トラックが壁とぶつかった→ホラーです。


 トラックが壁とぶつかった。この文章は、実はおかしいのです。さてどこが間違っているのでしょう?


……答えは「格助詞」です。

トラックが壁にぶつかった 

が(普通起こり得る現象を表した)文章です。たった「と」「に」の違いですが、ではどういう意味の違いがあるのかを考えてみましょう。

まず「①トラックが壁とぶつかった」だと、壁も、トラックも動いていることになってしまいます。なぜなら助動詞「と」は一緒に動作する相手を示すものだからです。

次に「②トラックが壁にぶつかった」ですと、きちんと皆さんが思うような、トラックだけが動いていて、ブレーキが利かずに壁に激突するというシーンを表しています。助動詞「に」は、動きが及ぶ相手を示すものだからです。


 格助詞一つをとってもたくさん種類がありますし、さらにそのなかの「に、より、まで」などにも各々いくらか意味があります。私たちはこの微妙な違いまでをも無意識に分別し、理解したうえで話し、受け止めているのです。そう考えると、なんだか感心してしまいますね。



〈格助詞の微妙な違い〉

 有名なお話に、次のようなものがあります。とある俳諧師の弟子が、「米洗ふ前に蛍の二つ三つ」と句を詠みました。しかしその兄弟子は、「米洗ふ前で蛍の二つ三つ」と、ニという助動詞をデに変えました。ニだともう動かないような受け取り方ができてしまうから、そこで蛍が死んでしまう。デであれば蛍に動きが出てくる、と。そして師匠にこの句を見せると、これまた直しが入りまして「米洗ふ前を蛍の二つ三つ」となりました。師曰くニであれば飛ぶ様子が煩わしいのに対し、ヲであれば静かに視界に入り込んで飛んでいく様子が表せると。

 皆さんはこの話を聞いてどう思いましたか? そしてどの句がいいと思いましたか? 感性は人それぞれでしょうが、今回の話をまとめて一つだけ言えることは、「助詞の意味の違いは確実に存在するけれど、深く追求しない場合は的確な使い方でなくとも意味は通る」というものです。

 恐らくですが、この俳諧のお話ができたということは、この時代でもすでに助詞の難しさがあったのでしょう。そして、その難しさは現在でも「トラックが壁とぶつかった」を見れば実感できますね。


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