第24話 He is the HERO

 双子を同行させたセイバーは昨日と同じ病院へ行き、また札束攻撃で医師に診断をさせる。

「……実はネットで見てたんだけどね……君ほんと、無茶するね」

 嘆息する医師であるが、道理も無理も吹っ飛ばす。それが白石大介である。

 なお同様のことが出来る人間が、周囲には複数いる模様。


 またレントゲンを撮った医者は、ふうと安堵の溜め息をついた。

「結論から言うと、問題はない。筋肉の方も、腫れがないから損傷はないと思う。と言うか……」

 今度は首を傾げる医師である。

「既に骨がくっつきかけてるんだけど、そちらのお嬢さんみたいに、双子じゃないよね?」

 大介にも限界はある。

 しかしその限界は、まともなところにはないようであった。


 医師は苦笑いするしかない。

「まあ確かに時々、君のような人間はいるんだ。戦場で見たんだけどね」

 さらっと怖いこと言う医師である。

「爆弾とかで内臓とか飛び出るじゃん? それをまあ仕方ないから、とりあえずつなげて中に押し込むの。普通なら殺菌も出来てないし、そのまま死なせてやった方が楽だったかとも思うんだけど、二週間ぐらいで普通にまた銃持って前線戻っていったりね」

 お、おう。

「ただ回復力が異常でも、変なくっつき方をしたら不味いから。それはどうしようもないよ? あとはちゃんと休むこと。ドクターストップだ」

 さすがに止める医師である。




 ホテルに戻るタクシーの中で、大介は固まっていた。

 助手席にはセイバー。後部座席に大介が座って、それを両側から双子が支えている。

 実際は眠り込んでしまった双子が、大介の肩を枕にしている。大介が運ばれた救急車を、タクシーで追って来た。

 その目の周りが真っ赤に腫れている。

「想われてるわね」

「勘弁してくださいよ」

 そう言うしかない大介である。

「二人一緒なんて、とても支えられないっす」

「彼女たちは別に、白石君に寄りかからなくても生きていけると思うけど」

「三人でって、さすがに異常でしょ」

「そう思っているのは貴方だけよ。民主主義なら二人の勝ちね」

「けど世間体ってものがあるでしょ。セイバーさんだって、自分が二人いて……いや、どう例えたらいいのか分からないけど」


 セイバーは、この夏の甲子園まで監督であった。

 今もまだデータ分析の部門でコーチとして参加しているが、既に高校野球とは離れた身である。だから好き勝手している。

 監督という立場を離れた一人の大人としては、世間の色々な価値観を教えてあげることが出来る。

「性癖も恋愛関係も、お互いが認めるなら、タブーなんてないのよ」

 特にアメリカは、幅広いセクシャリティが存在する。

 もっともそれに対する差別も大きい。

「たとえば私は同性愛者だし」

 指導する立場ではないと考えれば、こうやってカミングアウトしてしまえる。

「……マジっすか? えと、ひょっとして早乙女さんと?」

「気付いてた?」

「いや、仲がいいなとは思ってましたけど」


 なおタクシーには普通にドライバーがいるのだが、全く無関心である。

 日本語で話しているのだから当然であるが。

「私の場合は後天的なものね、ほら、この外見でしょ? 子供の頃から男の子に苛められて」

 それはおそらく、ただ関心を引きたかったのだろう。

 だが当人にとってみれば、もちろん悪意以外の何者でもない。

「それをクラスの中の強い女の子に助けられてね。それをかっこいいと思ってしまったのがまあ、マイノリティになるきっかけだったのかな? 生まれつきかもしれないけれど、私は後天的だと思っている」

「う~ん……同性愛者って、そもそも脳が体の性別とは逆だとかありませんでしたっけ?」

 この程度の雑学知識は大介にだってあるのだ。

「それは性同一性障害ね。私は頭の中身も女だし、えっこもそう。えっこはそもそも、男でも大丈夫らしいけど。同性愛者でも男側の人もいれば、女側の人もいる。そういうのに比べたら、その子達は白石君を共有したいだけで、あとはほとんどノーマルよ」

「ノーマル……」

 まあ存在自体がアブノーマルなのかもしれないが。


 沈黙してしまう大介であるが、セイバーはそれに追い打ちをかけたりはしない。

「まあすぐに決めなくてもいいのよ。生活が変われば考えも変わる。プロになって地方の球団に行けば、嫌でも距離は離れるし。……距離が離れたぐらいで、諦める子たちでもないと思うけど」

「アメリカまで来れば諦めますかね?」

「忘れたの? イリヤの本拠地はアメリカなのよ。 逆に嬉々としてやってくるわね」

 双子からは逃げられない!


