第43話 女の戦い・5 約束
女子野球も甘くはない。
五回を投げて三失点のシーナである。
六回からは田村光が代わって、追加点は許さなかった。
双子は単打までに抑えたのだが、その前にランナーを出していたのと、その後に打たれたのが痛かった。
考えてみれば高校に入学してからは、練習試合でもせいぜい三回までしか投げていなかったわけで、ペース配分に失敗した。
対する新栄のイチャ百合バッテリーは完投した。
シーナがヒットで出た後、明日美にホームランを打たれて二点を失ったが、失点はそれだけで、七回完投勝利である。
男子に混じって練習も試合もしていたので、無意識に上から目線になっていたかもしれないが、このバッテリーは上手かった。
公式戦では当たらない。シーナは甲子園を男子と共に歩むからだ。
だが女子野球でもこれだけ面白い選手が揃っているなら、男子との混合に拘る必要はないのかもしれない。
ただ大学野球は元から、女子選手の参加も認められていた。
プロ野球が女子に解放されたのは前世紀の話であり、それを考えると高校野球だけがずっと女子選手を認めていなかったのである。
大学では、女子野球をしてもいいのかもしれない。
そもそも普通のスポーツは、男女が分かれているものがほとんどだ。
甲子園に行きたいから男子と混じって競い合ったわけであって、別に神宮でプレイしたいとは思ったことはないし、さすがにプロになれるとまでは思っていない。
シーナの意識が変わりつつあるが、それとは別に午後の二試合目が迫ってくる。
今度は双子と同じチームだ。シーナはセカンドに入れる。
バッテリーは双子なので、途中で交代するのかもしれない。
あちらは、いよいよ権藤明日美がピッチャーである。
食事をして水分も補給し、さあ第二戦。
「あの、シーナさん、ちょっとお願いしていいですか」
そう言葉をかけてきたのは明日美であった。
「ん? 何?」
この子は本当に、無邪気な表情をしてくる。
精神年齢が幼いのかと思ったこともあったが、純粋に素直なのだろう。ただ双子が侮っていないところから、それなりの注意が必要だ。
「次の試合、あたしたちがシーナさんの白富東組と当たるじゃないですか」
確かにシーナと双子が同じチームにはなっている。
「もしあたしたちが勝ったらでいいんですけど……」
もじもじとしているが、なんだかいちいち仕草が可愛らしい。
ただ、高校球児っぽくはない。
「白富東との練習試合を組んでもらえませんか!」
「……………………へ?」
千葉県立白富東高校は、言うまでもなく先日まで行われていた春のセンバツ甲子園を優勝した、日本で最強のチームである。
優勝チームに準優勝チームが挑むという、字面だけを見れば納得しそうなものはあるが、中学シニアの準優勝チームが白富東と戦いたいなどと言ったら、身の程知らずにもほどがあると思うだろう。
世界を制したなでしこジャパンでも、J2のチームに勝てるのかという例えの方が分かりやすいだろうか。
ただ、シーナは怒る気になれなかった。
この二日間で分かったことだが、明日美は本当に、素人なのだ。
野球って面白いな、という程度の感覚でやっていて、本当にどうしてこれで、全国準優勝まで勝ち残ったのかが不思議なのだ。
「……あたし一人で決められることじゃないけど、キャプテンには話を通すぐらいするけど」
「やったーっ! 頑張るぞーっ!」
そしてぴょんぴょんとあちらのベンチに去っていく。スキップするなし。
それを見送ったシーナであるが、負けるとは全く思っていない。
こちらは双子が投げるのだ。途中で交代するにしても、女子選手でこれを打てる者がいるとは思えない。
三打席勝負では明日美が打っていたが、本当に本気になった双子は、バッターとしても恐ろしいのだ。
あちらは明日美が投げるが、女子最速でも140kmには全く届かない。自分と双子なら打てる。
チームメイトを見てみれば、あちらには聖凛の二遊間がいて狂犬高橋がいるが、こちらにも光と織田妹がいて、バランス的にはおかしくない。
(別に身の程知らずとは思わないけど……)
本来のポジションのセカンドで、シーナはスタメン出場である。
(女子レベルのピッチャーを打てないなら、甲子園でも打てない!)
