AN EARTH パラレルメモリーズ
スパイ03
第1話『キメろ、必殺!ドロップシュート!』
「シュウ!受け取れ!!」
「させるか!!」
「うおおおお!!必殺!ドロップシュート!!」
校庭にホイッスルが鳴り響く。
「やったな!シュウ!」
チームメイトたちが駆け寄ってくる。
オレの名前はシュウ・アーサ!小学三年生!
その日も、放課後はクラスメイトたちとサッカーをやっていた。もちろん、オレたちのチームの勝ちさ!
そのときは、そんないつもどおりの日常がいつまでも続くと思っていた。
まさか、地球の命運をかけた戦いに巻き込まれるとも知らずに……!
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第1話
『キメろ、必殺!ドロップシュート!』
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「おまえがボールを取られるから負けたんだぞ!!」
「ヒイッ!」
怒鳴り声を上げたのは相手チームのキャプテン、ポリコーだ。その目の前には青ざめた顔の男の子が今にも泣き出しそうな表情で突っ立っていた。
シュウと同じクラスなのにすでに中学生並みの体格のポリコーと並ぶと、まるで大人と子供のようだ。
ポリコーの振り上げた拳が、今にもそいつの頭をかち割りそうになったとき、ポリコーの鋭い目が、シュウを見た。
いや、シュウの向こう側だ。シュウはポリコーの視線の先を追って振り返った。
そこにいたのはメガネをかけた小柄な少年ロイ・クロだ。ポリコーとは対称的に一年生のように見えるが、彼も同級生だ。
ロイはポリコーの視線に気がつくと、「ヒイッ」と小さな悲鳴を漏らした。
「よお!ちょうどいいところに来たな!」
ロイは踵を返し、逃げ出そうとする。
「おい!逃げたらどうなるかわかってんのか!トーちゃんに通報するぞ!」
"トーちゃんに通報するぞ!"それが、ポリコーの口癖だ。
実際、彼の父親は警察官だ。
ロイはピタリと足を止める。
本当に通報されるわけがないとわかっていても、彼の怒鳴り声にはそれだけの迫力がある。
ポリコーは下品なニヤニヤ笑いを口元に浮かべながら、シュウを素通りしてロイの方へ向かってノシノシと歩いた。
シュウはボールを持ったチームメイトのひとりに目配せする。
彼は頷くとボールを地面に落とし、シュウに向かってパスした。
いまや、標的を変えたポリコーの拳が、ロイの頭に直撃する寸前!
「ギャッ!!」
悲鳴を上げたのはポリコーだ!
シュウの蹴ったボールが後頭部を直撃したのだ!
「ロイ!逃げろ!」
駆け出すロイ!しかし、その必要は無かった。
ポリコーはボールを拾い上げ、乱暴にグラウンドに向かって投げると、捨て台詞を吐いて去っていった。
「トーちゃんに通報してやる!!」
それから、校庭をあとにしたシュウはロイと並んで歩いていた。
「助かりましたよ、シュウ」
「いいってことよ!それより、見せたいものってなんだ?」
ポリコーとの一件のあと、「見せたいものがある」と言われ、ふたりはロイの家に向かっていたのだ。
「新しいゲームを買ったんですよ!」
「ゲーム!?ま、まさか!」
「そのまさか!『AN EARTH X』です!」
"AN EARTH X"、国民的人気ゲーム『AN EARTH』シリーズの最新作だ。
いまや、日本三大RPGといえば、ドラクエ、FF、AN EARTHというほどの超人気シリーズであり、新作の発売日にはショップに必ず行列ができる。
例に漏れず"X"も入手困難であり、ふたりとも入手は諦めていた。
「よっしゃ!早く行こうぜ!」
「あ、待ってください!」
はやる思いを抑えきれず、シュウは駆け出した。
AN EARTH Xに夢中になるあまり、注意がおろそかになっていたのだろう。
交差点にささしかかったそのとき、横から飛び出してきたなにかに勢いよく衝突し、転んで尻もちをつくはめになった。
「いって〜!」
「ちょっと!どこに目付けてんの!?……って、シュウ!?」
「あっ!おまえは、サロン!!」
サロン・マックイーンはシュウの幼馴染。家が隣通しで小学校に入る前からの友達だ。
彼女ははっきり言ってかわいい。学校でも人気があるし、マドンナ的存在と言うやつだ。
しかし、学校のジャージの上にグレーのパーカーをまとった姿はオシャレとは言えない。何故かいつも地味な格好をしているのだ。
