかりましたね。」

「こんな簡単に見つかるなんて……。」




 シノア達は補給ルートを発見したが、ここまで簡単に見つける事は想定外でもあった。



「こんなに簡単に見つかる場所を補給ルートにするなど……。罠なのかこれは?」

「どうなんかなぁ?」

「帝国はどういうつもりなのでしょう。」

「きっと指揮官が馬鹿なのですよ。」

「一応罠であることを警戒しておきましょう。」

「まぁ考えても仕方あるまい。」




「進行中の帝国軍に告ぐ。貴国は我が共和国の領土へ不当に侵入し、尚且つ、宣戦布告もないままに侵略戦争を仕掛けて来ている。これは各国で取り交わせし、戦時和平条約に違反している。直ちに侵略を中止し、撤退せよ。」


「繰り返す。進行中の帝国軍に告ぐ。貴国は我が共和国の領土へ不当に侵入し、尚且つ、宣戦布告もないままに侵略戦争を仕掛けて来ている。これは各国で取り交わせし、戦時和平条約に違反している。直ちに侵略を中止し、撤退せよ。尚、これに従わない場合は戦時和平条約違反として、貴軍をこの場にて、即刻殲滅する。」











「撃ってきましたね……。」

「撃ってきたなぁ?」

「撃ってきたのですよ。」

「撃ってきたわね……。」

「撃ってきたなぁ……。」



「……まぁ当然だろう。しかし、敵魔導部隊がいる様子もないが……。やはり罠なのか……?」

「こうなることがわかっているのに、警告を出せという意味がわからないのですよ。」


「撃ってきている弾も、榴弾や貫通弾ですらないが……。本当に帝国も本部もなにを考えているんだ……?」

「もしやあの部隊、帝国に扮しているだけで帝国ではないのでは?」


「魔導兵がいない国となると……。排他主義の教国……? 裏で支援しているのか……? まぁいい。後でジジイに報告を入れておこう。」

「共鳴魔導武装展開。コア連結開始。魔力供給を分散。全弾、炸裂榴弾へと換装。共鳴術式を散弾術式へと変更。魔導兵のいないやつらには、この程度もあれば十分だろう。オイタの過ぎる侵略者共にお仕置きだ。共鳴式炸裂散弾……撃てぇ!!」






 よくわからないまま補給ルートを潰し、増援を絶ったシノア達。中部の指揮官とシグンへの報告を済ませ、中部戦線を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔砲戦記~Magic Break~ 保手十郎 @yasudejuurou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