第2話『友情のメモリーバトル!!』

深夜1時。

ロイの家に不審な3つの人影があった。


「ほんとにこんなところに金目のものなんてあるのかい?」

3人の中央、他の2人を引き連れるようにすこし前を歩く男が言った。

他の2人と同じ赤いスーツに身をつつみ、スマートな体型と、長い下まつげが特徴的だ。


「ここは、この辺で有名な研究所ですぜ。きっとなにか金になる発明品があるに違いねえです!」

ハンチング帽を被った男が、低い声が答える。

身長2メートル超えの巨体で、スーツがいまにもはちきれそうだ。


「ほら、例えばこれなんかどうです?」

そう言って彼は近くにあった机から、奇妙な棒状の物体を何本か取り上げた。


「なんだい、そりゃ?ただのエンピツじゃないか!」


そのとき、突然サイレンが鳴り響き、点滅する光が周囲を赤く染め上げた。


「まずいよ、パピー!見つかったでヤンス!」

小柄な少女が2人の背後を指差す。

警告灯のついたヘルメットをかぶった人影が、両腕をグルグルと回転させている。


「ブル、マルチーズ!ここはいったん退散よ!」

「OK、パピー!」

3人は一目散に逃げ出した。



研究所の外に出た3人は、上がった息を整えるために、足を止める。

「はあはあ、結局なんにもなかったじゃないのさ!!」

細身の男が、巨漢の頭をひっぱたいて怒鳴りつけた。

「サーセン!パピー!」


パピーと呼ばれた男の名はパピヨンというのだが、もっぱら"パピー"と呼ばれている。もっとも、パピヨンというのもコードネームである。

彼は3人のリーダーだ。

叩かれた男はブル。

そして、少女の名はマルチーズ。いずれもコードネームだ。


「ああーっ!パピー!誰か来るでヤンス!」

「なんだって!?さっきの追手かしら!行くわよ!!」


「待て」


「「ギクッ!」」

背後から声をかけられ、3人は立ち止まる。

振り返ると、白いフードをかぶった少年が立っていた。長い前髪で右目が隠れている。

シュウたちの戦いを観察していた影と同じシルエットだ。


「なんだい、アンタ。この怪盗ドッグアイ一味に何か用かしら?」


「それを渡せ」

少年は態度を崩すことなく言った。


「"それ"って…… これのことですかい?」

ブルは研究室から手に持ったままだったエンピツのような物体を見せた。

「なーんだ、ウチらじゃよくわかんないしあげるでヤンスよ」

「おバカ!!」

パピヨンは、マルチーズにゲンコツを食らわした。

「いたい〜」


パピヨンはマルチーズを無視して一歩踏み出すと、挑発的な視線を少年に向けた。

「わざわざ取りに来るってことは、それだけの価値があるものなんだろう?」


「ああ。だが、キサマらには関係のない話だ。おまえが持っていても……」

「チッ、チッ、チッ」

パピヨンは指を振って見せる。

「あたしゃ、なにも、やらないなんて言ってないよ。アンタの言うとおり、こんなエンピツ持ってたって仕方ないからねえ。でも、こいつはアタシたちが盗ってきたものだ。欲しけりゃそれなりの対価をよこしな!」


少年は値踏みするように3人の顔を見回した。


「いいだろう」

彼はどこからともなく取り出したそれを3人に向かって投げた。

3人はそれぞれに受け取った。

「なんですかい、こりゃ?」

「かわったハジキでヤンスねえ」


「それはメモリープレイヤーだ。使い方はやればわかるだろう」


そう言うと、少年は虚空に手をかざす。


「熱っ!?」

ブルの持ったエンピツ…… USMのひとつが怪しい紫色に発光するとまるで意思を持っているかのようにその手を離れて、宙に浮いたまま少年の手の中に収まった。


「残りはおまえたちが持っていろ」

少年はそう言い残すと、3人に背を向け、その場を去ろうとする。


「ちょっとアンタ!こんな玩具でどうしろって言うのよ!」


少年は立ち止まり、振り返ると一枚の写真をパピヨンに向かって投げた。


「こいつを始末しろ。うまくやれば好きなだけ報酬をやる」

それだけ言い残し、少年は夜の闇に飲まれていった。


3人は彼が残した写真を覗き込む。

そこに写っていたのは、赤い髪が特徴的な少年…… シュウ・アーサだった。



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       第2話

  『友情のメモリーバトル!!』


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オレの名前はシュウ・アーサ!!