「シュウ、大丈夫!?」
ロイが心配そうに駆け寄ってくる。
シュウは彼が差し出した手をとって立ち上がった。
サロンを助けてあげようかとも思ったが、彼女は自力で立ち上がったみたいだ。
「ロイと一緒にいるなんて珍しいわね」
「ま、まあね」
シュウは愛想笑いを浮かべて曖昧に答えた。
サロンが不思議がるのも無理はない。
ふたりは学校にいるときはあまり話さないのだ。
ふたりはたしかに仲が良かったが、シュウは自分が重度のAN EARTHオタクだということはクラスメイトには隠しておきたかった。ロイも学校では静かに過ごしたいタイプだ。
だから、ポリコーのようなヤカラを追い払うとき以外は互いに距離を置くことにしていた。
「それより、なんで午前中は学校にいなかったんだ?またサボり?」
「違うわよ!それは、えーっと……」
サロンはよく学校にいないことがある。
だけど、シュウはそのことについてハッキリとした答えを聞いたことはないし、クラスメイトの誰もがそのことを不思議がっていた。
不思議といえば、キロメ・スティーブンソンだ。
さっきまで気が付かなかったが、サロンのあとをついてきていたようだ。
友人が転んで倒れたというのに、にこにこしながら突っ立っている。
サロンとは対象的に全身ピンクや紫の派手なコーディネートはかなり目立つ、というよりは浮いている。
ふたりは何故かよく一緒にいることが多かったが、シュウにはなんの接点も思い当たらなかった。
「あっ、ロイくんだ。おはよう」
さっきまで我関せずといった様子だったサロンが突然声をかけた。
あまりにも唐突なので一瞬静かになる。
いつも一緒にいるはずのサロンですら困惑している様子だ。
「おはようって…… もう夕方ですよ……?」
ロイが言った。
「朝会わなかったから、今言ったの」
「そ、そうですか……」
「どこいくの?」
「べ、別に大した用事じゃないよ!じゃあな!!」
シュウはロイのシャツを引っ張ってその場から立ち去ろうとする。
……が、先回りしたサロンに行く手を塞がれてしまった。
「怪しい!わたしも行くわ!」
シュウはサロンを振り払うのに必死だった。だから、そんな彼らのやり取りを、電柱の陰から見つめる者がいても、気が付かなかったのだ。
数分後、彼ら"4人"はロイの家にいた。
結局、サロンを振り切ることは出来なかったうえに、キロメまでついてきたのだ。
このままではゲームどころではない。
ふたりはロイの家を見てかなり驚いたようだった。シュウは前にも何度も来ているが、それでも、見るたびに驚かされる。
ロイは恥ずかしそうに笑いながら「ヘンな家でしょ?」などというが、ヘンな家どころではない。
それは家というよりかは工場と呼ぶのが適切だろう。
壁はあちこちにリベットが打ち込まれた金属のツギハギ、屋根からは煙を上げる煙突や、大量のアンテナ、用途不明のアレコレが至るところから突き出している。
これで砲塔のひとつでもあれば立派な要塞である。いや、表からは見えていないだけで、実はあるのかもしれない。
家の中は意外にも、一般的なそれと大差ない。唯一、玄関の横にある巨大な鉄製の扉を除いては。(扉の向こう側については、敢えて誰も聞こうとはしなかった)
ロイの部屋も、同年代の男の子のそれと似たようなものだ。大量の小難しそうな辞典や、大きなパソコンを除けば、ゲーム、玩具、勉強道具と、基本的なものが揃っている。
シュウはそこでロイが出してくれたコーラを飲みながら、どうにかサロンたちに帰ってもらう方法はないかと考えていた。
「この調子じゃ、ふたりとも帰ってくれませんよ」
ロイがふたりに聞こえないようにシュウの耳元でひそひそと言った。
「で、でも…… AN EARTH Xが……」
「今日は諦めて明日にしません?」
「クッソ〜!仕方ねえか!」
シュウはコップを置いて立ち上がると、持ってきたランドセルに手を伸ばした。
「じゃあ、オレはそろそろ帰るから!」
「はあ?結局何しに来たのよ!」
サロンは怪しんでいる様子だが、これ以上詮索される前に帰ったほうが良さそうだ。
シュウはサロンを無視して足早に部屋から立ち去ろうとする。
しかし、扉に手を伸ばした瞬間、突然、勢いよく扉が開き、シュウは頭をぶつけて倒れ、本日二度目の尻もちをついた。
「なんじゃ、友達が来ておったのか!」
シュウが見上げると、彼を吹き飛ばした犯人がそこに立っていた。