気負う。
侮るわけではないが、今更シニアと戦えと言われたのと同じような感じで、違和感は拭えない。
面白くなりそうな第二試合が始まる。
先攻の紅組に、シーナは入った。
打順は三番。双子は五番と六番に入っている。
ピッチャーもしているとは言え、七回までしかない女子野球なのだから、本来は三番と四番あたりに入れてほしかった。だが打順の組んだのはコーチ陣なので仕方がない。
こちらの先頭は織田夏姫。兄と同じように俊足で、バッティングも巧打と言っていいだろう。
だがストレート二球の後のスプリットで、三球三振。
(変化球がスプリットだけで通用するって、かなり珍しいかな)
二番打者も三球三振で切って捨て、いよいよシーナの打順である。
サインを出しているのは神崎恵美理の方だ。
ここまで明日美は首を振らず、そして初球からストライクを取りにきている。
(初球は見ていきたいんだけど、ストレートと分かってるなら)
本当はここまで決め球に二球使ってきたスプリットを見たいとは思ったが、三者三振はまずいだろう。
初球。これはストレート。
そう思って振ったバットの下に、ボールが沈んだ。
組み立てを考えて、今度は最初にスプリット見せにきた。
(スピードもある。て言うかこの子……)
二球目。見分けがつかず見逃せば、ストレートでストライク。
二球で追い込まれてしまった。次はさすがに一球ぐらいは外してくるかと思うが――。
(入ってる! どっちが――)
ボールが沈み、三振。三者連続で三球三振である。
ふんす!とガッツポーズの明日美であるが、シーナは慄くと同時に呆れもする。
明日美の球種は、フォームからは読み取れない。
同じフォームから投げ分けているのではなく、フォームが固まってないのだ。対戦してみてやっと気が付いた。
「一冬過ぎたのに、全然変わってないなあ」
ネクストバッターサークルで待機していた光が、やはり呆れたように呟いた。
「あれ、投球指導受けてないよね?」
「そうらしいよ。明日美のお父さんが時々コーチはしてくれてるらしいけど」
「お父さんって、元プロとか?」
「いいや、ただの野球経験者。高校野球もしてないってさ」
「どういうことなの……」
普通ピッチャーというのは、コントロールが取れるフォームをしっかりと身につける。
同じフォーム、同じ腕の振りから、違う球種を投げ分ける。
だが明日美は違う。もちろんある程度のコントロールはあるのだが、タイミングがバラバラだ。
なぜこれでちゃんとストライクが先行するのか不思議なぐらいだが、実際にここまでボール球を投げていない。
ストライクが来ると分かっていれば、打てそうなものなのに。
権藤明日美は、才能だけで野球をしている。
シーナの知る限りでも、才能の飛び抜けた選手というのはいることはいるのだが、大介や上杉勝也も、野球の基本はちゃんと理解している。
だが明日美は違う。一応本当の基礎的な部分は守っているが、普通なら固めなければいけない部分が固まっていない。
それでパワーがあちこちに洩れてしまっているのに、130kmを投げる。
しっかりとしたフォームをみにつければ、もしかして140kmに達するのでは?
