第6話幕間「日常」
本部に帰還し、療養と休暇を満喫しているシノア達特務隊の宿舎には、穏やかな空気が流れていた。それぞれが、自由な時間を過ごしている。
スーリは庭にある、木漏れ日が溢れる木の下で読書をしていた。彼女はただ読書をしているだけなのだが、その空間は神話の世界にでも迷いこんだのかと見間違うほど、幻想的な雰囲気に包まれていた。そんな最中、宿舎の方から騒がしい騒音と共に、スーリに助けを求めるシノアの声がした。
「はぁ、騒がしいですね。元気である事はいいですけど、ゆっくり読書も出来ません。」
彼女はそう囁き、本を閉じた。呆れた様子で屋敷の中へ向かう彼女だが、表情は微笑んでおり、嬉しそうでもあった。
嗅いだ者を魅了する、甘いとても良い匂いが漂っている。そこには黄金色でしっとりとした、とても濃厚だがさっぱりと甘い、食べる者全てが魅了される菓子が焼かれていた。
「うん、今回も上手く焼けたなぁ。しーちゃんやメイ、みんな喜ぶといいなぁ?」
二人の笑った顔を思い浮かべ、リーシャは嬉しそうにそう呟やいた。暇が出来れば菓子を焼き、二人に渡す彼女。普段はエリィに怒られる為、あの手この手で渡しているが、今日は滅多にない休暇。普通に渡したとしても、エリィは怒るまい。そう思う彼女の背後には、全員で食べても食べきれるのか怪しい量の焼き菓子があった。
溢れかえる人込み。立ち並ぶ小屋、そこから漂う匂い、店頭に並ぶ物。次から次へと目移りしてしまう。そんな中、エリィとメイは歩いていた。
「エリィ、もう大丈夫なのですか?」
「えぇ、メイがずっと診ていてくれたお陰で、もうすっかり元気よ! メイにお礼しなきゃね?」
「そんなモノいらないのです。メイはエリィが元気ならそれで良いのですよ。」
「ありがとう、メイ。それじゃ、どうしましょうね?」
「エリィの料理が食べたいのです。スーリの作る料理ばかりだと、いつか死人が出るのです。」
「あらあら。今日は腕によりをかけてメイの好きなもの作るわね?」
「楽しみにしてるのですよ!」
「……うっ。」
「どうしたのメイ?」
「なんか悪寒がしたのです。」
「あら、風邪でもひいたのかしら?」
「この感覚は違うのです。きっと、どこぞのド変態がよからぬことを考えているのですよ。」
そんなやりとりをしながら、二人は帰路についた。
宿舎の一室に、なにやら不穏な空気が漂っていた。部屋の中には、なにやら怪しい雰囲気をまとい作業をしている者がいる。
「お、いい出来だ!! これは隊長でこれをメイに……と。これを着せてあんなことやこんなことを……
(た、隊長っだめだっっっ、そんな大胆なっっ!! メイまで!? ふぁあぁぁああぁあぁ!!!)」
妄想全開で悶えた後、エーファは恍惚の表情を浮かべどこかへ走り去った。その時、シノアとメイに悪寒が走ったことを本人は知らない。
湿気を帯びた暖かい空気で辺り一面が白く染まり、浮かべた花びらの香りが心を落ち着かせる。そんな中、シノアはその身を投げだし、ふやけていた。
「んー気持ちいいなぁー。これぞ生きてるって気がするぅ」
シノアは鼻歌を歌いながら、どこのおっさんかと思われる程だらしない格好で満喫している。そんな最中、騒音と共に怪しい陰が一つ。
「隊長ぉ!! やぁっと見つけたぜぇ!!」
「んなぁ!?」
「げっひひひひ、逃がさないぞ隊長ぉ? 大人しく観念しろぉ!!」
「うわっ!? バカッッやめろっっっ!! スー!! た、たすけてぇっっっ!!」
いかに特務隊隊長であろうと、隙を突かれ、装備がなければ普通の少女である彼女に勝ち目は無かった。
「これは……。」
「あらあら……」
「しーちゃん、可愛いなぁ?」
そこには、その容姿を一層際立たせる綺麗な刺繍、至る所にふんだんに使用されたヒラヒラの布、どこのお嬢様かと見間違われんばかりの服を着用したシノアがいた。恥辱に溢れ、ふてくされたその表情が、彼女の愛らしさを更に引き立てている。
「う、うるさいぞお前ら!!」
「ぷぷぷ、シノアにはとってもお似合いなのですよ?」
「メイィ……? お前の分もあるらしいぞぉ……?」
「ぐっふふふ、メイの分がないわけないだろぉ?」
「や、やめるのですよ……? エリィ……助けてなのです……」
「あらあら、ご飯の仕度しなくちゃ……」
「リーシャ……? 離すのですよ……?」
「メイも可愛くなろなぁ? 終わったらなぁ? 美味しいお菓子あげるからなぁ?」
「スーリ……?」
「今はこの可愛い生物をカメラに収める為、忙しいですから。」
「リーシャ!! 絶対に離すなよ!!」
「やめ、やめるのですぅ!!」
この後、白と黒の可愛い生物達が誕生し、スーリは写真を撮りまくった。
悶えに悶えたエーファが天に召される寸前になったことは言うまでもない。
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