彼は白髪の老人だった。汚れた白衣をまとった姿は"博士"と聞いて真っ先に思い浮かぶイメージそのものだ。
くたびれた服装とは対象的には表情は若々しく、目には狂気とも取れる光が輝いている。
「じいちゃん!」
「ロイのおじいさん?」
サロンが聞き返した。
「ロイ!ついにやったぞ!あのマシンがついに完成したのじゃ!」
「マシン?」
シュウは聞いた。
「そうじゃ!みんなも見に来るといい!」
「やめておいたほうがいいと思いますよ……」
ロイが小声でいったが、シュウもサロンたちもすでに見に行く気満々で、ロイの言葉は耳に入っていなかった。
「ロイ、ちょっと借りていくぞ」
そういって、博士は部屋に入ると棚の中から『AN EARTH』のパッケージを取り出した。
ゲームソフトを使って一体何をする気なのだろう?
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AN EARTH
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パラレルメモリーズ
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AN EARTH
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パラレルメモリーズ
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シュウたちは博士のあとについて、部屋を出た。
「そういえば、まだ名乗っていなかったな。ワシはルイス・クロ。ルイス博士と呼んでくれたまえ」
例の鉄製の扉の前まで来ると、ルイス博士は扉の横にあるスイッチを押した。
扉が、ゴウンゴウンと駆動音を鳴らしながら左右に開く。
内部は外観と同じような鉄製の壁に囲まれた広い空間になっていた。
入り口からは奥の壁が見えないほど、至るところにコンピューターや、謎の計器が取り付けられている。
おそらく部屋自体は学校の体育館くらいの大きさがあるが、ところ狭しと謎の機械が置いてあるため、人が歩けるのは僅かな空間だけだった。
シュウは博士のあとについて、足元に転がっている機械を蹴っ飛ばさないように注意しながら進んだ。
「わあ!」
突然、後ろを歩いていたキロメが声を上げ、シュウは振り返った。
キロメは道をそれて壁際に置かれた人間の大人ほどの巨大なテディベアに手を伸ばしていた。
「おっと!それに触っちゃいかん!そいつは、人間にハグをすることで癒やしの効果が得られるはずだったんじゃが、パワーが強すぎて、危険なんじゃ!うかつに近づくとケガじゃ済まんぞ!」
サロンは慌ててキロメを引き離した。
「な、なんでそんな危ないもんが置いてあるんだよ!」
「失敗は成功のもとじゃ!ハッハッハッ!」
「答えになってねえよ!」
「だから言ったのに…… ぼくもここには滅多に入らないんですよ」
「そういうわけじゃ!むやみにそのへんのものに触るんじゃないぞ!」
そうこう言っている間にもキロメは別の機械に興味をうつし、手を伸ばそうとしていた。サロンはそれを止めるのに必死だ。
「さ、こっちじゃ!」
ルイス博士のあとをついていくと、そこには巨大な機械があった。
自動車くらいの大きさで、真ん中にはガラスで出来た大きな円筒形の筒があり、その下部から大量の配線が伸びて、博士の手元の机に伸びている。
机の上には、空の水槽や、なにかをメモした大量の紙、それに鉛筆が置かれていた。
「名付けて、次元転送装置じゃ!」
「「次元転送装置?」」
4人は同時に言った。
「アインシュタインの方程式を応用した、ちょっとしたワープ装置じゃ!だが、ただワープするだけじゃない!これは、他の次元にあるものをこの世界へとワープさせるのじゃ!まあ、実際に見てもらったほうが早いじゃろう!」
そう言うと、ルイス博士は机の上の水槽の中に、『AN EARTH』のパッケージを入れた。
「あっ!ぼくのゲーム!」
「落ち着け!これから、ゲームの世界と我々の世界を繋ぐ!良いか、装置に近づくんじゃないぞ。次元の歪みに巻き込まれ消滅してしまうぞ!」
「わあ、楽しみ!」
「キロメ!離れて!」
ルイス博士はパソコンになにやら打ち込み始めた。
「さあ!始まるぞ!!おまえたちは奇跡の目撃者となるのじゃ!」
機械がなにやら音を立て始める。あちこちに取り付けられたランプが点々と付き始め、やがて、壊れかけの洗濯機のように装置自体がガタガタと揺れ始めた。