「顔が怖いよ。あんまり深刻に考えるとドツボにはまるよ」
ファーストに入っている光とは、ポジションは近い。グラブを持って守備につく。
そうか。
(フォームが固まってないから、逆にストレートとスプリットの見分けがつかないんだ)
スプリットの速度でくるストレート。それにスプリットの落差も、ばらばらなのかもしれない。
変化球が一つだけと思ったが、実は同じスプリットが色々なタイミングで投げられる。
アレクに似ているが、アレクはちゃんとフォームを固めた上で、スライダーを微調整しているのだ。
理屈は分かった。しかしおかしすぎる。
明日美はオーバースローだ。そのフォームのどこか一つがおかしくても、まともにコントロールはつかない。
いや、投手ではないが、でたらめなフォームに見えるが、自分ではしっかりと基準があってプレイしている人間がいる。
大介だ。
なんでそんなフォームからというスイングで、ホームランを打ったり守備の間を抜いたりする。
明日美のピッチングは、大介のバッティングに匹敵するのか。
いやまさか。
「燃えてきた~! いっくで~さくらん!」
「はいな、つばきん!」
また分かりにくいパロディをしながら、双子が投球練習を開始する。
白組の先頭打者は高橋有希。
狂犬と言われるのはピッチャーに対する好戦的な態度もあるが、何が何でもくらいついてヒットにするという姿勢から名付けられている。
しかしサウスポーの、オーバースロー、サイドスロー、アンダースローという三つのフォームから一つの打席に投げられては、さすがに打てない。
死にそうな顔で凡退し涙ぐんでいるが、大丈夫、君は常識的にいいバッターだ。
続く二者も三振し、双子のバッテリーも三者三振のスタートを切った。
二回の表、紅組の先頭打者は四番の田村光。
どちらかと言うと四番を打つタイプではないのが、打率の高いバッターではある。
ようやくファールでボールをバットに当てたが、やはり三振。
ストレートとスプリットの組み合わせだけで、ここまで全員を三振に取っている。
これが女子高校野球最強の所以か。
そして打者は、五番の佐藤桜。
どっちがどっちかいつもは分からない双子だが、今日は背番号があるので間違いようがない。
明日美の攻略法は、実のところ簡単である。
もちろんこの双子にとっては、という前提条件がつくが。
(ストレートに絞って狙い打つ)
スプリットは変化量が変わるので、打っても単打までが精一杯。
しかしスプリットの抜けた棒球かストレートなら、それだけ速くてもホームランは打てる。
そう思ったのだが。
「ストラックアウト!」
ストレートの下を振ってしまった。
タイミングは合っていたのだが、軌道が違った。思ったより浮いてくるように見える。
続く椿はようやく前に飛ばしたが、ゆるいピッチャーフライ。
結局は三者凡退である。
投手戦になってきた。
三回が終わり、打者は二巡目となる。
先頭打者としてまた回ってきた夏姫は、以前から言われている明日美の弱点を攻めるべく行動する。
即ち、体力のなさ。
決勝戦も延長に入って負けたのだ。ダイナミックなフォームからの投球は、それだけ体力を消耗する。
それにキャッチャーのリードも、完全に一つの枠にはめられている。
即ち、ゾーンの中にしか投げない。
球数を減らすのは確かに体力温存にはいいだろうが、いくらなんでもゾーンにしか投げないのなら、ファールで粘って甘い球を狙える。
追い込まれてから二球ファールに飛ばし、スプリットの変化にもついていく。
ポニーテールに髪をまとめていた明日美は、帽子を取ってふう、と息を吐いた。
キャッチャーの恵美理に目で合図をする。
(ストレート?)
(うん、だけど――)
もっと速い球を一球だけ投げる。
疲れることは疲れるが、このストレートも決め球だ。
ぐいと大きく振りかぶって、左足を空中で大きく引く。
すると当然、背中がバッターに向くようにみえて――。
(トルネード!?)
それまで以上の伸びのあるストレートが高めに入って、夏姫は三振した。
バッターボックスにシーナは入る。
トルネードで投げるのを見たのは、さっきが初めてだ。
ここまで温存していたのか? いや――。
(考えたくないけど、球に勢いをつけるために、トルネード投法にした……)
無茶苦茶だ。
一つでないフォームを使うというなら、直史やツインズもそうだ。
だが直史やツインズは、ちゃんと試してみた上で、そういった投げ方をするのだ。
ぶっつけ本番でフォームを大きく変えて、それでちゃんとストライクが取れることがおかしい。
これは紅白戦だが、おそらく公式戦の中でも、こういったことをしてきたのだろう。
まともな野球選手であればまともであるほど、このピッチャーは打てないはずだ。
(しかも単にデタラメなだけじゃなく)
キレのいいスプリットが、膝の高さに落ちていった。
(組み立てはこの子か。でも野球を始めたのは高校からだって)
バッテリーが共にデタラメすぎるのだ。
それでもシーナなら、明日美は攻略出来る。
いやシーナならずとも、試合経験の豊富な者たちは、去年の夏の結果を知っているのだ。攻略法を考えているはずだ。
それを使わないのは、おそらく公式戦で当たった時のため。
仕掛けてみるか? なんといってもここまでパーフェクトをやられているのだ。
ツインズがパーフェクトをやるのはある程度想定どおりだが、明日美にパーフェクトをやられるとは思わなかった。
ここまでボール球が極端に少ないことも考えても、いくらでも崩す方法はある。
しかしそんな搦め手を使っても、シーナ自身の実力にはつながらない。
(ストレートを――狙い打つ!)