友達のロイの家でルイス博士の実験に付き合うことになったんだけど、装置が爆発!

しかも、謎の巨人が現れて、絶対絶命!

そんなとき、オレのエンピツがUSMに変化!

現れたメモリー、キッパーの力でなんとか巨人を倒したんだ!!



ジョンとの対決の翌日、その日は、土曜日で、シュウ、ロイ、サロン、キロメの4人は、ルイス博士の研究室に集まっていた。


「ひどいなこりゃ!空き巣に入られたのか?」

「なに言ってんのよ、シュウ!昨日の爆発のせいでしょ!」

そもそも粗大ゴミ置き場のような有様だった研究所だが、昨日の爆発の影響で、廃墟寸前の有様だった。


「それがのう、実は空き巣に入られたんじゃ」

ルイス博士は困り顔で、頭をかきながら言った。

「「ええ〜〜!!??」」



「ほんとなのじいちゃん!?」

ロイもそのことは知らなかったようだ。朝早くにシュウの家に行き、一緒に研究所に来たのだ。

その間、この部屋には立ち入っていない。


「でも、どうやってわかったんだ?サロンが言うみたいに、昨日の事故のせいで散らかってるんじゃないのかよ?」


「ああ!それはこのマモルくんが教えてくれたんじゃよ!」

「マモルくん?」

「これが、マモルくんじゃ」

博士は、部屋の隅に置かれた人型のハリボテを指した。

腕は、ただの棒切れで、肩に回転軸がついていた。頭の上には赤いライトがついている。

「このマモルくんは、ワシが作った防犯ロボットの試作品でな、侵入者を見つけるとサイレンとライトで、威嚇する機能があるのじゃ」

「威嚇って……」

ロイは呆れた様子でつぶやいた。


「そうバカにしたもんでもないぞ!ほれ、これを見ろ」

ルイス博士は、机の上のノートパソコンを操作する。画面には、驚いた顔でこちらを向いた赤いスーツの3人組が写っていた。


「マモルくんには防犯カメラが仕込んであるんじゃよ。見ろ、この顔を!どうやら、こやつらはマモルくんに驚いて逃げていったようじゃぞ!ハッハッハッ!」

ルイス博士は得意げに笑った。


「ふうん、じゃあ、結局何も、盗まれてないんだな!良かったじゃねえか!」

「いや、バッチリ盗まれておる。それもUSMをな!」


「「ええ〜〜!!??」」


「USMって、このエンピツのことだろ!?」

シュウは、ポケットからキッパーのUSMを取り出してた。


「そのとおり。それは"Universal Serial Memorys"、略してUSM。どうやら、次元転送装置が爆発したときに近くにあったエンピツが変異したようじゃ。

