エピローグ(2)
教会の壮麗なステンドグラスから、暖かい光が差し込んでいる。
それは午後の柔らかい光を受けて、海のように透明で深い青を、サン・クストー教会の床に映し出していた。
「ほっほっほ」
ムラコフはゆっくりと近付いてくる院長の姿を認め、その場にひざまずこうとした。
「ああ、よい。立って聞け」
軽く手を上げてムラコフの動作を制止すると、院長はムラコフの肩に掛かった真紅のストラ――聖職者の肩掛けを見つめた。
「うむ、なかなか似合っておるではないか。とはいえこれに満足せずに、日々精進するのじゃぞ。いったん叙階されても、行いが悪ければ破門だってあり得るのじゃからな」
「肝に銘じます」
「なに、そんなことはまず起こらんじゃろうがな。自尊心が強い故に、期待をかければそれに応えようとするのが、そなたのよいところでもある。まったく、鍛え甲斐のある弟子ができたわい。これから先、ビシバシ育てるからな」
院長の言葉を聞いたムラコフは、思わず苦笑いをしてしまった。
「お手柔らかにお願いします」
「いいや、手加減はせんぞ。……ああ、そうそう」
院長はムラコフの耳にそっと顔を近付けて、小声でこのように囁いた。
「これはまだ内密じゃが、来年も我が国から新大陸へ宣教師を派遣する計画があってな。その島にも、おそらく寄港地として寄ることになるじゃろう」
「本当ですか!」
「これこれ、声が大きい。たった今内密と言ったばかりじゃろう? それに、次回もそなたを任命するとは、まだ一言も言うておらんぞ。聞いた話では、そなたは神に仕える身でありながら、島の少女と何やら親密になりよったらしいし――」
そこまで言うと、院長はわざと大袈裟に顔をしかめてみせた。
「まあ、今後の働き次第じゃな。しかし、もしそうなったらどうする?」
「もしそうなったら、もちろん――」
ムラコフはその場にひざまずいて、胸の前で十字を切った。
「ジャン・ムラコフ、謹んでお受け致します」
<完>
南国サンクチュアリ 常木らくだ @rakuda_tsuneki
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