「ほんとに大丈夫なのかよ!?」
シュウたちは一歩後ずさりする。
装置の揺れは徐々に大きく激しくなっていく。
「ああ、大丈夫…… いや、待て!なにかおかしい!」
ルイス博士はかじりつくようにパソコンのモニターを凝視している。
「おのれ、アインシュタインめ!この方程式は欠陥品じゃないか!!」
「な、なんだって!?」
「いったい、どうなるっていうの!?」
「いかん!装置が爆発するぞ!!みんな離れろ!そのへんのものに隠れて身を守るんじゃ!」
「「ええ〜〜っ!!??」」
4人は一斉に駆け出した。
シュウとロイ、サロンとキロメで二手に別れる。
「わっ!?」
シュウは、突然、背後からなにかに引っ張られ、足を止めた。
「何をやってるんですか!?」
シュウは慌てて背後を確認する。
引っ張られたのではない、ランドセルが機械に引っかかっていたのだ。
「ヤッベ!」
シュウはなんとかランドセルを機械から外そうとするが、飛び出したL字の部品がガッチリとかかっていて外れそうにない。
「取れねえ!」
「ランドセルを捨てればいいんですよ!」
ロイが叫ぶように言った。いまや、機械は凄まじい爆音を発していて、大声で話す必要があったのだ。
「その手があったか!」
オレはランドセルの肩紐から腕を抜き、そのまま前のめりに倒れるようにして、機械の影に転がり込んだ。
KABOOOM!!
ついに次元転送装置は爆発四散!
シュウは恐る恐る目を開けるが、あたりは真っ暗で何も見えない。
黒煙が部屋に充満し、視界を奪ってしまっていたのだ。
「みんな!大丈夫か!?」
ルイス博士の声が聞こえた。
「こっちは大丈夫よ!キロメも一緒にいるわ!」
サロンたちだ。
「おい!ロイ!大丈夫か?」
「ぼくは大丈夫です!」
すぐ近くから声が聞こえた。
「よし!みんな無事じゃな!とにかくここから出るんじゃ!」
シュウは僅かな視界とルイス博士の声を頼りにゆっくりと歩き出した。
途中で、手がなにかに当たり、音を立てた。
機械に引っかかったまま放置されていたランドセルだ。試しに上に持ち上げてみると、あっさりと外れた。
「シュウ、大丈夫?」
「ああ!」
オレはランドセルを手に持ったまま再び歩き出した。
「こっちじゃ!ここに非常用の出口がある!」
ルイス博士が扉を開くと、シュウたちは一斉に駆け出した。
一刻も早く外の空気が吸いたかったのだ。
「ふう〜!酷い目にあったぜ!」
後ろを振り返ると、建物の開け放ったドアや窓から黒い煙が外へ逃げていく様子が見えた。
「しばらくすれば、中に戻れるじゃろう!そしたら実験再開じゃ!」
「まだやるの〜!?」
ロイが悲鳴のような声で言った。
「ハッハッハッ!冗談じゃよ!」
「あれ?わたしたちって何人だっけ?」
キロメがきょろきょろとまわりを見渡して言った。
「はあ?オレたち4人とルイス博士で5人だろ」
「じゃあ、あれは?」
キロメが黒煙を上げる建物を指差す。
最初は見間違いかと思ったが、たしかに、煙の中から、こっちに向かってゆっくりと向かってくる人影がある。
「きゃあ!な、なんなの!?」
サロンが悲鳴を上げた。
人影がどんどん近づいてくる。
そのシルエットがハッキリと見えてくる。
見覚えのあるその姿が……
「お、おまえは!」
「何をしているかと思えば、爆発事故とは、これはトーちゃんに通報しなきゃダメそうだな!」
「「ポリコー!?」」
4人は一斉に驚愕の声を上げた。
「な、なぜ、おまえがここにいるんだ!!」
「つけていたのさ!!そんなことに気付かないなんて、まったくマヌケなやつらだぜ!」
「通報じゃと!?それはいかん!そんなことされたらワシは間違いなくブタバコ行きじゃ!」
ルイス博士が頭を抱えて叫ぶ。
「安心しな、じいさん!その前にまずおれさまの手で復讐をさせてもらうからな!その間に、せいぜい証拠隠滅でもするといいさ!」
ポリコーは不気味な笑みを浮かべながら言い放つ。
「今日は良くもやってくれたな!シュウ!コイツをくらいな!!」
ポリコーが腕を振りかざす。
その手にはなにか奇妙な棒のようなものが握られていた。
「コイツはあの実験室で拾ったんだ。きっと爆薬かなにかに違いねえ!これでおまえらもおしまいだぜ!とりゃ!」
ポリコーの手から、その棒が放たれ、シュウの少し手前の離れたところへ転がった。
次の瞬間、棒から眩しい光が放たれる!
