第18話 渾身の爆炎拳
駄目だ。私の声が届いていない。
二人はもう別人みたいだ。闘うことに意味なんてあるの?
今になって言うなよと思われるかも知れない。でも――
それでも私は平和がいい。平和こそが一番だ。
「ほう。中々な動きっぷりですね、私の魔力剣を避けるとは」
ああ。なにも出来ない自分が悔しい。どうして異常なの。私。
「貴様! 絶対に許さん! 人の気持ちを踏みにじるなど!」
アスハさんは魔力剣を避けているけど切りがない。
何度も避けても魔力剣は消え元の位置に戻っている。
これでは容易に近寄れない。どうするの? アスハさん。
「人の気持ち? 一度でも付いた火は消えない物ですよ?」
そうだ。でもそれでも私たちは前を向かなければならない。
もし辛いのなら私自身が成長しないと駄目だ。絶対に。
そうじゃないと偽善者になってしまう。それだけは避けたい。
「ほざけ! 降らない雨はない! 諦めなければいつかはくる!」
アスハさん。……私も諦めたくない。死んでいい人なんていない。
ここはどうにかして止めさせないとアスハさんに申し訳が立たない。
あ。どうやらシルヴァも参戦するようだ。有難う。皆。
「援護するよ! アスハ!」
シルヴァはそう言うと人差し指の先を敵に向け始めた。すると――
「ほほう。これはこれは前が見えませんね。しかし!」
嘘でしょ? 目が見えない筈なのに魔力剣を的確に操っている?
「く。気を付けろ! 奴は魔力感知に長けている!」
アスハさんはどんどん迫る魔力剣を走って避けつつ言っていた。
「そ、そんなぁ」
シルヴァの残念そうな声がした。駄目だよ!
あ! そうだ! 私の魔力を溢れ出させればいいんだ! 逆に! ならここは――
「うん? なんですか? この異様な魔力は?」
よし! 効いている! ここはどんどん放出していこう。これが私の得意技だから。
「は!? ま、まさか!? この魔力は!? 魔王!?」
違うよ。この魔力は紛れもなく私のだ。神経を研ぎ澄まし
これで敵はむしろ逆にどこにだれがいるかを把握出来ない筈だ。
「よくやった! 後は私に任せろ! はあああああ!」
両瞼を閉じ神経を集中させているとどこからか爆発したような音と衝撃がきた。
私は思わずその凄まじさに驚き両瞼を開けてしまった。
気付いた時には敵は仰向けに倒れていた。顔を焦がしながら。
「や、やったの?」
私はその場に崩れた。気付けば全身が震えていた。はは。勝った? 勝ったんだよね? これ。
「ああ。お陰で私の爆炎拳が敵の顔面に入った。後は御覧の通りだ」
よ、よかった、だれも死ななくて。はぁ。心臓がいくつあっても足りないよう。
「ねぇ? アスハ! さっさとこいつを連行しようよ!」
連行? 捕まえるの? ってそれって! 罪には罰をって言うんじゃないでしょうね?
嫌だ、そんなのは。でも今回の件で反省の色がないのなら仕方がないのかも。
「うむ。そうだなと言いたいがここはミサトに一任して見るかな」
え? 嘘。私が決めてもいいの? でもそんなことをしたらまた帰ってくる――。いや。ここは――
「私は罪滅ぼしさせたい。でも交渉の道具になんかしたくない。だから――」
私の答えはもう決まっている。だから――
「「だから?」」
シルヴァとアスハさんの言葉が被った。だから!
「捕まえた後にもう一つの大陸の案内役になって貰う。そこを足掛かりにして平和を訴えたい。……駄目かな?」
これは私なりの考えだ。甘いのは知っている。それに罠があるかも知れない。でもそれでも私は前進したいんだ。
「私は賛成だ。どちらにしても後手の戦争は避けれなさそうだ。私はどこまでも付いていくぞ」
アスハさん。……どこまでもだなんて。私。頑張らないとな。言ったからには果たさなくちゃ!
「僕も賛成だよ。ここはさ。陸に大穴を開けたように海にもしちゃいなよ。そうすればさ。平和がくるよ」
シルヴァ。実はそれは本意じゃない。本当は会話で平和を掴みたい。でも現実はそんなに甘くないよね。
「皆! 有難う! 私! 平和にして見せるよ! この世界を!」
絶対にとは言えないけれど平和にして見せるが今日から私の目標になった。
だけど決して聖女が好きになった訳じゃない。私は――私は――
ただこの美しい世界を守りたいだけなんだ。もう。止まらない。止まれない。
だってこれが私の望んだ未来なのだから――
神の如く召喚された聖女は脚光を浴びたくない~あとは偽の聖女に任せ私は裏で糸を引きたい~ 結城辰也 @kumagorou1gou
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