そして、USMには、ある種の次元転送装置としての機能が備わっておる。

異世界、つまりロイのゲームの世界からメモリーを召喚することができるのじゃ」


「メモリー……って、キッパーや、昨日の巨人のことか?」

「あの巨人はジョンです!」

ロイがメガネに手をかけていった。

「ジョンって、あのジョンか!?」

「ええ、AN EARTHに登場するキャラのひとりです」

「ちょっと!それを盗まれたって、大丈夫なの!?悪用されたら大変よ!」


ルイス博士は、あごひげをいじりながら、すこし考えるように上を見上げた。

「おそらくは大丈夫なはずじゃ。メモリープレイヤーがなければ、メモリーを操ることはできないからのう」


「でも、ポリコーは召喚できてたぜ?」

ルイス博士は愛想笑いを浮かべて答えた。

「ま、そういうこともある!」


「「ズコーッ!!」」

シュウたちは一斉にずっこけた。


「それじゃあ、ダメじゃないのよ!」

サロンが、叱るように言った。


「まあまあ、話はこれからじゃ」

そう言って、ルイス博士は机の引き出しを開けた。

「あっ!これは!」

ロイが声を上げた。

「メモリープレイヤー!」


机の中には、3台のメモリープレイヤーが入っていた。

それぞれに、ひとつずつUSMがセットされている。

「そうじゃ」

ルイス博士は、横に動いて机の前を開けた。

「ロイ、サロン、キロメ。おまえたちもこれを持っておいたほうがいいじゃろう」


まずは、ロイ。それから、サロン、キロメと、順番に机の前に行って、メモリープレイヤーを受け取った。


ルイス博士は、全員がメモリープレイヤーを手にしたのを見渡し、満足げにうなずいた。

「いいか、メモリープレイヤーのことは、まだ世間に知られてはいかん。注意するんじゃぞ。メモリーについては、まだわからないことも多い。だから、それぞれメモリーとともに過ごすことで、メモリーの研究を進めることができるのじゃ」


ルイス博士は「それに……」と言って、付け加える

「犯人は必ず犯行現場に戻ってくるという!例のコソドロ共が戻ってきたら、そいつで撃退してもらいたいのじゃ!ハッハッハッ!」



翌朝、シュウは自室のベッドの上で横になり、USMを眺めていた。

「これで、キッパーを呼び出せるなんて信じられないな」

「わたしも同じ気分だ」

「うわっ!?」

シュウは突然声が聞こえたのに驚き、USMを顔に落としてしまった。

がばっと起き上がると、枕元に転がったUSMを恐る恐る拾い上げた。

「キッパーか?」

「すまない。驚かせてしまったようだな」

キッパーがしゃべると、USMはほのかに緑色に発光した。

「このままでも話せるのか」

「どうやらそのようだ」

「なあなあ!おまえ、あのキッパーなんだろ!?」

「え?ああ、まあ…… "あの"と言われるほどの有名人になってるとは、思わなかったな」

「そっちの世界のこととか聞かせてくれよ!」

「すまない。どうやら、わたしにはあまりハッキリとした記憶がないようだ。だが、聞きたいことがあれば、わかる範囲で答えよう」

「う〜ん、そうだな」

シュウは、少しの間考えてから答えた。

「あっ、そうだ!強かった敵とか覚えてないか?これから戦うかもしれないだろ!」


「なるほど、強かった敵か…… ああ、そういえば、ヤツは強かったな。わたしのスピードを持ってしても、姿を消し、瞬間移動するのではそもそも攻撃を当てることができないのだ」

