影を深く映す瞳が、まるで身体の深くまで侵そうとするかのようにこちらを見据えている。いつの間にか自分が広大な草原の中に横たわっていて、その瞳に見下ろされていることに気付いた。

 これで何度目だろうか。事の始まりを思い出すことすらできないほどに私たちは逢瀬を繰り返している。年に一度のこの禁忌は、満月のベールの下でしか求め合えない私たちを"依存"という名の罠に陥れるのにそう多くの時間を必要としなかった。

 ここでは思考を働かせることは無意味だ。目の前の彼女が何者なのか、どうしてここにいるのか、考えれば考えるほど腹の底でどす黒く渦巻く支配欲がどうしようもなく強くなり、頭の中が真っ白になる。

 ……

 危険だ、と理性が告げる。目の前の姿は少しずつ、けれど確実に己を奪い、脳内まで響く脈を刻む音とともに理性が静かに崩れていくのが分かる。そのうち手が伸びてきて、そっと首筋を掠めた。わずかに頬が上気しているように見えるのは気のせいか。それとも。

 一瞬。濡れた紅色の花が囁いたのを見逃さず、噛みつく。時も忘れ、求めるままに混ざり合う。重なる息がどちらのものか誰にも分からないまま、静かに佇む月に導かれるようにただ堕ちていく。

 彼女の姿を知るのは、空の監視者だけ。

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無限の想像シリーズ 明夏あさひ@イラストにもお熱 @RR_ak72

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