第5話 運命が動いた日
その日の朝、手袋を忘れずに持ち、
「お母さん行ってくる!」
「今日も頑張ってね!」
「うん!」
仕事終わり、ほのかと会うことは
母にはこの日告げていなかった。
いつものように午前は子どもたちを連れて公園へ。
最近のため息も忘れて、私は何か心踊るように
前だけを見ていた。
精一杯やり尽くして、1日の仕事も終わり。
いよいよ、期待を込めた、夜。
ほのかとは、19時にこの辺りでは有名な相席屋さんの前で待ち合わせをした。
18時50分 ー
あ~…マ◯キヨで髪スプレーしていきたい!
あと10分…いけるよね!!!
急いでいた私は、地下鉄から降りたあと
財布と手袋を手に持ち、小走りで薬局へと向かった。
あった!これこれ!
手袋と財布を商品棚の隙間に一度置き、
髪スプレーをかける。
ポケットから鳴る着信。
" まだー??もうついたよ!"
"ごめん!!!いまいく!"
時間は2分前。
急いで外に出た。
「はぁ…はぁ…ごめん!!!待たせたね!」
「ううん!大丈夫!何か今日、お洒落だね。笑」
「だってね!笑」
まだ開店して間もない店内。
きゃっきゃと話す私たちを交互に見て、
店員のお兄さんはこう伝えた。
「あの、すみません…ご年齢確認できる身分証の提示をお願いしても…」
「あっ!はい!」
「えっと…これ!」
ほのかはパッと、お兄さんに見せた。
財布、財布………
財布…
財布…
あれ???
「え?財布は?」
「…やばい!!!置いてきた!」
「ええ!?どこに!?」
「すみません!取りにまた、戻ります!」
「うそ~…!」
しっかりしてよと言わんばかりに
一気に落胆を見せるほのか。
「ごめんね、待ってて!取ってくる!」
「いや、ここで一人は嫌だよ。」
「ごめんね~…」
ひたすら謝りながら外に出ると、更に猛吹雪が待っていた。
「あ~…最悪だ。」
「ほんと、ごめん。」
「走ろう!」
「うん!」
なんとか走って戻った薬局。
場所はそう、もうわかっていた。
なぜ置いてきてしまったのか。
「あった!!!」
「何でそこに置くの!笑」
すぐに中身を確認して、
おまけに手袋も大事にはめた。
店員さんが苦笑する中、
恥ずかしそうに一礼し、また外に出る。
「今からまたあそこいくのもなぁ…」
「いや、そうだよね、この天気じゃ…」
「あっ」
「ん?」
ほのかが指差した先に、
小さく書かれた 「 相席屋 」
「あんなとこに、あったっけ?」
「えー?あったかなぁ…」
「もうあそこでよくない??明日仕事だし、タダ飲みしてこの前の続き語って帰ろう!」
「そうだね…!」
ほのかに申し訳なく思いながらも、
その小さな相席屋に足を進めた ー
カランコロンっ ー
「いらっしゃい!………女性、2名かな?」
「あっ!はいっ、」
明らかに伝わる、人気のなさ…
それとは反比例してかかる大音量の歌謡曲。
店のお兄さんの目で分かる。
女性客かぁ…の顔。
席を案内された私たちは、
それぞれのソファに向かい合って座った。
お兄さんが渋々と見せるメニュー。
遠慮しないで食べる気満々の私たち。
「焼きそばで!」
「れんこんのはさみ揚げ、あとポテト。」
「はい!承りました!」
全力で一礼をし、去っていくお兄さん。
「ここ、もうやばそうだよね…」
「何かちょっと、気の毒だよね…。 絶対相席にはならないよね。」
「ならないならない!いつもきっと、女性客ばかりなんだろうね。」
「でも女性客ですら私たちだけだけどね、今…」
「まぁいっか♪タダで飲んで食べれるんだもん!
せっかくだから、ゆったりしよ!」
「そうだね♪」
二人とも仕事終わり、お腹も究極に空いていたため
ただ、ただ、フードをひたすらつついて食べていた
15分が経った頃
カランコロンっ ー
「!?」
店内に誰か来た音を耳に、二人で目を見合わせる。
「男性、二人で!」
!
「ねぇ、いま男性二人っていった?」
「うん、やばいよ、くるよ!絶対おじさんだよ!」
「うん…笑 えー、二人がよかったなぁ…」
「ね、、まぁ仕方ないよ、気にせず食べていよう!」
「そうだね。」
「はい!では、お席ご案内しまーす!女性二名様とのご相席になります♪…」
さっきよりも威勢のいいお兄さんの声が近付いてくる。
どうやら必死でプランの説明をしている様子。
「よかったね、お兄さん。笑」
「ね 笑」
こっちにも別のお兄さんが来た。
「では、女性様お二人、ご相席が決まりました。すみませんが、一人こちらへお席の移動をお願い致します。男性様、女性様でご対面する形で…はい♪そうでございます。」
ほのかはすぐに席の移動をして、
リップだけを塗り直した。
足音がのれんの前で立ち止まって。
「こんばんはー」
二人で目を上げた瞬間 ー
「初めましてー。」
目の前に現れたのは、マスクを着けた若い二人。
一人はちゃらちゃら目が笑っている。
もう一人は、マスクで表情が見えない…
何だかちょっと…人見知り…?
とにかく思ったよりも若い子だと思った私たちは、
二人で声を揃えて言った。
「初めまして~!若いね!笑」
「え?そうすか??笑
お姉さんたちも、若いじゃないですか!」
「いやいやー、そんなでもないよ。笑」
「いくつ?」
そんなこんなで会話が始まった私たち。
この時こそもう、
母の予言のことは忘れていた。
さっき手袋と財布を忘れたことも、
もう頭にはなかった。
1万km離れた恋物語。 miko @miko9261
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