「を」の発音は o?  wo?



 〈歴史的仮名遣いと発音〉

 意識したことのある方のほうが少ないかもしれませんが、現代日本語にはいくつか歴史的仮名遣いの名残があります。【は・へ】あたりですね。「私は奈良へ行きます」とか、愚直に読めば「watasihanaraheikimasu」ですが、実際には「watasiwanaraeikimasu」ですよね。


 そこで皆さんに問います。この場合、「を」はどうしていますでしょうか。実をいうとこれも【は・へ】と同じ仲間で、実際には「これを食べます」は「koreotabemasu」です。ただ、私は本当に一年前まで、woと言っていました。ほぼoになっていたのですが、意識的には一度唇をすぼめるwoだったわけです。日本語学の授業で先生がアンケートを取っていましたが、そこでも確か、四割くらいが私と同じく表記につられてwoの意識でしたね。



 〈ローマ字入力と歴史的仮名遣い〉

 私がwoの発音意識だった発端は、今でも覚えています。小学校一年生の時、ひらがな五十音順を順番に発音していく授業で先生は、「わ・を・ん」をそのまま「wa,wo,n」と発音すると教えてくれました。確かに、発音の面では何も間違っていません。でもそこで、「実際に口に出すときは、ヲは、オと発音します」と言ってほしかったと思ってます💦(確かに小一に教えるにして難しいかもしれませんが。あるいは先生の知識がなかった?) だって考えてもみてください。ヲを、そのままwoと発音するなら、どうしてウォという表記があるのでしょう? ミネラルウォーターを、ミネラルヲーターとは書きませんよね。現代日本語において、ヲをそのまま発音する場面はほぼないのです。


 自分語りが長くなりましたが、ヲ=woという意識がある人が一定数いるのは、そうした表記と発音の教育があいまいであることに加えて、ローマ字入力が一因なのではないかなと思います。小学校でもうPCの授業がありますから、その時に一通りローマ字入力を習いますよね。そこでもう一度、歴史的仮名遣いの壁に当たるのです。【は・へ】などはそのまま発音していてはあまりに不自然すぎますから自他共に訂正していくでしょうが、ヲはそうはいきません。物凄いはっきり発音しない限りは他の人もただのオと聞こえるからです。私のように発音に重きを置いてヲを学んだ学生は、おそらくローマ字教育の時にもう一度無意識にwoを擦り付けられ、以降タイピングをするたびに、反復学習させられるのです。これがあるために、なかなか意識は治らないと思います。まあ、人生で【を】についての情報を知る期間はとても限られていますからね。



 ちなみに、私が知里 真志保という方の『〈別巻 1〉分類アイヌ語辞典 』を読んできた時のことです。この本では、おそらく著者の意思によってだと思いますが、なんとヲをそのままオと表記されていました。「これおアイヌ語では〇〇と言う」といった具合です。最初見たときは幼稚な書き方に思えたのですが、ヲの日本語における貢献度合いが少ないことを考えると、それもありかなあなどと思ってしまいます。ただそうなると、【は・へ】も【わ・え】になってしまいますが。たぶん特定の助詞のみ歴史的仮名遣いにしたのは、文の句切れを明確にし、見やすくする効果があるのではないでしょうか。特に【は・を】は非常に重要な助詞ですからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る