Journey Painter(ジャーニーペインター)

@p-nut

第1話 旅絵師

 チュンチュンと小鳥がさえずる。まだ日が昇って30分程の頃、顎に白い髭をたくわえた老人が旅の支度を済ませ、最後のコーヒーをゆっくりと味わっていた。

「おじいちゃん、もう行っちゃうの?」

「あぁ、今回は長い間帰ってこられないだろうから、家を出る前に何か旅の話でもしてやろう。」

老人の孫が物音に気付いて起きてしまったようだ。まだ5才にもならないぐらいの幼い子だが、旅の話が大好きで、いつも老人にひっついていた。

「あれは、海辺のお魚がよくとれる町の話じゃ。」

老人は世界に数人しかいない、勇者の称号を持つ者のパーティーに所属していて、世界中を旅していた。絵が得意だった老人は旅の様子や出会った景色を絵に描くことを仕事としていて、世間では旅絵師ジャーニーペインターと呼ばれた。そして、この時も自分の絵を見せながら旅であったことを小さい子でも分かりやすいように話していた。子どもは、瞬きも忘れる程興味深々で話に食いついていた。特に彼の絵には言葉が必要ない程いろんな感情が伝わってきて、すごく楽しかった。しかし、話が一区切りつく頃には、集中力が切れて、ぐっすりと眠っていた。ちょうどコーヒーも飲み終わり、老人は子どもをベッドに運び、家を出たーーー

 「ふぁーー」僕は目覚めると、伸びをしながら大きなあくびをした。

「また、小さい頃の夢か」

よく見る夢だ。まだ幼かったからか、話の内容や祖父の顔の細かいところまでは思い出せないが、大好きだった祖父との数少ない思い出だ。それは、何となく、しかしこれ以上無いぐらい幸せな時間だったことは確かに覚えている。また、あの壮大かつ繊細な絵の感動を、たくさんの冒険の話をききたいとよく思う。

しかし、あの朝、旅に出て以来、祖父の姿を見ることは無かった。

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