第8話インスピオ戦役編「防衛戦」
第一・第二中隊は敵航空魔導部隊、第三中隊は敵の数が多い地上部隊の支援を行うことになった。本来、圧倒的戦力差がある中で、おとりや奇襲、撤退を目的としていない場合に部隊を小数に分けるという行為は愚策である。しかし、戦線防衛が目的である以上、後発の部隊が到着するまで分けるしかなかったのだ。
「うひゃあ、これ多すぎねぇ?」
「ちょっとなぁ、大変やなぁ」
「ちょっと所ではありませんよ。気を抜かないでください。地上支援をしている中隊の所に行かせるわけにはいかないのですから。」
部隊を分けた上に長期戦となる以上、消費の激しい共鳴魔導砲には頼れない。その上、敵航空戦力はこちらの約五倍。まさに窮地であった。
飛び交う銃弾の中、シノア達は奮戦するも一人、また一人と負傷していく。
「後続が到着するまで耐えれば我々の勝利だ!! 負傷した者は下がれ!! 落とされるなよ!!」
いくら特務隊が兵士として優秀であり、膨大な魔力量や兵装を所持していようと、人間である以上数という力の前に消耗は避けられなかった。そんな最中、更に敵増援部隊が現れたのである。それは対地航空爆撃機であった。
「隊長!! 敵の増援だ!!」
「対地爆撃機、高度約一万、数は十やなぁ」
「チッ、あれが本命か……。かまわん!! あれは私がやる!!!」
「しかし!! 我々の上昇高度を超えています!!」
「コアセーフティを解除し共鳴させる。そうすればあの高度は超えられる!!」
「あの高度への急上昇は危険です!! それに可変兵装のコアはまだ完全ではない、限界を超えて出力を上げ続けたら融解……、一歩間違えれば爆発します!! 」
「大丈夫だ。そうなる前に片を付ければいい。スー、ここの指揮は任せる!! これは命令だ!!」
「……わかりました。必ず、ご無事で戻ってきて下さい。」
「私が戻るまで、落とされるなよ!!」
シノアはそう言い残し、急上昇していった。
一方その頃、地上部隊でも苛烈な戦闘が繰り広げられていた。エリィ達、第三中隊の援護により敵の勢いは衰え、何とか保ってはいるものの、いつ戦線が崩壊してもおかしくない状況であった。
「倒しても倒してもキリがないのです。そろそろ疲れてきたのですよ。」
激しい対空砲火を掻い潜り、被弾時は魔導防壁で何とか直撃を避けているが、それにも限界はある。防壁の耐久限界を超える被弾をする者。不意を突かれ直撃する者。中隊の中にも、負傷者は続出していた。
「負傷者は下がって!! 敵の勢いも衰えてきているわ!! 他の皆はもうすぐ後発部隊が到着するから、それまで何としても耐え抜いて!!」
「メイ大丈夫? 今、隊長が敵の本命を落としに行ったと通信が入ったわ。」
「人気者特務隊をこき使うにしても、程があるのですよ。」
「あらあら、メイは可愛いから人気があるのも仕方ないわよ?」
「じょ、冗談はやめるのですよ。」
「メイが可愛いのは本当よ? 後少し、耐え抜きましょう!」
(各中隊や地上部隊も限界は近いが、敵の勢いは衰えてきている。後発部隊も、もうすぐ到着する。後発さえ到着すれば戦況は逆転する。後は敵の本命さえ落とせば……)
「ならばぁ!!」
シノアは高度一万二千まで上昇していた。水平ならまだしも、爆撃機に自機より上空を攻撃する術はない。つまり、より高い高度さえ取れれば、護衛機のいない爆撃機を落とすことは造作もなかった。
「こんばんはぁ?」
「な……なんで上から……」
「そして、さようなら」
一機。
「友軍機が落ちた!?」
「なんだあれは!?」
「この高度に人間が飛んでいる!? 撃つな!! 友軍機に当たる!!」
「馬鹿な!! 夢でも見ているのか……?」
「残念ながら、現実だよ。」
また一機。
「天使……か……?」
「どちらかと言うと悪魔さ。」
「神よ……ご加護を……」
「神なんかいない。もし、いたとしても奴等神は何もしない。助けてはくれないさ。」
「さて、残るは……。」
「後一発が限界か……。だが、今の共鳴出力なら一発もあれば十分だ。……魔導砲撃標準。」
シノアは爆撃機を全て落とした。そして、コアも何とか無事である。出力も限界を迎えてはいるが、飛行可能な最低出力は維持できる。しかし、その小さな身体は様々な負荷により自由を失い、飛ぶことが出来ず落下していった。
が、その小さな身体は銀色の影に抱き止められた。
「アハハ……、ナイスキャッチ。」
「無茶をしすぎです。」
「みんな(特務隊)は……?」
「皆、無事です。問題ありません。今こちらに向かっているので、もうすぐ合流するはずです。敵の魔導部隊の大半は落としましたし、残る魔導部隊も撤退しています。後、後発の部隊が到着しました。彼らに魔導隊の指揮を委ねましたので、地上の戦況もこちらが有利、もう大丈夫でしょう。」
「そうか……。みんな無事でよかった……。」
「隊長。」
「そんな強く掴んだら痛いぞスー、どうした?」
抱き抱えてくれているスーリの手に力が入った。そして、その表情からは、怒りが感じ取れる。
「無事に戻ると約束しましたよね? あなたが皆を守ろうと無茶をすることはわかっています。しかし、あなたはもう少し自分の身体を大切にして下さい。無茶ばかりしすぎです。あの高度から自然落下すれば死にますよ? もし、死んでしまったらどうする気ですか? 死んだらどうにもならないのですよ? わかっていますか?」
「わ、わかってるさ。一応、無事戻ったんだからあんまり怒るなよぅ……」
「……シノア。お姉ちゃんにあまり心配をさせないで。あなたがいなくなってしまったら私は……。」
シノアの頬に一粒の雫が落ちた。ふと見上げると、彼女の綺麗な銀色の眼は紅く染まり、その瞳は光に反射し美しくも輝いていた。
「……ごめんなさい。スーお姉ちゃん。」
ぼやけていく視界の中、シノアはそっと呟いた。
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