「な、なんだ!?うわあああああ!!」
ポリコーの悲鳴が聞こえ、シュウは恐る恐る目を開ける。
そこには10メートルほどの巨大な人型の何かが立っていた。
その身体は怪しい紫色のオーラに包まれている。
「ジョオオオオオン!!!」
巨人は奇妙な咆哮をあげる!
その後ろで、ポリコーが躓きながら逃げていくのが目に入った。
「な、なんなんだよ!」
シュウたちは後ずさる。
「ま、まさか!!これは!!」
「じいちゃん!どこに行くの!?」
ロイが叫ぶ。シュウが振り返ると、ルイス博士が工場の方に向かって駆け出していくのが見えた。
「まさか、ほんとに証拠隠滅にいっちゃったの!?信じられない!」
サロンはいまにもヒステリーを起こしそうだ。
「そ、そんな〜!?今はそれどころじゃないですよ!!」
「くるよ」
キロメの口調は相変わらずのんきだが、状況はそれとは真逆だった。
巨人がこちらに向かって、ゆっくりと足を踏み出したのだ。
4人は悲鳴を上げて一目散に逃げだした。
巨人が大木のような太い腕を振り下ろす!
衝撃で地面が大きく揺れ、シュウは足がもつれて勢いよく前に倒れた。
持っていたランドセルが投げ出され、中身がぶち撒けられる!
「あっ!」
シュウの前を走っていたキロメが立ち止まってこっちを振り返る。
「逃げろ!!」
シュウは必死に叫んだ。キロメはうなずいて走り出す。
サロンとロイはすでに茂みの陰に身を隠していた。
「ロイ!あんた、あの博士の孫なんだからなんとかしなさいよ!!」
「そ、そんな〜!」
「頭いいんでしょ!そのメガネはなんなのよ!」
「メガネと頭の良さは関係ないでしょ!!はあ、でも、ここに連れてきたぼくにも、すこしは責任があるのも事実!できるだけのことはやってみます!」
ロイはどこからともなくノートパソコンを取り出すと起動し、カメラで巨人を捉え、分析し始めた。
サロンがパソコンの画面を横から覗き込む。
画面には様々なグラフが表示され、数値がせわしなく上下を繰り返している。
「アイツはなんなのよ!?」
「邪魔しないでください!時間がかかるんですよ!!」
「シュウくんが!」
遅れてやってきたキロメが息を切らして言った。
「危ない!!」
間一髪!キロメの頭上をバスケットボールほどのサイズの岩がものすごい勢いで通過していった。
サロンがキロメの手を引いてその場に屈ませていなければ、命は無かっただろう。
「大変です!シュウが!!」
ロイが叫んで、地面にうつ伏せに倒れたシュウを指さした。
「シュウ!」
とっさにサロンが駆け出そうとするが、今度はキロメがその手を引いて止めた。
「ああーー!!?でも、そんな!?ありえません!」
「今度は何よ!?」
「あれは、"ジョン"です!!」
「ジョン?」
サロンは首を傾げる。
「AN EARTHの…… ゲームのキャラクターですよ!!」
「ゲームのキャラって…… ハッ」
ふたりは、顔を見合わせた。
「「次元転送装置!!」」
「クッソー!!」
シュウは肘をついて上体を起こす。
「シュウ!!危ない!!」
キロメが悲鳴を上げる。
シュウが振り返ると、巨人…… ジョンのパンチが目前に迫っている!