「なんてヤツなんだ?」

「ヤツの名は……」

キッパーが答えようとしたその時、突然部屋のドアが開いた。

シュウのお母さんが部屋に入ってきたのだ。

シュウは慌てて、USMを背中に隠した。

「シュウ!そろそろ起きなさい!……あら、起きてたの?朝ごはんにするわよ」

「わかった!すぐ行く!」


シュウのお母さんは何かを探すように部屋の中を見回した。

「誰かと話してなかった?」

「い、いや?きっと気のせいだよ!」

「……そう、早く来るのよ!」


シュウは、お母さんの足音が去っていくのを聞いてから、USMを取り出した。

「危なかったな、シュウ」



月曜日、チャイムがなると同時に先生が教室に入ってきた。手にはなにやらプリントの束を持っている。

「これから算数のテストを返すぞ」

先生が言うと、教室中がざわつき始めた。

「静かに!名前を呼ばれたものから取りに来るように!」

クラスメイトの名前が名簿順に呼ばれていき、やがてシュウの名が呼ばれた。

シュウはゆっくりとイスから立ち上がると、重い足取りで教卓に向かい、テストを受け取って、席に戻ろうと教卓に背を向けた。

「シュウ……」

先生が静かに言った。

シュウはゆっくりと振り返る。

「後で職員室に来なさい」



放課後、職員室から戻ってきたシュウは、帰り支度をするために教室に戻ってきた。

すでにほとんどのクラスメイトは帰宅し、残っているのはロイ、サロン、キロメの3人だけだった。


「シュウ、いったい何点だったの?」

サロンはいまにも笑い出しそうな口調だ。

シュウは無言で親指と人差し指で輪っかを作って見せた。

「OK?」

キロメが首を傾げる。

「0だよ、0!!何もOKじゃないっつーの!」

「ご愁傷様!」

サロンは満面の笑みで言った。

「それを聞くために残ってたのかよ?」

「うん!じゃあね!」

キロメは一切の躊躇なく答える。

「ロイに勉強を教えてもらいなさい」

ふたりはそれだけ言い残すと教室から出ていった。


「ロイ、帰ろうぜ〜」

「……」

ガタッとイスが音を立てる。

ロイはうつむいたまま無言で立ち上がった。

「ロイ?」

「今日はひとりで帰ります」

ロイは、それだけいうと、そそくさと教室から出ていってしまった。

「お、おい!どうしたんだよ?」

ロイが閉じた扉を見つめながら、シュウは呆然と立ち尽くした。


「シュウ、彼と何かあったのか?」

キッパーが言った。教室に誰もいないのがわかり、話してもいいと判断したのだ。

「いや、いつも通りだったけど……」


シュウは諦めてひとりで帰ることにした。

何か気を悪くするようなことをしていなかったか、1日を振り返りながら、下駄箱の扉を開けた瞬間、思考がストップして、固まった。


「え……?」


下駄箱には、1通の封筒が入っていた。

シュウはそれを取り出した。


「あ、シュウくんラブレターもらってる」

キロメの声が聞こえ、驚いたシュウは封筒を取り落としてしまった。

振り返ると、通りかかったサロンとキロメがこっちに向かってくるところだった。


シュウが慌てて封筒を拾い上げると、サロンが横から覗き込んでくる。

「あっ!見るんじゃねえ!」

「誰からなの?」

シュウは宛名を確認しようと封筒を裏返した。


「「果たし状!?」」



午後5時、ルイス博士の研究所の前、シュウ、サロン、キロメは果たし状に書かれていた内容通りに集まった。


「大丈夫なの、シュウ?」

「どうせ、ポリコーが先週のリベンジにくだらないイタズラでも仕掛けただけさ。それに、こっちにはキッパーがついてるからな!」

誰が来るかはまだわからない。

果たし状には名前が書かれていなかったのだ。


「シュウ!」

3人は声のした方を振り返る。


「なんだロイか!びっくりさせんなよ!」

ここはロイの家だ。彼がいてもおかしくない。シュウはそう思った。


「なにか勘違いしているようですね」

「勘違い?」

「果たし状ですよ」

「あれ?なんで、ロイが果たし状のことを知っているんだ?」


ロイは少しうつむくと、腰のホルダーのメモリープレイヤーに手をかけた。

「果たし状を書いたのはぼくです」


「「ええ〜!!??」」


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「果たし状を書いたのはぼくです」


「「ええ〜!!??」」


「そ、そんな!?いったい、どうしちまったんだよ!」


ロイは顔を上げ、真っ直ぐにシュウを見つめると、メモリープレイヤーを構えた。

「シュウ!ぼくとメモリーバトルをしてください!」

「やめろ、ロイ!オレは、おまえと戦いたくはない!」

「だったら、こっちから行きますよ!」


ロイはUSMを取り出し、メモリープレイヤーに装着する!

