「させていただきます」大流行時代
実は私は、今最も「問題な」日本語表現の一つがこの「させていただきます」の過剰使用だと思っていました。なぜならこの表現は「誤用ではない」からです。はてさて誤用ではないことをなぜ問題に思っているかと言いますと、抑制が行われないためです(だから増殖してしまう)。また、この「させていただきます」の使用が増えているというのは量の言語変化ですから、気づかれにくいわけです。
しかしなぜ多く使われるのかというところに、意味があるかもしれません。公平な目で見て生きましょう。
〈何が嫌なのか〉
「させていただく」形式というのは、「ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い,イ)そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合に使われます」と文化庁では解説されていま
最近記憶に残っている二つの例を挙げます。一つはホテルに宿泊する際、コンシェルジュが「お部屋の機能のご説明をさせていただきます」と言ったこと。この場合の私の解釈としては「(お客様にはご迷惑かもしれませんが、こちらにご宿泊されるということですから、そういったことを考慮いたしまして、説明を受ける許可を頂いたこととします。それでは)お部屋の機能のご説明をさせていただきます」といわれているように思えました。もう一つの例はバラエティ番組でとあるコンビが「○○という大会で優勝させていただきました」と言い放ったことです。この場合はもう、一体誰に「優勝の許可」をもらっているんだとか、あるいは恩恵をもらったという意味を含めて、賄賂でも渡して優勝したのかなと勘ぐってしまいました。
このように、「させていただく」は冗長である上に、はじめから許可と恩恵の意味が含まれている為面倒な形式です。こういった知識のある使用者からすれば違和感が大きい表現なのです。
〈変化として考えるなら〉
とある方はこの「させていただく」に代表される表現達を「卑屈語」と表現していました。必要以上に敬語を用いて自分の立場を下げ、波風立てないように生きていく。そういう処世術がはやっているのでしょうか。
それは置いといて。もし「させていただく」が単に敬意を示す表現としてとらえられていたら、どうでしょうか。この形式を多用する人たちには許可や恩恵といった意識はなく、「いたします」のように使われていたら……? それなら、納得がいきます。
つまりは敬語の画一化なんですね。最近は謙譲語形式ですら尊敬語のように使われていると小耳にはさみました。また「敬語の指針」でマニュアル敬語といわれる類いの敬語形式も、恐らくは煩雑な敬語体系をより洗練しようという新たな変化なのではないでしょうか。とすれば、「説明いたします」・「優勝しました」のより丁寧な言い方が「説明させていただきます」・「優勝させていただきました」として解釈されているということなのでしょう。
〈まとめ〉
近年増殖する「させていただく」形式は、恐らく従来の意味を捨て、単なる敬語表現として使われているのでないでしょうか。ら抜き言葉などがメディアで「誤用」とされている一方で「させていただく」はそのようなわかりやすい「誤用」としては現れないので。
補足――
(1)文化庁「敬語おもしろ相談室」第三話【4】
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/keigo/chapter3/detail.html
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