第7話 Battle of the Summer
意訳「甲子園の戦い」(*´∀`*)
×××
『AH……ジョン、なんだか観客の中にマイケル・オブライエンがいるような気がするんだが?』
『OH……ディック、僕の見間違いじゃなかったのか。他にもケイティとか、ビッグネーム以外にも色々……ほとんど無秩序に、ミュージシャンが揃ってるみたいだね。彼らはそんなにベースボールが好きだったのかい?』
『そうだとしても、アメリカやカナダの試合を見に行く方が自然だと思うけどね。機材まで用意して、ここでコンサートでも開くつもりなのかな?』
『少なくとも一曲歌うだけで、この試合よりも多くのオーディエンスを集めることは出来ると思うね』
『日本側のスタンドにいるけど、オランダの国家も歌っているね。すごくいい声だ。彼らの歌を聴けただけで、この試合の解説以上のギャラをもらった気分になるよ』
『ディック、気のせいじゃないと思うけど、この日最後の試合なのに、観客が増えてきてないかい?』
『明らかに増えてるね。これは野球の観戦じゃなく、ミュージシャンのライブに来てる感覚じゃないかな?』
『先頭打者の彼は、なんだかイチローと呼ばれているような? 兄弟なのかな?』
『さあ、日本の先攻だけど……OH! これは僕も聞いたことがあるよ。日本のアニメソングだ。マイケルがとてもセクシーに歌っているね!』
『ルパ~ン♪ Wow! いい打球! センターオーバー! 見事なスタンディングダブル!』
『さあ、日本はノーアウト一三塁で先制のチャンス! しかし小さな三番だね。日本はまだ四番打者がスラッガーなのかな?』
『だけどね、ディック、彼は日本の夏のファイナルで負けたけど、バッティングのトリプルクラウンだったらしいんだ』
『Wo~W あの体で? すごいな、とても信じられない!』
『信じられないのはほら、またマイケルが歌いだしたwww』
『ファンキーなミュージックだね。日本の歌かな? OnePanchiMan? Ho~w スラッガーにはぴったりの曲だ』
『Hahaha そうだね。さあ――』
『――WOOOOOOOOOW! WoW!』
『OH! MY! GOD! Oh My God…… My God……』
『ジョン、どこまで飛んだんだい?』
『宇宙までさ! さあ、もう一度見てみよう!』
『Oh……アンビリーバボー……』
『Wow あれはジャパニーズかな? Hahaha ヒューストンの歌を……素晴らしい歌声だね……』
『僕は確信したよジョン、彼女たちは彼に首ったけなのさ』
『Iriyaがメロディーラインを歌ってたね。彼女は病気でもう歌えないと言われたけど』
『高音の透き通った部分を可愛い双子が歌ったんだ。とてもキュートで、でも愛にあふれていた。空よりも透き通っていたのに、二人の声が合わさってとても素晴らしい深みを与えているんだ』
これ絶対に後で問題になるやつだ。
木下は確信しながらも、もうどうにも止まらないのであった。
観客席のミュージシャンたちは、試合を楽しみながらも同時に、自分たちが楽しみ、楽しませている。
前情報のなかったオランダ勢は最初こそ呆然としたようであったが、やがては楽しみだした。
日本の応援席にはいるものの、彼らはオランダのファインプレイにも一喜一憂している。
そして回は進み、日本の打順も一巡して、再びトップの織田という場面。
突然彼は、観客席の方に走り出した。
お~い、帰ってこ~い。
「ケイティ! ケイティィィィーーー!!!」
織田は叫んだ。
「アイム ユア ファン! アイラブユー! アイラブラブラブユー! プリーズ! シングフォーミーィィィ!!! プリーーーズ!!!」
織田は狂った。
観客席でケイティは笑っている。こういう反応は彼女にとって、珍しいものではない。
東洋の少年……と言っても実は彼女より年上なのだが、坊やのために歌ってあげるのも悪くはない。
