異世界コメンテーターのどや顔

ちびまるフォイ

異世界コメンテーターの使いみち

「本日は各界の専門家にお越しいただいています。

 お笑い芸人でユーチューバーのワラタマさん」


「どうも~~!」


「コラムニストの顔も持ち女性問題にも詳しい

 なんちゃって弁護士のさとうまさみさん」


「よろしくお願いします」


「そして本日は新たな各界の専門家をお呼びしています。

 異世界転生の経験がある、異世界太郎さん」


「フッ。よろしく」


「なぜマントをお召しなんですか?」


「あっちの世界ではマントが正装なんですよ」


「ほほお。やはり異世界は興味深いですなぁ」


マントが正装なわけがない。

カッコイイと思って着てきたものの、

思ったほどウケがよくないのを認めたくないので

正装だとごまかしているのは誰も気づいていない。


なにせ異世界転生をしたのは自分だけだから。


「それではニュースを見ていきましょう。

 先日、一部週刊誌で報道されたこちらのニュース。

 異世界太郎さんはどう思いますか?」


「そうですねぇ……異世界的に言うなら、ゴブってますね」


「ゴブ……なんですか?」


「ゴブる。異世界の方でよく使われる常用語です。

 ゴブリンのように振る舞うことをゴブるといいます。

 未成年者と飲酒なんてまさに欲望に身を任せたゴブリンそのものです」


「なるほど……」


「異世界だったら消しずみですね。

 そしてこれはある意味で絶対王政への反逆という

 隠れた欲望を体現しているものでもあります」


「そうなんですか!?」


「私がいた異世界では未成年の飲酒と、

 国家転覆には大きな相関関係がありました。

 これはサスティナブル的に考えてのウィンウィンアグリーです」


「ほほお」


「まあ、ここで長々と語るつもりはないです。

 詳しくは私の著書を呼んでもらえるとわかりますよ」


収録が終わると、世界を救うために戦ったときよりも達成感を感じた。

スタッフは「お疲れさまでした」とペコペコ頭を下げてくれるし気分がいい。

通行人に「~先生」と呼ばれるし。


「いやぁ、コメンテーターって最高だな!」


控室に戻るとスケジュールをチェックするマネージャーがいた。


「先生、お疲れさまでした」


「おう。肩もめ」

「はい」


マネージャーは後ろに回り込み肩へ手を回す。


「先程の収録も拝見させていただきました。

 いやぁ、先生はやはり異世界経験者とだけあって

 大変多くの知識をお持ちなんですね」


「当然だ。あっちじゃ知識チートでぶいぶい言わせてたからな」


「たとえば?」


「あっちじゃ文明が整っていないから

 ジャムの作り方とか教えて村の人から感謝されたものさ!」


「さすが先生!」


「最初はコメンテーターの仕事なんて自分にできるわけないと思ったが

 いざやってみると冒険者以上に天職かもしれないなぁ」


「いや素晴らしい!」


仕事の回数をこなすうちに振る舞いのコツも掴んできた。


迷わずさも「私は知っていますよ」とばかりに、

説明するように話せばいいだけ。


話している内容がたとえカップ麺の作り方を解説しているだけとしても

それっぽい話し方で語れば「専門家の意見」として聞こえる。

誰も内容など聞いちゃいない。


「先生、次の仕事は老人ホームでのボランティアです」


「えぇ~~? 他にないの? もっと若い子がいるようなところ」


「でしたら、女子校での講演会の依頼があります」


「それそれ! そういうのだよ!!」


高校へいくとステージにあがって、羨望の眼差しを浴びながら話をした。


話している内容なんて異世界にいたときの旅日記レベルのものだが、

それでも「すごい人」としてみんなしっかり聞いてくれる。


講演が終わると、生徒は俺の出版した本

『0を100にする異世界の流儀』を持ってきてサインの列を作った。


「いつもテレビで見てます!」


「ははは。ありがとう。どうかな?