 溜め息をつくしかない大介であるが、未来の選択を今すぐする必要はない。

(とりあえず保留! 今は野球!)

 そういうところだけは、ラブコメマンガの主人公のような大介であった。




 やばいほどの報道が待機したホテル前を華麗にスルーし、早乙女の手配しておいたホテルの清掃業者の車に乗り換える。

 そこで待っていた早乙女とセイバーはハイタッチするのだが、言われてみれば確かにこの二人は、単なる親友と呼ぶには仲が良すぎた。

 そしてそこから業務専用口を通って、ホテルの中に帰還完了。

 眠そうに目をしょぼしょぼとする双子に比べて、担架で運ばれたはずの大介は、普通に元気に歩いていた。

「ただいまーっす」

 ホールで食事をしていた選手団が、一斉に振り返る。


 木下を先頭に大介へ急接近。その背後の双子には目もくれない。

「どや! 大丈夫なんか!? まあ歩いてるならひどくはないんやろうけど」

 頭のてっぺんから爪先まで、木下は見ていく。

「なんもないっすけど、安静にしてろと言われました。でもなんか、骨がもうくっつきかけてるっぽいっす」

 ぱちぱちと木下は目を開け閉めする。


 ぎゅろん、と背後を見る。誰に向けたものでもなかったろうが、問いかける。

「骨折って、そんな簡単に治るもんちゃうよな?」

「めっちゃ細い亀裂骨折でも二週間ぐらいって聞きますけど」

 律儀に初柴が答えているが、それは木下の首を傾げさせるだけだった。

「白石、お前ほんまに地球人か? サイヤ人の血、八分の一ぐらい混ざってへんか?」

「さすがに曾爺さんのことは知らないっすけど、親父は確かにプロ野球選手でしたね」

 母親もスポーツは得意だったそうだが、運動神経の遺伝子はおそらく父方からのものだ。

「とりあえず飯食え。まあえらいことになったからな」


 ホテルの前の様子でも分かったが、おそらくアメリカのマスコミ各社が、人員を送り込んできている。

 そもそも大介は、メキシコ戦でやらかしてしまった。直史が唆したとは言え、実際にやってしまったのは大介だ。

 もちろんさらにやらかしてしまった本日の大介であるが「右で打てば」と言ったのは直史である。

 やはり半分ぐらいは直史が悪い。

 ばくばくとまた食事を始める大介を呆れるように見ながら、木下はテレビを点ける。

「まあえらいことになってるからなあ」

 スポーツ系のニュースにチャンネルを合わせれば、ほとんど野球の話である。

 しかもこのワールドカップだ。時期的にそろそろMLBも佳境に入ってきているはずなのだが。


「お~、お前らも映ってるじゃん」

 もぎゅもぎゅと食べ物を胃に送り、のんびりと大介は言う。

 熱唱する双子の姿に、コメンテーターらしき人物が何かを言っている。早口の英語なので、ほとんどの者は分からない。

「絶賛されてるな。魂からの叫びだと思われる歌声、ってとこか」

 聞き取りだけならなんとかいける織田が解説する。当の双子はしょぼしょぼしながら、日本選手団の席で一緒に食事をしていたりする。


 気にしているのは、双子ではない。

「あ~、これはもうダメかもしれないわね」

 完全に置物と化していたイリヤが呟く。その手元ではスマホをいじっている。

「今日発売の文秀砲で、S-twinsの声が特定されたって記事があるの」

 手塚からのメールであった。




 個人が発信できるこの時代、球場にいながらもスタンドを観戦する変わった人間はいる。

 そういった人々の撮影した動画が、既に世界中に流れているのだ。

「ヒーローやもんなあ。わしらの年代の人間、全員知ってるんとちゃうやろか。再放送もされたし、テレビでもしょっちゅう流れるし。けどラグビー専用やろあれ。ええ曲やけどさ」