「ねえイリヤ、彼のために歌ってあげたいんだけど、いい曲はないかしら」(会話は英語でなされております)
「そうね、あなたにルパンのキーは合わないし……他の人のために作った曲だけど、これはあなたにぴったり合うわ」
「へえ……」
イヤホンで音源を聞く。なお歌を入れたのはイリヤではなくツインズである。
「Wow いい編曲だわ。とてもテンポがいいし、最後に I love you があるのも素敵ね」
ケイティは笑顔で立ち上がった。そしてマイクを持つ。
音楽が始まる。
「え、お兄ちゃんの曲なのに」
「イリヤ?」
「直史には『Battle of the Summer』をやるから、それでいいでしょ?」
「オーケー」
「やったるでー」
ポップなメロディーラインが始まった。
「あれ? ナオの曲じゃん」
直史専用のはずのドラグナーが演奏され、ケイティが英語で歌詞を歌う。
「まあ無茶苦茶恥ずかしい告白してたし、あれぐらいはいいんじゃないか?」
直史は寛容だ。別にそこまであの曲に思い入れがあるわけではない。
そもそも試合展開次第では、出場すらしないかもしれないのだから、特に文句はない。
そして打席の織田の気分は上がってきていた。
最高の盛り上がりのサビがこれである。
『アイベットユー! アイビリーブユー! デッドヒートレース! アイラブユーーーー!!!』
三球目のスライダーを、織田はフルスイングした。
勘違いしている者もいる。
織田は確かに打率の高い中距離バッターであるが、狙ってホームランの打てない選手ではない。
ライトのポール際に入るホームラン。これでスコアは4-0となる。
ゆっくりとガッツポーズのままベースを回る織田は、三塁側スタンドのケイティへ、投げキスをした。
彼の黒歴史とならないことを祈るだけである。
☆ U-18世界大会 対オランダ戦part8 ☆
112 名前:どうですか解説のななしさん
織田w 織田w おだだだだだっ!
113 名前:どうですか解説のななしさん
織田が覚醒しとるw
114 名前:どうですか解説のななしさん
第二のイチローとは言われていたが、サブローwww
まあ気持ちは分からんでもない
115 名前:どうですか解説のななしさん
世界大会ってこんなんだったっけ?
もっとくそ地味な記憶があるんだが
116 名前:どうですか解説のななしさん
本日の織田、四の四で一ホームラン
なおホームを四回踏んだ模様
117 名前:どうですか解説のななしさん
白石の四打席目
さっきは敬遠だったけど、今度はまた勝負か!?
118 名前:どうですか解説のななしさん
あ、また応援席映った
すげえ マジでレジェンドとタレントが集結してる
119 名前:どうですか解説のななしさん
佐藤の妹やん。学校休んで応援いっとるんか
120 名前:どうですか解説のななしさん
可愛いのは今更だけど、何気にこの子らめっちゃ上手くないか? ホイットニーのカバーした時、鳥肌もんやった
121 名前:どうですか解説のななしさん
どっかで聞いた声のような気がしないでもない
122 名前:どうですか解説のななしさん
いや、芸能人だとしたらダンサーなはず。甲子園でめっちゃ踊ってたから
123 名前:どうですか解説のななしさん
おい、織田サイクルヒットだぞ。ツーベース、ホームラン、ヒット、スリーベース
124 名前:どうですか解説のななしさん
白石って世界でも普通に通用してるじゃん。日本限定とか言ってたやつ表に出ろ
125 名前:どうですか解説のななしさん
今日のMVPどっち? 織田? 白石?
126 名前:どうですか解説のななしさん
キタ━━(゚∀゚)━━ !!
127 名前:どうですか解説のななしさん
(*´∀`*) 三本目!
128 名前:どうですか解説のななしさん
どこまで打つんだこいつ
一本目場外、二本目バックスクリーン直撃、今泳いだ体勢から普通にレフトに
129 名前:どうですか解説のななしさん
俺知ってる! 白石の父親はサイヤ人だったって!
