エッセイ
便利で曖昧な外来語たち【イメージ、コミュニケーション、コントロール】
〈便利な外来語〉
私が思う便利な外来語の一つ、「イメージ」を取ってみても、
・本番のイメージ思い浮かんだ?
・完成をイメージする
など、複数の用法・意味があります。それぞれ「構想図・想像」くらいの意味で、あらかたイメージは心内のイメージがある言葉ですね。しかし
・*画像はイメージです
などに代表されるよう、イメージには心外――実際に手に取れる現実のものを指すときにも用いられます。
このように便利でよく使われるけれど、一方でいくつも意味が分岐していて定義が曖昧な外来語を、私は曖昧な外来語と呼んでいます。題名にあるように、ほかにもコントロール、コミュニケーション、ロマンがあげられます。特に厄介なのは後ろの二つです。理由はずばり適切な「日本語訳」がないから。
・コミュニケーション能力が高いね
・まさに宇宙船は男のロマンだ
特にコミュニケーションをうまいこと訳せるのならば、そもそもこんな長ったらしい単語を使わなくて済んだのですが……。調べてみると福沢諭吉はこれを人間交際と訳していたようです。この場面で言えば、言語運用とか訳されそうですね。このように訳が定まっていないというのは、つまり意味が定まっていないというのに似ています。意味が定まっていないというのはもはや言葉としていけないのですが、それは次の〈問題点〉でお話ししましょう。
次はロマン。これが便利であり且つ非常に曲者であるというのは、皆さんも一度は思ったことがあるのではないでしょうか。この場合は特に「男のロマン」と、半ば連語として世にはばかっている表現ですね。もはや意味というよりかは、「こういうの男は好きなんだよ」という文意あってこその言葉だと考えられます。ですから、
・まさに宇宙船は男のロマンだ→宇宙船はまさに男が好きなやつだ
と、訳す以前の問題でしょう。(ちなみにここから逆算すれば、女のロマンは例えば結婚式で豪勢なウェディングドレスを着ることでしょうか)
〈問題点〉
曖昧な外来語の問題点はまさに一つのみ。意味があまり定まっていないことです。いやもちろん、辞書を引けばもっともらしい当たり障りのない定義が書かれています。それでもだいたいの場合は足りません。上でさんざん書き連ねたように、曖昧な外来語は便利な外来語でもあり、それは便利さが、意味の曖昧さに起因しているからなのです。
・これ制御しといて
・これ操作しといて
・これうまいこと見といて
をすべて
●これコントロールしといて
で言えてしまいますし、
●それはロマンがあるね
は、
・それは楽しそうだね
・それは心躍るね
・それは冒険的だね
などの要素を含んでしまっています。なんだか言いたいことが明確に言い表せないときに、曖昧な外来語の「便利さ」がそれ以上の思考を停止させます。そしてこのまま曖昧な外来語が増え続けていけば、様々な日本語表現を、便利な外来語が駆逐していってしまうでしょう。
考えてみれば、これらの外来語はもう【ヤバい、エグい、すごい】などと同じ段階にあります。確かに外来語がそのまま日本語に定着することで、英語への抵抗感は薄まるかもしれませんが、それ以上に日本語の多様性を薄くさせる可能性があります。今一度、言いやすい外来語の使用を控えてみてはいかがでしょうか。
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