龍と眠る国

Fuwarena

第1話 名前にまつわる

私がこの国に来たのは、ちょうど一週間前のこと。

お母さんがバイリンガルだったから、私はこの国の言葉だけはよく知ってる。

だから新しく入ったどこでも、文化が違って、常識が違って、友達は今のところゼロ。まあもちろん、それだけじゃないと思うけど。

気づくと、道路の雪解け水で靴が濡れていた。邪魔な石を蹴って、水滴も一緒に蹴飛ばして、蟻を見てちょっと迷って、今日のところは助けてやった。


治條じじょう 明鶴あずです。よろしくお願いします。」

どこかで、ひ、という小さい悲鳴が聞こえた。いつものことだが、目の前の先生の顔も、かなり青い。教室は針のむしろのようにしぃんとしていた。普通の進学して初めての自己紹介より、もう少し静かだ。

「…つ、次。」

錫待すずまち こえです。よろしくお願いします。」


このクラスは、珍しい名前の子があと二人いるらしい。どうせ仲良くなれないけど、少しだけ親近感がある。治條 明鶴という名前は我ながらアニメのキャラみたいだ。次の番号の錫待さんみたいにもうちょっとだけでも、珍しくても可愛い名前が良かった。

珍しい名前のひとり、錫待さんは見た目も可愛い。小柄で目はぱっちりしていて、小動物みたいだ。

もう一人は、席が離れているけど伊覩いと りつだ。ぱっと見、読める人もいるかもしれないけど、伊藤とかよりはよっぽど珍しい漢字であることは間違いない。

伊覩くんの容姿は見えなかったけど、さっきからずっと寝ていて、先生の話は聞いてなかった。だけどぴよんと出たアホ毛が、ちょっと可愛かったことは否めない。

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龍と眠る国 Fuwarena @FuwaRena

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