何にでもなれる力をもらった主人公が、美々ちゃんを陰ながら手助けする物語。
恋のお話です。おそらくは毎朝繰り返されているのだろう、日々の習慣をそのまま切り取って活写したような内容で、とどのつまりは恋する少年のほのぼの日常ものです。なのかな。ほのぼのどころか明らかに大冒険してるような面もありますけど、でもこの程度の大冒険は実質ほのぼのの内というか、恋してる人の毎日なんて冒険してるようなものだとも思います。
もう本当、読んでてとっても気持ちがいいです。「うっ」てなったり、引っかかったりするような感じがまったくない。なんでしょうこの優しさ……文章が柔らかくて読みやすくて、書かれていることが前向きで勢いがあって、登場人物の言動が瑞々しいのは間違いないんですけど、それにしたってここまで心地いいものでしょうか? なんだか『物語の内容』というよりも『主人公の体験』をそのまま浴びたような気分で、するすると一気に最後まで読んでしまいました。
作中に出てくる文章を引用しますが、
『それは美々ちゃんがくれた力だった。つまり僕は、美々ちゃんを好きになったのだ。』
ここが好きです。このお話の内容をそのまんま表したかのような。力をもらうことが「つまり」で好きになったことにつながる、この考え方とこの世界が本当に好き。うまく説明できないのが悔しいんですけど、ぐいぐい前に拓けていくエネルギーと優しさに満ちた、とても気持ちの良い物語でした。あとテーマというかタグにもある『擬態』的には結びの一文が最高に好きです。