閉店 あとがき
さて、あとがきである。
あの後、SHOW-10-GUYの取材はどうにか無事に終了し、ヨリ子ちゃんはいず君に握手をしてもらってご満悦であった。
せっかくならサインももらったら? とマスターがカウンターの裏にしまってある色紙を差し出すと、もう既にスタンプカードの特典で5枚ほど持っているとのことで、こっちにお願いします、と名刺サイズの紙を渡していた。なぜそんなに小さい紙を? とマスターが首を傾げていると、どうやらそれは透明なスマホケースの間に挟むためのものらしい。成る程、これなら常に持ち運べるし、ケースに直書きと違ってこすれて消えてしまうこともない。さすがはヨリ子ちゃん、抜け目ない。
そして、そんなふくふくの頬をほくほくさせた菩薩スマイルのヨリ子ちゃんに、スーパーすねかじり男、Mr.Eこと虎部龍は、いまがチャンス! と「5万円貸して」と可愛くおねだりしたが、「無理」と一刀両断。さすがヨリ子ちゃん、その仏スマイルからは想像もつかない鋭い刃を持っている。心の刃は銃刀法に引っ掛からないのである。
そこへ、名刺を持ったマスターが近づき「もし興味あるならウチで働いてみない?」と当社比2倍のイケメンスマイルでスカウトしてみたところ、「あー、まぁ考えとくっす」といういまいちな返答であった。龍が良い顔をするのは女性のみなのだ。
そうそう、ちなみに、例のエクストラアイスコーヒーは大方の予想通りに倒壊した。大皿が良い仕事をしたために大惨事にはならなかったものの、食べ物で遊んではいけません、とヨリ子ちゃんからちょっと強めに叱られちゃったマスターである。
出内氏は年単位で久しぶりの来店だったのだが、看板猫みたらしのきまぐれサービスタイムにうまいことぶち当たり、あまりの嬉しさでそこからバク宙を決め、着地と共に両足首を捻挫した上、そこから尻もちをついて尾てい骨を骨折、さらにはそれがもとで血圧が跳ね上がったらしく、コーヒーを口にする間も無く病院に搬送された。何事もやり過ぎは良くない。それを身をもって教えてくれたのだ。彼は中高と体操をかじっていたのでその辺には自信があったらしいのだが、やはり年なのだろう。
しかし、これによって彼がまたこのカフェに通い詰めることはほぼ確定したため、多少やりすぎるくらいの方が準レギュラーの座をつかみ取れるものなのかもしれない。作者をあてにせず、己の力でつかみ取れ、と突き放した結果であるわけなので、こちらとしても「馬鹿お前、さすがにやりすぎだろ」とは言えないのである。
それから、その数日後、このカフェで働く龍の姿があったとかなかったとか。
というわけで、第四豆はまさかのニューメンバーと?!
出内氏はあそこまで身体を張ってやっと準レギュラーの座をもぎ取ったのに、何であんなポッと出のヒモ男はこんなあっさり第四豆への出演が約束されてるんだよ! と抗議の電話が殺到しそうだが、ご安心なされ、それを見越して当カフェの電話線は抜いてある。やはりどの世界でも最後はコネなのだ。しかも本作の不動のヒロイン・ヨリ子ちゃんのいとことなれば優遇せざるを得ない。
さて、第四豆といえば、キリマンジャロ、ブルーマウンテン、モカ、とまで来たので、次は何にしようというのが悩みの種である。いや、種というよりは豆。コーヒーだけに。そんなことはどうでも良い。何だ、何が良いんだ。やはりここはもうスペシャリティコーヒーにするっきゃないのか? それともコピ・ルアクか? あのジャコウネコの糞から取り出した豆のやつなのか?!
などと色々考えているものの、いまのところ例のヒモ野郎を出すという部分しか決まっていない。そして、字数的に第四豆が最終章なのではと思っているため、さすがに最後こそはマスターをメインとした話にしなくちゃいけないような気もするし、いやいや、最後こそ脇役に花を持たせてやりたい気持ちもある。
何にせよ、安定のノープランのまま、とりあえず第三豆はこれにて閉店。またのお越しを従業員一同お待ちしています。
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