 どこかで聞いたことのあるあるシリーズ。一万二千年前からの歌と同じ系統か。

「そもそもあれ、英語が原曲なんですけど。ラグビーは全然関係ありません」

 イリヤの言葉に、へえと口を開く木下であった。


 スラムダンクでバスケを始めた者がいて、キャプテン翼でサッカーを始めた者がいたように、スクールウォーズでラグビーを始めた者がいるのは、圧倒的な事実である。

 そう思うと野球は、そこまでの影響力を与えた傑作はないように思える。まあ、甲子園の価値を爆発的に高めたということなら、タッチがそれになるのだろうか。

 選手の大半が坊主である限り、野球の人気の凋落はとどまらないであろう。

 もっともそのあたりは、白富東が個性的な髪型が多いので、かなりイメージは変わったかもしれない。

 なお春日山は、樋口以外は全員が坊主である。これもまた、樋口がなかなか受け入れられなかったことの理由の一つだ。


「しかしほんまに芸能人なんやなあ」

 初柴がこれまでとは違った目で双子を見るが、当の双子はいつもの活力を完全に失い、カレーを食べている。

 いいよね、カレー。

「まあ今はまだいいだろ。本格的に騒がしくなるのは、日本に帰ってからだろうな。お前ら、日本代表とは別に帰れよ」

 直史の言葉は冷静で、冷徹であった。

 本来なら他に、大介も単独でひっそりと帰したいくらいだ。


 その大介であるが、リーグ戦最終戦も、当然のように出る予定であった。

 しかし木下はたとえ大介がどうにか使えるとしても、どうにかという状態で使う気はなかった。

「プエルトリコ戦は絶対に休みや。お前がおらんでも、確実に勝つ。万一負けても、決勝に必ず出られる」

 しかも、今日160km投手を二枚使ってしまったアメリカは、明日のキューバ戦で負ける可能性もある。

 負けても得失点差で、やはりアメリカが決勝に進出する可能性が高いが、キューバにボロ負けしたら、台湾かキューバが決勝の相手になる可能性もあるのだ。


 大介は明日は完全に休みだ。

 直史も今日はそれなりの数を投げたので、明日は使えない。

「決勝のアメリカで確実に勝つで」

 いざとなれば、四回あたりから直史を投入する。

 もっとも基本的にはやはり、直史は七回以降だ。だが今日のような展開を考えれば、早く出ることもあるだろう。

「二年にばっかり頼ってたら、今年のドラフトは高卒が豊作言われてたんも、なんか嘘っぽく聞こえてまうで」

 ここはあえて、煽っていく木下である。

「プエルトリコ戦は二年なしで勝つで! もし負けたらわしも腹切ったるわ!」

「そんときゃおいが介錯して、追い腹切りもうそ!」

 西郷が叫ぶ。やばい。目が肝心にマジである。

 余裕たっぷりに頷く木下であるが、内心では逃げ出したい気分でいっぱいだった。




    ☆ U-18世界大会 白石神をpart69讃えよ ☆



116 名前:名無しさん@実況は実況板で

 えらいことになったなあ


117 名前:名無しさん@実況は実況板で

 ただの野球の大会じゃなくなったな

 しかし白石は神

 打撃の神様は数多くいても、ホームランの神様は白石一人


118 名前:名無しさん@実況は実況板で

 白石のやったことで打線組んでみた


 1(中)1試合1本は当たり前。相手が逃げなきゃ最低2本

 2(二)史上初の甲子園場外弾

 3(遊)世界大会で160kmを代打逆転満塁ホームラン   ☆NEW!

 4(一)世界大会で野球史上確実に記録される唯一の予告ホームラン

 5(三)甲子園記録の五打席連続ホームラン

 6(捕)甲子園記録の一試合5ホームラン

 7(右)甲子園含めても打率八割オーバー。半分以上が長打

 8(左)世界大会で160km投手から二打席連続ホームラン

 9(投)公式戦出場試合連続出塁記録継続中(地味ぃ!)


 中継ぎ OPS脅威の2.8ってなんぞw

 中継ぎ 高校公式戦ホームラン記録、二年の時点で更新

 中継ぎ 世界大会で普段と逆の打席でホームラン

 中継ぎ 世界大会MVP(予定)

 中継ぎ 甲子園ベストナイン(普通はすごい)

 中継ぎ ホームランでバックスクリーンのスコアビジョン破壊

 中継ぎ 夏の甲子園の三冠王(ショボく感じるの草ぁ!)

 中継ぎ 当然出塁率と、実は盗塁でも一位である

 中継ぎ 夏の甲子園大会、全試合でホームラン

 抑え 甲子園通算ホームラン記録、二大会で更新


 中継ぎ多すぎて草ぁ!


