第2話 高収入バイト

    〜レストランバーカノン〜


    未経験者歓迎 


    18:00〜


    おもにホールでのお仕事になります


    月給30万円〜  

  

    ※面接参加者全員に1000円分の商品券






履歴書の自己PRの欄には、『何事もコツコツできるタイプの人間だと自負しております』と書いた。


もちろんこんなのその場凌ぎの嘘っぱちだ。


こういう人はきっと、僕みたいにバイト先を転々と変えたりはしない。


本当の僕はもっと闇の深い、一言では言いあらわせないどうしようもないタイプの人間だ。


地元ではアマガエルを殺しまくったこともある。


ストレス発散のためだったのだろうか、なぜそんな事をしていたのか覚えていないが小さな命を屁とも思わないサイコパスな少年時代だった。


でもそんなこと書かない。


あたりまえだ。


じゃあ、僕は、いつ誰に本当の自分を晒すんだろう?


人は一生、本当の自分を隠しながら生きていくのかもしれない。


いや、そもそも普通の人は僕みたいな黒い汚い記憶を持っていないのかも。


それか、簡単に笑い飛ばせるのかもな。


でも僕はひどい兄貴で薄汚い思い出しかない上にお金もないし、夢とか目標とかなんにもない。


もう二十歳にもなってこのザマだ。


どうしようもない人生だ。


絶望的だ。


なぜ生きているのかわからない


僕にかかる生活費の全てを恵まれない人達に寄付したほうが世界は平和になるだろう。


でも……


死なない。


東京でよく電車が止まるのは人が飛び込むかららしいけど、ばあちゃんより先に死のうとはおもわない。


それよりなら、僕の黒歴史を全世界の人に晒してでも生きてやる。


たまにばあちゃんから電話がかかってくる、第一声は決まって「元気かー?」だ。


お金があろうがなかろうが、バイト先で怒られようが、パチンコで負けて自己嫌悪のドン底にいようがなんだろうが僕は「うん」と返す。


大切な人が元気なのが一番いい事。


だから「うん」と返す。


結局、大切なばあちゃんにすら嘘をつく僕。


だけど、元気がないなんて言えない。


きっと心配するから


ばあちゃんにはあまり心配をかけたくない。


大切な人が落ち込んでいるのは辛い、大切な人が死ぬのはもっと辛いだろう。


そしてそれが自殺とか絶対嫌だから。


逆にばあちゃんが自殺したら絶対嫌だから……


ばあちゃんと結婚した僕の爺ちゃんはお父さんが幼かった頃に事故で死んだらしい。


爺ちゃんを亡くした後もばあちゃんは弱音を吐くことなく頑張って家族を支えたそうだ。


そしてようやく自分の息子である僕のお父さんが結婚して一安心とおもいきやお母さんが家を出て行った。僕が小学校3年生の時だった。


あの時、ばあちゃんは毎夜泣いていた。


ばあちゃんの人生にはいつもどっかに落とし穴があるんだ。


それでもいつもいつも自分のことより僕のことを心配してくれるばあちゃんのために苦しくても腹が減っていても僕は自殺しない。


だから、自殺する人達ってのは僕ごときの不幸では遠く及ばない不幸を極めし者達なんだろう。


大丈夫、まだその域には達していない。


僕はまだ大丈夫。


……大丈夫。




それにしても、バイトで月給30万円のレストランとか怪しすぎる。


いくら僕が田舎者だからってそんなのに騙されるつもりはない。


それはネットで見つけた求人だった。


バイトなのに時給じゃなくて月給で表記してるとことか怪しすぎだった。


騙されるはずないとか思いながら、飛びつくように電話して面接の段取りまでして履歴書書いてるわけだけど……


もし仕事内容がやばそうならいくら高収入だろうがすぐやめる。


大丈夫だろう


僕には保険がある。


どうせ『受からない』という保険が。


それに池袋から赤坂までは片道400円だ、往復で800円だとしても参加賞として貰える千円の商品券を金券ショップでお金に変えたらお釣りがくる。


もし面接をパスできたら夏休みを使って30万円稼げるんだ!


ばあちゃんに内緒にしてる家賃滞納分のお金もそれでなんとかなる。


やってみて損はないだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聴きたかった3つ目のフレーズ たけし @9takeshi6

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