130 名前:どうですか解説のななしさん
あっちの解説の方が面白そう。めっちゃ興奮してる
131 名前:どうですか解説のななしさん
日本の解説者は白石のホームランに慣れてるから 慣れてるwからwww
132 名前:どうですか解説のななしさん
これやっぱ白石がホームラン打った時だけ、歌が変わってる
133 名前:どうですか解説のななしさん
織田と白石だけでホームベース七回踏んでるwww
134 名前:どうですか解説のななしさん
世界の大(Die)だな
135 名前:どうですか解説のななしさん
これもう、高卒からいきなりメジャーいっちゃうだろ
136 名前:どうですか解説のななしさん
>>132
一回目ホイットニー、二回目セリーヌ、三曲目がアリアナ
バリバリラブソング
137 名前:どうですか解説のななしさん
しかし誰が企画したんか知らんけど、マイケルにタツノコ歌わせていいんか?
本人めっちゃノリノリではあったけど
138 名前:どうですか解説のななしさん
あ、踊ってる。やっぱ佐藤の妹
139 名前:どうですか解説のななしさん
同じ学校だから特別にてことか
140 名前:どうですか解説のななしさん
隣で日本語で歌ってる美人誰?
141 名前:どうですか解説のななしさん
白石は本当のスーパースターだな
142 名前:どうですか解説のななしさん
世界大会は白石のためにあるのか!
143 名前:どうですか解説のななしさん
>>140
たぶんだけどIriya It
楽曲提供者としてはアメリカで有名だけど、本人も超絶歌上手いのになぜか売れてない
病気で再起不能になったってニュースになってた
144 名前:どうですか解説のななしさん
ケイティとめっちゃ仲良さそうだからIriyaだな
145 名前:どうですか解説のななしさん
野球実況にどうして洋楽こんな詳しい人いるの?
146 名前:どうですか解説のななしさん
いったいどうなってるのこれ
誰がこんなことしたの
147 名前:どうですか解説のななしさん
洋楽系のチャンネルチェックしてたら、数日前から噂は出てた
仕掛け人はIriya It
148 名前:どうですか解説のななしさん
まだ20代くらいに見えるけど、そんなに影響力あるんか
149 名前:どうですか解説のななしさん
そもそもIriyaのPVに感動したケイティが自分で作った曲を送って
Iriyaがそれを聞いて世の中に出した
そして二年前にいきなり大ブレイクしたのがケイティの伝説の始まり
150 名前:どうですか解説のななしさん
Iriyaはその当時13歳。ケイティは14歳。Iriyaは年下の師匠? みたいなもん
151 名前:どうですか解説のななしさん
Iriyaはまだ16歳ぐらいだったろ。今よりさらに若かった頃、若すぎて売り出し方が分からなかった
作詞作曲編曲楽器演奏歌なんでも出来る天才
152 名前:どうですか解説のななしさん
ケイティはアルプスの麓にある一軒家で育っていた箱入り。Iriyaは元はジャズ
・
・
・
287 名前:どうですか解説のななしさん
お、大量リードで佐藤
288 名前:どうですか解説のななしさん
代えたな。キャッチャーも樋口か
289 名前:どうですか解説のななしさん
佐藤の変化球は世界標準ではどうなのか
290 名前:どうですか解説のななしさん
ああ、何気に二年生バッテリーか
すごいな。甲子園の決勝で戦った相手とバッテリー組んでる
291 名前:どうですか解説のななしさん
お、また曲変わった
何これ?
292 名前:どうですか解説のななしさん
日本語~。知らん
293 名前:どうですか解説のななしさん
オリジナル? 世界大会でお披露目?
294 名前:どうですか解説のななしさん
うお! 変わった!
295 名前:どうですか解説のななしさん
キタ━━(゚∀゚)━━ !!
296 名前:どうですか解説のななしさん
合唱!
297 名前:どうですか解説のななしさん
You are Warrior?
298 名前:どうですか解説のななしさん
豪華すぎる合唱www
299 名前:どうですか解説のななしさん
このために呼んだのなら、ギャラ計算が恐ろしいw
300 名前:どうですか解説のななしさん
You are Winner!