間一髪、シュウはその場で横に転がって回避!
肩から僅か数センチと離れていない地面に、ジョンの拳がめり込んだ。
「ヒィ〜!あっぶね!!」
起き上がるために再度転がってうつ伏せになると、ふと投げ出されたランドセルが目に入った。
蓋が開き、水筒やノート、そして筆箱の中身がバラバラに散らばっている。
「ん?なんだ……?」
ふたつの光が見えた。
筆箱から飛び出した鉛筆とキャップがキラキラと輝いているのだ。
シュウは、一気に全身に力を入れ、立ち上がる。
そのままの勢いで前に飛び出し、謎めいた光を放つ鉛筆とキャップを手に取ると、思い切って前転をして、ジョンから距離を取る。
巨人は地面から腕を引き抜くと、ゆっくりとシュウに向かって前進し始めた。
シュウは全速力で逃げながら、手の中の鉛筆とキャップに目を落とした。
なんなんだ……?この光は……?
「シュウ!!」
ロイの悲鳴ではっと我に返る。
ジョンはその巨体故に、緩慢な動作でありながら、凄まじい勢いで迫ってきていたのだ。
「ジョオオオオオン!!」
巨人の腕が迫る!
「うわああああああ!!!」
もうダメだ……!シュウは観念し、目を瞑った。
「……あれ?」
恐る恐る目を開けると、ジョンの腕は目の前で静止していた。
「ジョオオオオオン!!」
ジョンが苦悶の雄叫びを上げ、後ずさりした。
「あ!!あれは!!」
ジョンの腰には、テディベアが抱きついていた。
実験室に置いてあったあのテディベアだ!
ギリギリと腰を締め上げるテディベアを何とか振り払おうとジョンはもがいた。
「なんとか間に合ったようじゃのう!!」
工場の屋上に逆光を背に受けた影が立っている。
「ルイス博士!!」
「シュウ!!これを受け取れ!!」
ルイス博士がシュウの頭上目掛けなにかを投げた。
シュウは軽くジャンプすると、博士が投げたそれを受け取る。
「な、なんだこれ?」
それは、銃のような形のデバイスで、持ち手にはトリガーが付いている。
しかし、銃口はなく、代わりになにかをはめるための細長いスロットが付いていた。
「それは、メモリープレイヤー!!細かい説明はあとじゃ、今はとにかくUSMをスロットにセットオンするのじゃ!!」
「USM……?わっ!?」
いつの間にか、手に握っていた鉛筆とキャップの形状が変化していた。
元の鉛筆よりひと回りほど大きく、各部にメカニカルなパーツが露出している。
ポリコーが持っていたあの棒にそっくりな形状だ。
シュウは、鉛筆にキャップをはめる要領でふたつのパーツを合体させた。
「そうか……、これが"USM"!!」
シュウは、メモリープレイヤーを左手に構えた!
(ここでオープニングテーマ『Memories 〜レディ☆シュート!!〜』が流れる)
「メモリー・セットオン!!」
メモリープレイヤーの側面の"M"の文字が黄緑色に輝き、合成音声がメモリーの名前を呼び上げた。
『キッパー!!』
「レディ!!」
メモリープレイヤーをジョンに向けて、トリガーを引く!
「シュート!!」
ガキンッ!!
反動が腕を伝わり、全身が衝撃で後ろへと圧される!
メモリープレイヤーから射出されたUSMは風を切りながらスピン!
ジョンの目の前の地面に衝突すると、円を描くように光が広がり、魔法陣が出現する!
「あ、あれは!!」
ロイがメガネに手を掛けて叫ぶ!
光が消えると、そこにはひとりの少年のようなシルエットが現れる。
野球帽と、黄緑のパーカー。しかし、手足はなく、幽霊のように宙に浮いている。
シルエットはゆっくりと振り返る。
帽子のツバの下には、青く輝くふたつの瞳があった。
「わたしは、キッパー!」
エフェクトがかかったような透き通る声が、名乗りあげる。
「ロイ!あれもゲームのキャラなの!?」
サロンが聞いた。
「そうです!あれはキッパー!AN EARTHの主人公です!!」
シュウは、キッパーと目を合わせる。
「キッパー!オレに力を貸してくれ!!」
「おう!!」
キッパーは、ジョンに向き直り、右腕を振り下ろす!