「メモリー・セットオン!!」


メモリープレイヤーの側面の"M"の文字が黄色に輝き、合成音声がメモリーの名前を呼び上げる。

『ブラックフォックス!!』

ロイはトリガーを引いた。

「レディ・シュート!!」


メモリープレイヤーから打ち出されたUSMはロイとシュウの間の地面に衝突し、魔法陣が広がる。

光の中から現れたのは、紺色の立方体。

そこに、2つの瞳と、狐のような耳と尻尾がついている。

「コーン!!」


「ブラックフォックス!?これが…… ロイのUSMなのか!?」


「シュウ!容赦はしません!ブラックフォックス!エナジーガトリングです!!」

ブラックフォックスの周囲に水色に発光するエネルギー体が浮かび上がり、巨大なガトリングガンが出現する。


「コーーン!!」

ガトリングガンから放たれた光弾はシュウに向かって一直線に飛んでいく!

「シュウーー!!」

サロンが悲鳴を上げた。


KABOOOM!!!


凄まじい土煙が周囲を覆い隠す!


「ちょっとロイ!!何考えてるのよ!!」

「……」

ロイは、動揺することなく、真剣な眼差しで土煙の中、一点を見つめる。


やがて、煙が晴れていくにつれて、ロイの視線の先にシルエットが浮かび上がる。


宙に浮かぶ、パーカーを着た少年のような姿……

キッパーだ!

シュウをかばうように、ブラックフォックスの前に立ちはだかっている。


「……やってくれるじゃねえか!」

「ようやくやる気になりましたね。ブラックフォックス!エナジーミサイル!!」


再びブラックフォックスの周囲にエネルギー体が発生し、今度はミサイルが出現した。


「キッパー!攻撃を弾け!」

「おう!」


キッパーは腕からブレードを出現させ、ブラックフォックスの放ったミサイルを真っ二つに両断!


