ミ名詞形2:やばみ・尊み・萌えみ・怖み……?


 前回のミ名詞についての項は「間違いな日本語」というよりも、ほぼ日本語の説明になってしまいましたから、今回は反省しまして、なるべく若年層以外にはなじみのなさそうな(若者チックな)言葉を取り上げます。



 〈やばみ・美しみ・怖み〉

 ミ名詞は「個人的感情」という要素を持っていました。ならば、近頃造語されるミ名詞は感情名詞であるということが推測されます。例えば「やばみ・つらみ・うれしみ」などです。

 では少しひねってみましょう。まず属性形容詞「美しい」のミ名詞形「美しみ」はあるのでしょうか。私は無いと予測しましたが、Twitter検索ではいくつも引っかかりました。嗚呼、さっそく目論見が外れてしまいました。思ったより、今日の造語機能は高性能なようです。

 ではなぜ属性形容詞までミ名詞化したのでしょうか。これには二つほど理由がありそうです。一つは(これが若者言葉だと仮定して)語調を整えるためでしょう。若者言葉には「あげみざわ(<上がる)・あざまる水産(<ありがとう)」など、響きで遊ぶ傾向がありますから、このミ名詞形の「~み」語尾がかわいい響きであるなどという理由で好んで使われているのかもしれません。

 二つ目はいくら属性形容詞・感情形容詞といっても「個人的な思い」はすべての評価に存在するのだから、「美しい」の個人的意見・評価として「美しみ」が使われているかもしれないということです。ちょっとわかりにくいですね。言い換えれば「美しみ」は「美しい」という形容詞の名詞形であり、またその意見があくまで「美しいと思っている」と個人の意見であることを、本来はなかったミ名詞形で代弁しているのだ、と考えています。


 さ、応用として「怖い」のミ名詞形「怖み」はあるのか調べてみます。すると面白い結果が出てきました。もちろんTwitterでは存在を確認できましたが、実は18世紀の日本の浮世草子でその存在が確認できるというのです。

※「別れて我独りになって帰る時、始めて主人の事を思ひ出し、是から恐味(コハミ)が付て」と(1)

 しかしながら、現代日本語書き言葉均衡コーパスでは存在を確認できませんでした。ということは一度ミ名詞形として生まれていた「怖み」が徐々に衰退して使われなくなっていたのに、現在のミ名詞形ブームによって再誕生したということですね! なんと胸アツな展開でしょう。この事例から、やはり若者言葉だの、誤用だのと非難するのは、何とも一方的で一面的な行為であるといえます。




 〈尊み・萌えみ〉

 「尊み」は以前お話した「尊い」の名詞形です。形容詞のミ名詞形ですから、非常に日本語の規則通りに変化した言葉です。なお、「尊い」の派生形に「尊さ」というのもありますが……、「尊み秀吉」なる文句があることなどから「尊み」の方が一般的な印象があります。

 また考えてみれば、「尊い」は共感的というよりは個人的感情ですから、ミ名詞になりやすいのではないでしょうか(コメントにミ名詞形は「強調」されているような気がするというものがありまして、それも一つの論点になるでしょう)。


 お次は「尊い」と引き合いに出された「萌える」について。色んな言葉をミ名詞にする傾向があるならと、「萌えみ」を検索したところ出てきました。そしてざっとツイッターを見ましたら、使われ方はほぼ「尊み」と同じでした。この二語の線引きは難しいでしょう。


 ひとつ特筆すべきは、動詞である「萌える」にも元来形容詞の変化形であるミ名詞形が造語されたということです。もはや若者言葉において、ミ名詞は形容詞だけの変化形ではないということを示す面白い事例です。たくさん造語できるので、面白い変化だと私は思います。



――「補足」

(1)『精選版 日本国語大辞典』 コトバンクより。

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