袖の中から光り輝く刃が出現する!
「ジョオオオオオン!!」
ジョンは大きく腕を振り、テディベアを投げ飛ばした!
その目がキッパーを捉える!
「ジョオオオオオオオオン!!」
凄まじい勢いで迫る巨大な拳!!
怒りがその動きを加速させたのだ!
豪腕が大地を砕き、土煙を巻き起こす!!
やがて煙が収まるが、そこにキッパーの姿はない!!
「やられちゃったの!?」
「いや!まだです!!」
キッパーは、ジョンの背後だ!!
ジョンの背中に鋭い一撃が決まる!!
「ジョオオオオオン!!」
ジョンは振り返り、反撃に出ようとするが間に合わない!!
キッパーは、すでに足の間をくぐり、再び背後に回り込んでいる!!
「速い!!」
キロメが歓声を上げた。
「キッパーの能力は、素早い身のこなしと近接攻撃です!!」
キッパーは、ジョンの周囲を高速で飛び回り、じわじわと攻撃を繰り返していく!
やがて、その一撃が、ジョンの脚を捉え、大きく体制を崩す!
「ジョオオオオオオオオオオオン!アタァアアアアック!!」
ジョンは怒りの捨てばち攻撃!!
両腕をめちゃくちゃに振り回しながら回転する!これがジョンアタックだ!!
あまりにも無秩序な攻撃に、翻弄されるキッパー、やがて、その一撃が彼を捉える!
「グワアアッ!」
「ジョオオオオオン!!」
ジョンは両腕を組むと大きく振り上げた。
「シュウ!!ジョンはこの一撃で決める気です!!」
ダメージを受けたキッパーは、動くことができない!
「まだだ……」
シュウはうつむき、拳を強く握りしめた。
「キッパー!立ち上がれええええ!!!」
キッパーの瞳に光が戻る!
「シュウ!!」
「ジョオオオオオン!!」
ジョンの腕が振り下ろされる!!
地面が波打つように揺れ動き、爆風が吹き荒れる!!
ジョンは勝利の微笑みを浮かべながら、ゆっくりと拳を開いた。
「ジョッ!?」
いない!!
「上です!!」
ジョンのはるか頭上、キッパーだ!!
「今だ!キッパー!!」
「おう!!」
「うおおおおおお!!必殺ッ!!」
キッパーにシュウの姿が重なる!
「「ドロップシュート!!!」」
キッパーは腕をクロスさせてから、大きく左右に開く!
その両腕にブレードが出現し、そのまま黄緑色の光をまとい、ジョンに突進した!
「いっけえええええええ!!!」
「ジョオオオオオオオオオオオン!!!」
キッパーはジョンの胸を貫通!!
断末魔を上げるジョンを背に、両腕のブレードを振り払った。
「ジョオオオオオオオオオオオオッ!!!」
爆発四散!!
巨体は光の雨となって消滅!
真っ二つに砕け折れたジョンのUSMが地面に転がり、虚しく転がった。
「これが、"メモリー"の力……!」
ルイス博士の目に、狂気の光が輝いた。
こうして、戦いは終わった。
だけど、これは長い戦いの始まりに過ぎなかったんだ。
―――
ジョンとキッパーの戦いを遠くから見つめる影があった。
彼はジョンが倒されたのを認めると、ちいさく笑った。
「フン、シュウ・アーサ……か、楽しくなりそうだ」
影は戦場に背を向けるとその姿を消した。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
次回予告!
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
メモリーの実験のために、博士からUSMを託されたオレたち!
キッパーはいいやつだし、ポリコーに絡まれることもなくなったし、最高だぜ!!
でも、ロイの様子がヘンなんだ。
ことあるごとに突っかかってくるし、いったいどうしちまったんだ!?
え!?"ぼくとメモリーバトルしろ"だって!?
次回、AN EARTH パラレルメモリーズ!
『友情のメモリーバトル!!』
来週も、オレとレディ☆シュート!!
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
またみてね!
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
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