ふたつに分かれたミサイルは、狙いをそれ、シュウの背後に飛んでいって爆発した。

「ロイ!攻撃をやめてくれ!おまえの攻撃はキッパーには効かないぞ!」

「くっ!!ブラックフォックス!!攻撃を続けろ!!」


ブラックフォックスは戸惑った様子でロイを振り返る。

「ロイ……」

「攻撃を続けるんだ!ブラックフォックス!」

ブラックフォックスは、再びキッパーに向き直ると、エナジーミサイルを構えた。



その頃、ドッグアイ一味は写真の少年を探すために、彷徨った挙げ句、なぜか木々の生い茂る森のような場所にいた。


「ほんとにこっちであってるのかい?」

パピヨンが悪態をつく。森の中を散々歩き回ったせいで、枝に引っかかれたスーツは所々破れ、頭には落ち葉が乗っかっている。

「この森で間違いないはずですぜ。なあ、マルチーズ」

パピヨンの前を歩くブルが答える。片手に世界地図を持ち、もう片方の手で虫眼鏡を持っている。日本を拡大して見ているのだ。

「ええ!この鳥類図鑑によればカッコウはこの辺の森に生息しているでヤンス」

マルチーズは両手で大きな本を広げながら言った。


「カッコウ?」

パピヨンは立ち止まった。

ブルとマルチーズも立ち止まって振り返った。

「はい!カッコウでヤンス!」

「パピーが言ったんですぜ、"カッコウを探せ"って……」

「おバカ!!」

パピヨンはふたりの頭を叩いた。


「アタシは"学校を探せ"って言ったんだよ!!」

「「あーあ!」」

ふたりはようやく合点がいったという様子で手を叩いた。

「なるほど、学校でヤンスね!」

「学校に行けば、あのガキがいると!さっすがパピー!」


「ハア……」

パピヨンはため息を付き、手を額に当てて空を仰いだ。

「……ん?あれは!!」

「どうかしましたかい?」

パピヨンはニヤリと笑った。

「アンタたち!ガキを見つけたよ!!」

「「ええ〜!?」」


3人はパピヨンを先頭に駆け出す。

少し行くと、森を抜けて開けた場所に出た。

「あれれ!?ここは、いつかの研究所でヤンス!」

そこは低い崖になっており、ルイス博士の研究所を見下ろすことができた。

「あれを見な!」

パピヨンの視線の先は、まさに今、ブラックフォックスとキッパーが戦っている最中だった。

「な、なんですかいありゃ?」

「バ、バケモノが戦ってるでヤンス!」


「あのガキが持ってるのはメモリープレイヤーじゃないかい?」

3人はフードの少年から渡されたメモリープレイヤーを取り出し、シュウのそれと見比べた。

「ということは、こいつでオレたちもあのバケモノを出せるんじゃないですか!」


「よおし、アンタたち!そうとなったら襲撃だよ!」

「「OK、パピー!!」」



「エナジーミサイル!!」

「ハッ!」

キッパーはミサイルを撃ち落とす。

すでに、両者とも体力を使い果たしていた。

「ロイ!どうしてそこまでするんだ?これ以上戦って、何になるんだよ!」

「ぼくはどうしてもシュウに勝たなきゃいけないんです!」

ロイはうつむいたまま話し始めた。

「ぼくはずっときみに守られてきました。でも、いまはメモリーがあります。それに、USMの実験に巻き込んでしまったのもぼくです。ぼくはこの力できみに勝って、ひとりでも大丈夫だと言うことを証明したいんです!」

「ロイ……!」


「フッフッフッ…… 盛り上がっているところ、失礼するわよ」

「誰だ!」


シュウたちが振り返ると、崖の上に3人の人影が立っていた。


「アタシはパピヨン!」

「ブル!」

「マルチーズでヤンス!」

「「人呼んで、怪盗ドッグアイ!参上!」」

3人は、名乗ると同時に崖から飛び降り、研究所の前に着地した。


「あっ!あいつらはマモルくんの監視カメラに写っていたコソドロ!!」

「ドッグアイ…… 聞いたことがあります。たしか、隣町を一時期騒がしていた怪盗です」

ロイが言った。


「あら、ボーヤ、よく知ってるじゃない。だったら、わかるわよね?痛い目に会いたくなかったら、そこのシュウとかいうガキを置いて、さっさとお家に帰るんだね!」

「そこのお嬢さんたちも早く帰ったほうがいいですぜ!」


「ふうん、じゃあ、帰るね。お腹空いちゃったし」

「ちょ、ちょっとキロメ!」

キロメが手を降って立ち去ろうとしたのを、慌ててサロンが止めた。


「ぼくは逃げません!」

「ロイ……」

「ブラックフォックス!」

「コーン!!」

ブラックフォックスのエナジーミサイルが、ドッグアイ一味に狙いを定めた!

KABOOM!!

3人の足元でミサイルが爆発し、赤いスーツが煤で真っ黒になった。


「キィー!良くもやってくれたわね!!そっちがその気ならこっちにも考えがあるのよ!」

パピヨンがそう言うと、ドッグアイ一味は一斉にメモリープレイヤーを取り出した。


「「あっ!!」」

シュウたちは一斉に声を上げる。

「黒い…… メモリープレイヤー!?」


「……で、どうやって使うのかしら?」

「「ズコーッ!!」」

今度はシュウたちが一斉にズッコケた。


「どうやら、ここにエンピツをはめるようですぜ!」

ブルがシュウのメモリープレイヤーを見ながら言った。


「なるほど!いくわよ!メモリー・セットオン!!」

ドッグアイ一味は一斉にメモリープレイヤーに、USMをセットする!

『『ERROR!!』』

……と同時にメモリープレイヤーからエラーを知らせる電子音声が鳴った。

USMを間違った向きから取り付けると、召喚することができないのだ。


「あ、あれ?どうなってるのかしら?」

「こっちもダメみたいですぜ!?」


『ネコッカムリ!!』


「あっ!できたでヤンス」

「「ええ!?」」

マルチーズのメモリープレイヤーは偶然にも、正常にUSMを認識した。


「でかしたよ、マルチーズ!!やっておしまい!!」

「OK、パピー!!」


マルチーズは、メモリープレイヤーを構え、トリガーを引いた!