代打西郷のスリーランホームランで、ダメ押しのさらに追撃。スコアが12-1とほぼ勝負の決まった九回、直史と樋口に交代が命じられた。
ここまで継投の指示だけをしてきた木下であるが、ぶっちゃけこの試合はそれだけで良かったと言える。
一応肩を作っておけと言われて投げ込みはしていたが、まさか本当に出番があるとは思ってなかった直史である。
おそらくこれは、純粋に直史の変化球が、世界標準で通用するかどうかのテストだ。
(けどアレクにもちゃんと通用してたわけだし、大丈夫だと思うけどな)
マウンドに上がった直史であるが、応援曲がまた変化する。
これは――他の人間には分からないだろうが、直史には分かる。
白富東高校野球部応援曲『夏の嵐』だ。
それが編曲され、歌がくっついている。
私の傍で安らぐ 貴方が目覚めて Lalalala
駆けて行く先には 真夏の戦場 Lala
追いかけていくのは 転がる小さな夢 Lala
どこまでも どこまでも 駆けて行く ずっと―― Wowow――
ここで転調。
激しく、リズムのある、早いテンポに。
そしてサビが、英語になっていた。
You are Warrior!
You are Warrior!
You are Warrior!
You are Winner!
You are Winner!
You are Winner!
歌詞の二番は英語になっていて、イリヤとケイティと……とにかく女性陣が歌っている。
そしてサビでは男共を含めた大合唱である。踊りながら大合唱である。
投球練習を途中で止めた樋口が、マウンドに近寄ってきた。
「おい佐藤、この『Battle field of the Summer』って……」
「まあつまり、甲子園ってことだろうな」
「外国人が甲子園甲子園って歌ってるのかよ。いったいどうしてこうなった」
「知らん。気にした方が負けだ」
そう、オランダは確実に雰囲気に飲まれていた。
大歓声の爆音の中で試合をするのは、日本の高校球児だけの、甲子園経験者だけの特権だろう。
Battle field of the Summer と言うなら、それは甲子園だ。
甲子園で、日本の高校球児が負けるわけにはいかない。
この涼しい球場に、日本の夏がやってきた。
つくづく思う。武史を連れて来るべきであった。
武史であればこの歌は、その全力を開放させただろう。
その後筋肉痛でダウンするまでがワンセットだ。
しかし、甲子園か。
あの夏、結局直史は、灼熱の決勝のマウンドに立つことは出来なかった。
やばい。
燃える。
「投げる前から精神的に疲れてきたな。三球で終わるリードしてくれ」
「大田ならともかく俺には無理だ。せめて10球投げてくれ」
「……冗談だよ。普通に20球までは投げる」
なかなかまだ、冗談の通じるような関係ではない。
しかし樋口のキャッチング技術は、本番のマウンドに上がっても分かる。格別だ。
投げたボールが、まるで自ら望んでいたかのように、ミットの中に吸い込まれていく。
直史は確信しだ。
変化球投手は、樋口とはものすごく相性がいい。
この球はここに来るんだな、と最初からミットの位置が変わらない。変化球を追いかけてキャッチングするということがない。
まあ変化量までも完全に決めて投げられる、直史の場合に限るのかもしれないが。
それはさておき、目の前のオランダ打線である。
ここまで点差が開いてしまえば、勝利を目指すということは無理だろう。だが自分のスタッツは気にするはずだ。
日本と違って国内の試合が圧倒的な人気を誇るわけでもないのだから、この国際大会は最高のアピールチャンスだ。
直史が初球に投げたのはカーブ。
そのあまりの落差に、オランダの打者は愕然としている。
(二球目は外角ストレート。ああ、日本ならボールのコースね)
そこに投げ込まれたストレートの下を空振りする。
最後はスルーで、三振。
三球で片付けた。
結局この日、直史がマウンドで投げたのは九球だけであった。
×××
次話「もうどうにも止まらない」
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