119 名前:名無しさん@実況は実況板で

 世界大会で五つ増えたか……

 しかしどれをどう入れ替えても違和感がががw


120 名前:名無しさん@実況は実況板で

 予告ホームランと場外、あと甲子園の通算ホームラン記録は不滅やろな

 さらに増える可能性もあるし


121 名前:名無しさん@実況は実況板で

 なお地方大会と世界大会でも場外は打っている模様


122 名前:名無しさん@実況は実況板で

 白石とは勝負するほうが間違い、か

 台湾の投手は賢かったな

 でもこれ、もう敬遠数がむっちゃ多くなりそうな


123 名前:名無しさん@実況は実況板で

 >>118

 ホームランを打ったけど一塁まで歩けなくて代走も付け加えて


124 名前:名無しさん@実況は実況板で

 敬遠しても簡単に盗塁決めてくるからなあ


125 名前:名無しさん@実況は実況板で

 こいつと比べられる選手っておるの?


126 名前:名無しさん@実況は実況板で

 一応投手なら上杉が……

 二年前の世界大会で、全イニングノーノー、打席でも二つホームラン打ってる


127 名前:名無しさん@実況は実況板で

 あと地味に佐藤は、この大会のクローザーとしてここまでパーフェクト


128 名前:名無しさん@実況は実況板で

 佐藤w あれ妹の方なんなんw


129 名前:名無しさん@実況は実況板で

 本気モードの歌上手すぎて草

 双子だからか声にほとんどブレなく、幅だけ広がった感じ

 アニソンのキャピキャピ感も良かったけど


130 名前:名無しさん@実況は実況板で

 あの歌ずっと、スクールウォーズの曲だと思ってた

 ラグビーやん!って


131 名前:名無しさん@実況は実況板で

 微妙に原曲と歌詞変えてたのな

 I need a Hero が You are my Hero とか

 原曲のMV見てきたけど、キレキレやった

 スゲー曲だわ


132 名前:名無しさん@実況は実況板で

 文秀の記事では正体S-twinsで確定ってなってたな

 声紋が一致したとのことで、99.89%間違いないとか


133 名前:名無しさん@実況は実況板で

 99.89w

 S=Sato と考えると単純な話だな

 歌ばっか有名になって歌手の露出がないのおかしいと思ってた

 芸能科のない公立進学校なんだな

 白石同じ学校だけど偏差値68ってマゾ? 頭悪そう


134 名前:名無しさん@実況は実況板で

 白石は部活卒業後急激に得点伸ばすタイプ

 なお双子は新入生代表。つまり入試トップ


 これが売り出しの予定だったのかな?

 確かにいきなり世界レベルに歌が流れちゃったけど

 『夏の嵐』で世界デビュー?


135 名前:名無しさん@実況は実況板で

 歌が上手いのは分かったけど、あんだけ踊ってどうして息が切れへんのか


136 名前:名無しさん@実況は実況板で

 佐藤のツインズは子供の頃はバレエで有名だった

 将来を嘱望されていたけど中学入学以来は普通のダンスしてる


137 名前:名無しさん@実況は実況板で

 バレエか。道理で体が柔らかいはず

 兄貴も柔らかいし、遺伝もあるかな


138 名前:名無しさん@実況は実況板で

 あとスタミナお化けだな。甲子園の炎天下であんだけ踊ってたし


139 名前:名無しさん@実況は実況板で

 むっちゃ声よかったからな。双子だからか、ほんの少しノイジーなところが逆に

 この双子以外はありえない調和


140 名前:名無しさん@実況は実況板で

 白石含めSのための大会になりそう


141 名前:名無しさん@実況は実況板で  

 140のドヤ顔が見える。そんなたいしたこと言ってないのに


142 名前:名無しさん@実況は実況板で

 喧嘩すな。オフィシャルサイトで決勝はマクロスるとか書いてるな


143 名前:名無しさん@実況は実況板で

 いいねえ。事務所も利用するの満々でいい

 何歌うん?

 とりあえずライオンキボンヌ


144 名前:名無しさん@実況は実況板で

 愛、おぼえてますかはちょっと違うよなあ

 二人だからFいけるか?


145 名前:名無しさん@実況は実況板で

 二人とも顔はランカよりやけど、体つーかおっぱいはシェリルだな


146 名前:名無しさん@実況は実況板で

 白石がアルトなん? 佐藤はアルトっぽいけど


147 名前:名無しさん@実況は実況板で

 双子の三角関係って、こんなところはタッチw

 死亡フラグ強烈すぎ!


148 名前:名無しさん@実況は実況板で

 誰かの打席でタッチ歌ってたなあ

 あだちはあれ以来、誰か殺さないと物語作れなくなったよな

 さすがに死なんだろ。マンガじゃない、マンガじゃない、ほんとのこ~とさ~




 ネットの海のざわめきは続く。


×××


次話「決勝への道」

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