「レディ・シュート!!」


地面に赤い魔法陣が出現!!

現れたのは、赤いマントに身を包んだ幽霊のようなメモリーだ。

目深に被ったフードのしたから、ギザギザの歯を覗かせてニヤリと笑っている。

「ヒッヒッヒッ!!」


「キッパー!!一撃でキメるぞ!」

「おう!」

「「必殺・ドロップシューーートッ!」」


キッパーは両腕のブレードを展開し、ネコッカムリに突撃する!

しかし!

「なにっ!?」

ブレードがその体を切り裂く寸前!

ネコッカムリの身体は透明になり、キッパーの攻撃がすり抜けた!

「ヒッヒッヒッ!当たらないよ〜!」


「アイツ、なかなかやるじゃないか!」

「へへへ!コイツは楽勝でヤンス!」


「キッパー!切り裂け!」

キッパーは攻撃を繰り返すが、すべて無効!

ネコッカムリの姿が消えたかと思うと、キッパーの背後に出現し、不意打ちを食らわした!

「グワーーッ!!」

「キッパー!!」

「ネコッカムリ!そのままジワジワと追い詰めるでヤンス!!」


「シュウ、きみの部屋でした話を覚えているか?」

「キッパー、どうしたんだよ、こんな時に……」

シュウは、日曜の朝にキッパーと話したことを思い出した。


"なるほど、強かった敵か…… ああ、そういえば、ヤツは強かったな。わたしのスピードを持ってしても、姿を消し、瞬間移動するのではそもそも攻撃を当てることができないのだ"

"なんてヤツなんだ?"

"ヤツの名は……"


「まさか!」

「ヤツだ……!」


「ブラックフォックス!エナジーミサイルです!!」

「コーーン!!」

ブラックフォックスのエナジーミサイルが、ネコッカムリを捉える!

爆発が起こるが、ネコッカムリはやはり無傷!!

「そんな……!」


「ああー!1対2なんて卑怯でヤンスよ!!ネコッカムリ!先にあっちのをやっつけるでヤンス!」

「あいよ!」

ネコッカムリの姿が消える!

次の瞬間、ブラックフォックスの目の前に再び出現し、強烈な一撃を放った!

「きゃあーー!!」

ついにブラックフォックスは体力を使い果たし、USMの姿に戻ると、ロイの足元に転がった。


「くっ……」

ロイは力なく膝をつく。

「ロイ!」

サロンはロイのもとに駆け寄った。

「やっぱり、ぼくはシュウの役に立てないのか…… ぼくには、みんなに迷惑をかけることしか……」


「バカヤロー!!」

シュウが叫んだ。


「たしかに、おまえはサッカーじゃオレに勝てないかもしれない。だけど、算数のテストじゃ、オレはおまえに勝てないんだ!」

「シュウ……」

「おまえは、おまえにできることをやればいいんだ!」

「ぼくに…… できること……」

ロイは転がったUSMを見つめる。

「……はっ!」


ブラックフォックスUSMに装着されているのはパラボラアンテナのような形状のウエポンカセットだ。

ロイは、USMを拾い上げる。

「ブラックフォックス……!ぼくのためにもう一度力を貸してくれ!」

「もちろんよ!」


ロイは立ち上がり、メモリープレイヤーを左手に構えた!

(ここでオープニングテーマ『Memories 〜レディ☆シュート!!〜』が流れる)


「メモリー・セットオン!!」


メモリープレイヤーの側面の"M"の文字が黄色に輝き、合成音声がメモリーの名前を呼び上げた。


『ブラックフォックス!!』


「レディ!!」


メモリープレイヤーを足元に向けて、トリガーを引く!


「シュート!!」


ガキンッ!!

反動が腕を伝わり、全身が衝撃で後ろへと圧される!


メモリープレイヤーから射出されたUSMは風を切りながらスピン!