 君のように熱心な子には私の異世界ノウハウを夜通し話したいんだ」


「いいんですか!? 私なんかに!?」


コメンテーターとして知名度が上がるほどに、

まるで神に等しい存在に近づいている気さえする。

鼻かんだティッシュでさえ神棚に奉納されてしまいそうだ。


高校での仕事が終わると、横に長い車が待機していた。


「先生! お迎えにあがりました! シャンパンも冷えています!」

「おう」


車で優雅にシャンパンをあおりながら流れる窓の景色を見ている。

外では普通の人が、普通に人生を過ごしている。


つい最近までは自分もあっち側の人間で、

たまたま異世界に転生して3日で現実に戻ったら英雄扱い。


「いやぁ、俺も出世したものだ。異世界じゃ考えられなかったな」


「先生は異世界ではどう過ごされていたんですか」


「ネットで聞きかじったジャムの作り方をどや顔で解説して、

 町を襲撃してきた魔物を得意げにやっつけていた」


「それはすごい。きっと村人も感謝するでしょうね」


「ああそれはもちろん」


「でもどうして3日で現実へ戻ってきたんですか?」


「いやもうなんかいろいろ不便すぎて……。

 まず水洗トイレがない時点でかなり萎えたんだよ」


「そうなんですね。ところでその異世界から転生の依頼があるんですが」


「転生!? 俺が異世界にまた行くのか!?」


「ええ、先生が連日連夜にテレビで異世界の知識を

 キャバクラの女の子に話すかのようにひけらかしてるでしょう?

 それを見た異世界の人たちがそれだけ詳しい専門家なら

 ぜひ異世界に来てほしいとオファーがあったんです」


「また異世界、か……!」


冒険者としてまた異世界に戻ることに未練はありまくりだった。


3日で戻ったから世界なんて救っちゃいないし、

貴族と下民との格差を目の当たりにしても全スルーしてきた。


せいぜいやった善行といえば、路地裏で絡まれている女を救ったくらい。


「先生、どうしますか? 異世界へ行きますか?」


「うーーん……断ったら、あれだけ語っていたのに

 冒険者を断ったら本当はできそこないなんじゃないかと

 言葉の説得力にかげりが出てきそうなんだよなぁ……」


過去の栄光をスルメのごとくいつまでも出していては

"コイツ本当はそうでもないんじゃないか"と思われそう。


「……受ける! 異世界へ行くぞ!!」


ふたたび異世界へ行く決心を固めた。

仕事の前夜は寝ずに準備に明け暮れた。


「剣、よし。防具、よし。スマホ、よし。

 パスポート、よし。敷物、水筒、よし!」


冒険者として必要なあらゆる準備を整える。

就寝前に転生薬をキメて異世界渡航をはじめる。


目を覚ますと、勝手知ったる神様の間だった。


「転生してきたようじゃな」


白いひげをはやした神様が待っていた。


「フッ。また冒険者としてまたこの世界に戻れるとは。

 2度目の転生であるからにはきっと世界を救ってみせる」


「いやそれはいらんよ」

「え?」


「お前の仕事じゃないし」

「ええ!?」


手に持っていた伝説の剣を落としてしまった。


「でも、異世界に招集されてまた世界を救うためじゃ……。

 俺の異世界での知識を存分に活かすんじゃないのか!?

 冒険者としてぶいぶい言わせるんじゃないのか!?」


「冒険者ならすでにおるじゃろ」


神様が指差した先にはすでに高校生らしき男子生徒が立っていた。

初転生だろうに、周囲をキョロキョロ見ている。


「こいつが冒険者!?」

「そうじゃ」


「だったら冒険者がふたりになるじゃないか!

 こんなやつを転生させる必要がどこにあるんだ!」


「お前さん、なにか勘違いしてないか?

 誰がお前を冒険者として呼んだと言ったのじゃ?」


神様は憐れむような顔で言い放った。


「異世界を3日で逃げ帰った根性無しだからこそ

 今から異世界へ向かう冒険者に注意を話すために呼んだのじゃ」



そのとき、自分の名札に「しくじり異世界先生」と書かれていたことをやっと気づいた。

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