高めのストレートをレフト前に運び、明日美のパーフェクトを阻止したシーナであった。
シーナのみならず、おそらくこの場の人間のほとんどが、誤解していた。
明日美の能力の上限を。
ツーアウトから出たシーナは、盗塁をしかけた。恵美理の捕手としての力は、ほとんどキャッチングとリードに限られていると思ったので。
そしてそれは正解だった。三塁まで到達。
しかし確実にシーナをホームに帰すことが光には出来ず、スリーアウト。
ツインズは打撃練習でホームランを打たれた明日美も、しっかりと三振で切って捨てている。
公式戦での対戦を考える必要がないので、大人気なくスルーなども使って、完全なパーフェクトに抑えている。
純粋にピッチャーとしてのツインズの能力も高いのだが、それ以上なのはバッテリーとしての能力だ。
サイン交換の時間がなく、次々に投げ込んでいる。配球を読む余裕がない。
しかしこのツインズが打撃に回ると、明日美のピッチングにくるくると回される。
明日美の球種は確かにストレートとスプリットだけなのだが、実際にはフォームが違うことでタイミングが取れず、チェンジアップを持っているのと似た効果が出ている。
少ない球種ではあるが、コンビネーションは組み立てられている。
そもそも、球の最高速が速い。
コーチ陣がスピードガンを覗いて驚いているのだから、おそらく事前に聞かされていた最高速134kmか、それ以上が出ているのだろう。
だが、体力がそれほど突出していないのだけは確かであろう。
六回の表を終わって、肩で息をしている。
七回にはシーナに打順が回り、シーナが出ればゲッツーにならない限りは桜に回る。
ツインズの方は五回からバッテリーを交代し、球数など投げても平気なようにしている。
いくら双子でもここまで全く同じ能力というのは、常識的に考えてもおかしいのだろう。
(延長戦まで持ち込めば勝てる)
一人のピッチャーにここまで好き放題されるというのはアレだが、勝ち筋は見えてきた。
何よりツインズは、ここまで継投パーフェクトをしているのだ。
まともに打ってこのバッテリーから得点は奪えない。ならば一発狙いであろうが、ホームランを打てそうなのは都沢と明日美ぐらいで、その明日美もバッティングに割り振る体力がどれだけ残っているか。
そう思っていたら六回、ツーアウトから九番打者の恵美理にポテンとライト前に運ばれた。
打球は弱く、完全に球威に押されてはいたものの、パーフェクトを破る立派なヒットである。
シーナはこれをまぐれだとは考えない。
おそらく恵美理は、キャッチャーとしてバッターが何を狙っているかを、確実に読んで明日美に投げさせている。
だから双子のやたらと多い球種を読めたのだ。
だが結局、このヒットも無駄に終わった。後続をぴしりとシャットアウトする。
最終回。
ワンナウトランナーなしで、シーナは打席に入る。
肩で息をしている明日美はそろそろ限界だろうが、出来ればこちらもそろそろ決めてしまいたい。
シーナが出塁すれば、盗塁に二塁にまでは行ける。
桜がタイムリーを打ってくれれば、それで一点が入る。
「さっきの、よく打てたね」
涼しい顔でしゃがんでいる恵美理に声をかける。
「ああ、あれはリズムが分かったから」
「リズム?」
何やらイリヤっぽいことを言い出したが、恵美理はシーナを打ち取ることに集中している。
明日美もここまで、唯一のヒットを打っているシーナに集中だ。
ストレートとスプリット。
ただしそれとは別に、タイミングを狂わせるフォーム。
「トライクッ!」
制球はさらに荒れてきたようだが、球威はまだ落ちていない。
真ん中近くに集めているボール。ミート重視で、弾き返す。
(打つ!)
