うがった見方。目線で穿てるの?


 「うがった」という言葉。なかなか厄介だと思います。文化庁の世論調査で(1)、半数程度が「うがった見方をする」を本来の意味ではない「疑って掛かるような見方をする」と解釈しているという結果が出ました。ちなみに「うがつ」という動詞の本来の意味は「穴をあける」で、転じて「的確に指摘する」という意味もあります。



 〈「うがった~」の意味とは?〉

 ここで今一度考えてみましょう。はたして「うがった見方」とは、上で書いた文化庁が認識する誤用の意味「疑って掛かるような見方をする」であるといえるでしょうか? Twitterで「うがった」で検索してみると、どうやらこの解釈に全面的に肯定することはできないようです。


●自分が穿ものの見方しか出来ない事を最近ようやく理解し始めて、ASDと哲学はやはり親和性高いんだな、と思っているところ。。【異常】

●この上司への本質的に頼れることも信頼もないから、発言がいちいち見方してしまうのよね。【懐疑】

●なまじの知識が鑑賞の妨げになってるとしか思えない。見方というか。物語に踏み込まず表面をなぞって的外れな評論になってる。【異常】

●そもマスコミ引き連れてきてるならはじめからそういう絵を取りたいんだなって目で見ちゃうから様子見しちゃう【懐疑】

●あとかなり鑑賞のしかただとは思うけど、自主的にやってる子供を応援してるって口を揃えて言う親たちの本音が透けて見えて面白かった。【異常】

●いくら夫婦でも、別人格なのだから。みかたすれば、男女差別にもつながる!【異常】


 文化庁の見解【懐疑】の「うがった」は、確かにすべての文章に一応は当てはまる気はします。しかし私はそれ以外にも【異常】の意(2)を持たせた用法もあるのではないかと感じています。特に最後の文章では、【懐疑】的な見方と男女差別は全く意味が通らないので、異常、もしくは「発言者の意図に沿わない見方」と言った意味があると考えられますね。

 こう調べていてふと思ったのですが、私は「うがった」としか検索してないのに、その大半は「うがった見方」「うがった見解」など、「見る・考える行為」と同時に使用されています。今はまだ画一化された表現のようですが、中には「うがった言葉」など、他の名詞に付いている用例もありましたから、これからますますその用例は多様化していくのではないでしょうか。



 〈誤用は音から?〉

 ではなぜ「うがった見方」が「疑って掛かるような見方」になってしまったのかですが、これは容易に推測がいきますね。「うがつ」が「うたがう」に似た音だからです。またそもそもうがつという動詞の知名度が低いということも要因の一つでしょう。というわけで、もしかしたらうがった=「疑って掛かるような」であるとする人たちは、「うがつ」も「疑う」と認識しているのかもしれません。こうした類推という認識の仕方アナロジーはこの前紹介した「願わくは→願わくば」などにも適用されているように、言語の変化の大きな要因の一つです。そういえば、ら抜き言葉だってそうでしたね。



 〈馴染みのない単語は誤用に至りやすい〉

 誤用といって良く例に上がるのが「憮然・姑息・気が置けない・食い下がる」などでしょう。前二つはあまり使わない漢字を含んでいて、後二つは簡単な言葉だけどややこしいグループです。そして「うがった」は当然前者に入ります。なじみのない単語です。


 でも待ってください。ならどうしてわざわざなじみのない言葉を使ってしまうのでしょうか。普段使われないような言葉というのは日常語彙から抹消されるはずです。憮然だって、うがっただって、それぞれ言いかえは簡単に効きますし、「うがった見方」に至っては「疑って掛かるような見方」なら、「疑った見方」といえばいいはずです。馴染みがなくて誤用してしまうというグループは、その単語は誤用だ! と簡単に否定しないで、なぜ「馴染みがないのに使ってしまうのか」という疑問にこそ、をする方が楽しいですよ!




補足――

(1)文化庁広報誌「「うがった見方」は,良くないのか。」

https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/kotoba/kotoba_002.html

(2)コメントより「疑って掛かるような見方をする」以外にも、「歪んだ見方」なのではないかとの意見があり、追記しました。

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