「間違いな日本語」について思うこと

「サーベルきつね」？「サーベルぎつね」？

　ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズに登場するモンスターに、「サーベルきつね」という名を持つ魔物がいます。でも、「サーベルぎつね」と濁ったほうが言いやすいとは思いませんか？　これは私の長年の疑問で、あまり「問題な日本語」とは言えない気もしますが、今回は「連濁」についてお話します。

　〈連濁の法則性〉

　日本語で、二つの単語が連合して一単語となる時、後ろの単語の先頭が濁る現象があります。連濁というもので、「ごみ＋はこ＝ごみばこ」などがあります。そして、完全ではないのですが、どういうときに連濁が起こるか・起こらないかの条件がいくつか解明されています。

①後ろの単語に濁音があると連濁は生じない（本居・ライマンの法則）→ごみ＋かご＝ごみかご〇　ごみがご×　例外：なわばしご

②主に和語で観察され、外来語では基本起きない→チーズ＋サンド（イッチ）＝チーズサンド〇　チーズザンド×　例外：いろは＋カルタ＝いろはガルタ

③二つの単語の意味が並列して置かれた単語には連濁が生じない→やま＋かわ＝やまかわ（意味が並列している）　くさ＋はな＝くさばな（複合して単一の意味となっている）

④連濁して発音しやすくなるのであれば連濁をする

　以上、三つは先行研究から。（（１））四つ目は私の考えです。この法則に「サーベルきつね」を当てはめてみますと、①はクリア。②も後ろが和語なのでクリア（スポーツ＋たましい＝スポーツだましい　になりますから）。そうなると③④が論点になるでしょうね。

　サーベルきつねのネーミング意図として、もし「サーベルをもったきつね」という思いが込められていたら、それは意味が並列した言葉ともとらえられるので、連濁が起きないというのも納得です。しかし、ただ「サーベルをもっている」という状態と「きつね」という存在が同じ程度の並列で語れるのか、といわれれば、頷きかねますね。正直、ここは命名者に聞かないとわかりません……。

　で、肝心の言いやすさですが、私からすればやっぱり「サーベルぎつね」と濁ったほうが言いやすいです。

　〈きつねの種類を見る〉

　それでは、少し思考を変えて、「○○きつね」という種族名を集めて並べてみましょう。

【種族名：アカギツネ・ホンドギツネ・キタキツネ・コサックギツネ・チベットスナギツネ・ベンガルギツネ・フェネックギツネ・ブランフォードギツネ・オジロスナギツネ・オオミミギツネ・オグロスナギツネ・ケープギツネ・キットギツネ・スウィフトギツネ・（シマ）ハイイロギツネ・クルペオギツネ・セチュラギツネ・ダーウィンギツネ・パンパスギツネ・チコハイイロギツネ

複合：いたずらぎつね・おぎつね・めぎつね・きざみきつねうどん・こんがりきつね・ひやしきつねそば・こぎつね・ごんぎつね・とびきつね・しろきつね・しろぎつね・くろきつね・くろぎつね】

　たくさん集まりました（満足）。さて、種族名では外国の地名や名前が付くとすべて連濁が起きていますが、キタキツネだけは連濁がありません。慣習的にそう呼ばれていたからでしょうか……。一応④の観点からみれば、別に連濁にするほど「きたきつね」が言いづらくなかったということでしょうか。

　お次は複合語。清音のままなのは「きざみきつねうどん・こんがりきつね・ひやしきつねそば・とびきつね・しろきつね・くろきつね」です。このうち後ろの二つは清音と連濁が起きた版と二つともあるのでちょっと避けますよっと。残ったのは主に料理です。そしてうどん・そば組はどちらも「きざみ＋きつねうどん」「ひやし＋きつねそば」と、複合語というよりは二語ですから、連濁ではないことがわかりました。

　さて、これだけ調べましたが、「○○きつね」の形になると連濁するほうが多いようです。そしてそれは種族名でも、複合語でも同じであるため、「サーベル＋きつね」も「サーベルぎつね」になったほうが自然なのですが……、でもなぜかサーベルきつねなんですよね。となるとやはり、連濁が起きてしまうとサーベル・きつねという二つ（武器と動物）が融合した、機械獣みたいなモンスターになってしまうという意思が命名者にはあったのかもしれません。今回は、こういう結論でお願いします！

　〈まとめ〉

　実は、「サーベルぎつね」と検索してもちゃんと引っかかります。もちろんドラクエのサーベルきつねです。ということは、私みたいに勘違いしている人もたくさんいるということですね。私の語感が狂ってるだけじゃなかったようで、一安心。

――「補足」

（１）『連濁に前部要素の音韻的特徴が与える影響：連濁データベースを利用した研究』　国立国語研究所