若者言葉「普通に」は、普通に難しい
〈とらえどころのない「普通に」〉
A:お前、俺のことあまりよく思ってない?
B:え、何言ってんの。普通に好きなんですけど
あるいは
C:いや、ここの中華普通にうまいわ
など、現代いたるところで「普通に~」を見かけるようになりました。しかしその意味を分析しようとした途端、一筋縄ではいかないことがわかります。とりあえず、最初に私が作った分類を見てもらいましょう。
1.「強調の用法」:〈カントの本難しすぎて普通に無理・いや普通にきれいだよ〉
めっちゃ、とても、ほんとに、死ぬほど、とっくに、
2.「順実の用法」:〈やっぱあいつ、普通に強かった・ディズニー普通に楽しかったね〉
やっぱり、思った通り
3.「反実の用法」
〈いや、ここの中華普通にうまいわ〉
予想と違って
4.「副詞的用法」
〈気持ちを普通に保てない・動物が普通にしゃべった〉
普段通りに、順調に、適当に
5.「間投の用法」
〈もうなんか、いや普通に寝てて、寝坊した〉
ちょっと、まあ
実をいうと、調べる前は普通の「副詞的用法」以外は「強調の用法」くらいしかないと思っていたので、この結果には驚かされます。確かに「順実」や「間投」などは少々あやしい気もしますが、これはあくまで目安なので判断は各自にお任せします。
まず一つ目、強調用法。「普通」であるのに強調なのですから、実はこれが一番の曲者でしょう。なぜ強調の意味を持つのか。この問いの答えは私にもはっきりとはわかりませんが、おそらく最初(①)は通常の「普通」(良くも悪くもない)を指していたのが、だんだんと②万人受けすることが正義である人々によって「普通=良い」の印象をつけられて、さらに③「普通に」が副詞句であることから、良い印象の意味が程度の大きいことを示す表現になった……、と言う流れで強調用法が生まれたのではないでしょうか。
整理すると、①「普通においしい=平凡なおいしさ(マイナス表現)」→②「普通においしい=万人受けする好ましいおいしさ(プラス表現)」→③「普通においしい=すごい(とても)おいしい」です。起源はともかく、今は「普通に」が「すごい」などと同じように使われているのです。
二つ目はあまり言うこともありませんが、一つだけ言うとすれば前の文脈で「そうは思っていなかった」という情報があるとほぼこれです。個人的には「強調用法」も少し入ってると思いますけど、意味を取るうえでさほど問題にはならないのでどちらでもいいでしょう。
三つ目は反実。思ってなかったことを強調する表現なので、やはりこれも強調用法が少し入っていると思います。2.と3.は思っていたかいなかったかを強調する表現です。
四つ目は言わずもがな。普通の表現です。
五つ目は、もはやフィラー的な表現。私も普段の会話を反省してみると、ほぼ何の意味もない「普通に」を使っていることがありますし、例文の「いや普通に寝てて」などもあまり明確に当てはまるところがないと思ったので、この用法を追加しました。
〈どう訳せばいいのか〉
細かく分ければ五つほどに用法が分類された「普通に」。正直ほぼ異国語状態ですが、あまり心配しすぎることも無いと思います。なぜかというと、この中で使われる表現はほぼ1.と4.だからです。つまり強調と、通常の表現なのです。通常の表現は意味の上でプラスでもマイナスでもなく、また強調の言葉と言うのは文意を変化させることがないので、二つとも無視してしまっても理解に支障はほぼないのです。また5.はもとより意味があまりない表現なので、ここからしても「普通に」はあまり気にしなくていいと言えます。
そういうことなので、今回憶えていただきたいことは、「普通に」=無視してしまってもあまり問題ない表現ということです。もしそれがしっくりこない場合でも、強調と理解すればまず食い違いは起きないでしょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます