第7話インピオス戦役編「拡がる戦火」

 その日、カルス共和国に一報が走った。東の大国インピオス帝国より突如、侵攻が行われたのである。様々な情報が錯綜しその衝撃も収まらぬ中、軍本部では緊急会議が行われていた。


「アラフィアとの戦争もまだ続いているというのに、戦火は広がる一方だな……。」


 シグンはそう呟いた。




「何故急に侵攻してきた!?」

「侵攻状況はどうなってる!! 詳しい情報を集めろ!!」

「西は戦線を維持出来るだけの人数を残せばいい!! ありったけの兵力を回せ!!」

「回せる兵力はどれだけある!? 予備兵力も含めて構わん!! 確認を急げ!!」


 矢継ぎ早に叫び、浮き足立った将官達の表情は焦燥に満ちている。穏健派と侵攻派が対立し、一部将官が力押しで戦火を拡大した為、カルス共和国は疲弊していた。小さな犠牲を繰り返してきたこの国には、大国と全面的に渡り合うだけの兵力は残されていなかったのだ。そして、特務隊にも当然の様に出撃命令が下り、特務室へ招集された。








「今回、特務隊にはその機動力を活かした遊撃転戦を行ってもらう。まずは侵攻の激しい戦線南部へ向かってくれ。戦線が広範囲に及ぶ為、特務隊は前線にて編成されている魔導大隊を指揮し、その後北上、戦況に応じて各自補給、遊撃。消耗戦は避けられんが、全面戦争となる前に必ず停戦させてみせる。それまで前線を維持し、耐えてくれ。」


「はっ!! 了解しました!!」




















「軍内にもなにやら不穏な動きがある。必ず、生きて帰ってきてくれ……。」




 表情にこそ出してはいないが、その言葉を口にするシグンは悲痛に満ちていた。












 南部で特務隊は、航空魔導大隊総指揮を執る第一中隊としてシノア・スーリ。第二中隊にエーファ・リーシャ。第三中隊にエリィ・メイ。と一時的に三隊へと編成された。地上部隊は二個師団程はいるものの、向かうインピオス帝国には航空魔導部隊が三個大隊、機動兵器混合部隊が四個師団と、圧倒的に戦力の差があった。






「おいおい、まじかよ……。」

「圧倒的な戦力差ね。」

「これは少しやばいかもなのですよ。」

「そやなぁ? ちょっと厳しいかもなぁ?」

「でもそんな事を言っている状況じゃありませんよ。」



 上空から見る戦場は、どちらが優勢か一目瞭然であった。そんな中、シノアは静かに口を開いた。



「各員に告ぐ、極めて厳しい戦況であるが、全霊をもって耐え抜け!! ここを抜かれたら祖国に残してきた者の命は無いと思え!! 死ぬなよ!! いくぞ!!」




 暗雲立ち込める中、ここにインピオス戦役の火蓋が切り落とされたのである。

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