鋭いセンター前に抜けるはずの打球は、明日美のグラブに収まっていた。
ナイスフィールディングである。
結局ここまで、両軍わずか一安打ずつで、四球によるランナーもなしという結果だ。
延長に入ってどちらが勝つにせよ、ほとんどパーフェクトなピッチングではある。
だが七回の裏、恵美理が一本ヒットを打っていたことで、ツーアウトながら四番の明日美に回る。
明日美はここまで二三振だ。しかしスイングは大きい。
万一当たればホームランは狙えるわけで、慎重にいくなら敬遠してしまってもいい。
だがこれはあくまでも紅白戦であり、バッテリーがそれでは納得しないだろう。
大きく変化する低めへのカーブを振って、ワンストライク。
(バットのヘッドが下がってる。確かに体力はギリギリか)
そういえばそもそも論だが、この紅白戦は延長をするのだろうか。
シーナはとんなことを考えるが、明日美の交代はさすがに行うだろう。
バランス的に考えたら、光は向こうのチームに入るべきだったのではないだろうか。
「明日美さん!」
バットで体を支えながら息を整える明日美に、ベンチから恵美理が声をかける。
その口はパクパクと動いたが、声にはならない。
だが、明日美は強く頷いた。
上下に激しく動く肩が止まる。
集中しているのか、少し唇が突き出されて、ひょっとこのようになる。
(狙ってるな)
間違いなく、ホームランを。
シーナならここは、一球外してからスルーを使う。
だが双子は、勝負を急いだ。
(あ――)
低めに沈んでいくスルー。
だがそれに、明日美のスイングが激突する。
レフト方向。明日美は打球を追いながらも、よろよろと一塁へ走り出す。
だがそれは途中で緩んだ。
打球がフェンスの向こうに消えたからである。
エースな四番による、0-0最終回ツーアウトからのサヨナラホームラン。
(樋口ぃ!)
思わず去年の夏を思い出したシーナであった。
明日美とツインズが仲良くメアドなどを交換し、学校の前で別れる。
明日美と恵美理はお迎えの車が来ているらしく、シーナとツインズはバスと電車の交通機関を使って千葉へと帰還だ。
「随分と仲良くなったわね」
幸い春休み中だったので、バスの席はかなり空いていた。もっとも他の集まった女子選手も一緒に乗っている者が多いのだが。
「女の子にスポーツで負けたのって、生まれて初めてだもん」
打たれたのは桜であるが、隣で椿もうんうんと頷いている。
……実のところ、どちらがどちらなのか、シーナには分からないのであるが。
敗北を知りたい。
ツインズがよく冗談のように言うことであるが、明日美は二人のお眼鏡にかなったらしい。
シーナとしても衝撃的ではあった。唯一のヒットを打って存在感を示したとは言え、まさか女子選手に抑えられるとは。
考えてみれば二試合のうち、明日美の打点は三点で、本塁打も打っているので、打点と本塁打の二冠王である。
そして投げれば七回を完封。
なるほどチームスポーツとは言え、確かにこれは敗北だろう。
だがツインズは楽しそうだ。
この二人の友達らしい友達はイリヤぐらいであったのだが、確かに明日美はツインズに付き合って遊びまわれるぐらいの身体能力はあるのだろう。
ニコニコと笑う二人に対して、シーナはやや憂鬱であった。
女子にもまだ、あんな素材がいる。
ほとんど才能だけで、ツインズのバッテリーからホームランを、しかもスルーをホームランにするような人間が。
なんで打てたのか不思議ではあるが、そもそも明日美は基本、ストレートしかヒットに出来ないのだ。
何かツインズに、スルーを投げる時のクセでもあったのか。
白富東の前に立ちふさがるわけではないので、とりあえずの脅威となるわけではないのだが。
しかし別れ際に、練習試合の件は口にしていた。
……ジンにどう説明すべきか悩むシーナである。
「東京に行く時の楽しみが増えたね」
「イリヤも一緒に連れて行きたいね」
ツインズはそんなことを言っているが、聖ミカエル学園は東京の西、はっきり言ってド田舎にある。
まあそこまでシーナも説明しようとは思わなかったが。
半分以上はお試し気分で参加した合宿。
しかしここでシーナは、自分の未熟さを思い知った。
圧倒的なフィジカルとセンスに対抗するには、さらなる技術と判断が必要。
新学期からは、またやらなければいけないことが多い。
これがシーナとツインズとフィジカルモンスターの、長い付き合いになる出会いであった。
3.01 了
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