ロイの目の前で地面に衝突すると、円を描くように光が広がり、魔法陣が出現する!


ブラックフォックスが再び召喚された!

しかし、すでに、体力の限界!かろうじて立っているような状態だ。


「また出てきても無駄でヤンス!ネコッカムリ!」

ネコッカムリが、ブラックフォックスに向かって突撃する!

しかし!

「させるか!!」

キッパーが、高速移動で回り込み、ネコッカムリの攻撃を受け止めた。


「なにか作戦があるんだろ、ロイ!」

「ええ!敵の攻撃をひきつけてください、シュウ!」


「キッパー!攻撃を続けろ!」

「おう!!」

キッパーは、斬撃を繰り出す!

やはり、ネコッカムリには通用しない!

「ヒッヒッヒッ!無駄無駄!」


「……ぼくにできることをやる!今です!ブラックフォックス、エナジーレーダー!!」


ブラックフォックスの周囲にエネルギー体が出現し、レドームのような形状が浮かび上がる!


「サーチ!!」


エナジーレーダーから光が照射され、ネコッカムリの姿を照らし出す。


「へっ!そんな光、なんともないでヤンスよ!ネコッカムリ!さっさと片付けるでヤンス!」

「ヒーッヒッヒッ!」

ネコッカムリは姿を消そうとする!

……しかし!

「ヒッ?あ、あれ?」

「どうしたでヤンス!さっさと透明になるでヤンスよ!!」

ネコッカムリの姿はくっきりとその場に残ったままだ!


「無駄です!これがブラックフォックスの能力、エナジーレーダーです!この光の中では、姿を消すことはできませんよ!」

「キィーッ!そんなのズルいでヤンス!!」

マルチーズは地団駄を踏む。

「ズルはそっちだろ!!よくも手間取らせてくれたな!」

「シュウ!今です!」

「おう!行くぜ、キッパー!!」


「「必殺ッ!!」


キッパーにシュウの姿が重なる!

「「ドロップシュート!!!」」


キッパーは腕をクロスさせてから、大きく左右に開く!

その両腕にブレードが出現し、そのまま黄緑色の光をまとい、ネコッカムリに突進した!


「ぐわあーーー!!」

爆発!ネコッカムリ、ダウン!

爆風で弾き飛ばされたUSMがマルチーズの足元に転がった。


「何やってんだい!やられちゃったじゃないか!このおバカ!」

パピヨンがマルチーズの頭を叩いた。

「いたい〜」


「フン!次あったらただじゃ置かないよ!覚悟するんだね!」

「ハッ!いつでもかかってきやがれ!オレとロイは無敵だ!」

シュウは強気に言い返した。


「アンタたち!撤収するわよ!!」

「「OK、パピー!!」」

ドッグアイ一味は一目散に駆け去っていった。



「シュウ、ありがとうございます」

「え?」

「ぼくは、大事なことを見落としていたようです」

「気にすんなって!」

ふたりは夕陽を背に固い握手を交わした。



「ただいまー!」

シュウが家に帰るなり、お母さんの怒り顔が出迎えた。

「シュウ!こんな時間まで何してたの?」

「えへへ、ちょっとね!」

「はあ?まあいいわ。それよりテストの結果はどうだったの?」

「あっ!」

シュウの顔が途端に青ざめる。

「い、いやあ、見せるほどのものじゃないって」

「いいから見せなさい!!」

お母さんの怒鳴り声が響き渡った。



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       次回予告!


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大変だ!

サロンにオレがAN EARTHの重度のオタクだと疑われちゃった!

なんとかしてごまかそうとするオレだが、なぜかキッパーが戦闘不能に!?

立ってくれキッパー!このままじゃドッグアイ一味にやられちゃうぜ!


次回、AN EARTH パラレルメモリーズ!

『大ピンチ!キッパー戦闘不能!?』


来週も、オレとレディ☆シュート!!



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      またみてね!


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