百円玉

宇佐美真里

百円玉

どうぞ、しばしの間…ご辛抱願います…。


えぇ~、『ここ掘れワンワン!』ってぇと、昔話『花咲かじじい』の有名なシーンだったりするワケですが、ウチのワンコもネ?ここ掘れワンワン!とは唄いませんでしたケド、散歩中の公園で突然地面を掘りだして、「やめなさい!」と言うアタシの制止を聞こうともせず、一心不乱に掘った挙句…ナンと地中からお宝掘り当てたンですヨ…。いや、ザックザク♪っつうワケもなく、たった一枚でしたケドね…。百円玉。それが金だってコトをウチのワンコが認識していたかどうかは分かりゃせんが、せっかくなンでソイツでオヤツを買ってやりましたヨ…当然の権利としてネ。金よりもオヤツでしょうからネ…ヤツにとっちゃあ。


で、世の中には金より大切な物がある…なンてコトはよく言われるコトではありますが、如何なンでしょうかネェ~?「そりゃあ、オメェ…キレイごとだヨ。金がなきゃあナンも出来ねぇ!」そう言いたくなるトキもたまにはあったりしますよネェ~?つい先日もワタシ…少々、金が足りなくて…買いたいモノも買えずに悔しい思いをしたばかりなンですがネ…。





金坊:「やったっ!百円みっけ!百円拾ったぜ!」

亀吉:「マジで?全然気が付かなかったヨ…。ナンでいつもオメェばかり…」


道を歩きながら騒いでいる小学生が二人おりました。

二人とも五年生か六年生…といった感じでしょうか。見るからに腕白そうで、所謂悪ガキタイプです。居ますよネェ~?同じクラスに居たら、あんまり関わりたくないタイプ…。


金坊:「あ、オレ…この金でジュース買うわ。チョット待ってろ?」

亀吉:「オレにも買って…」

金坊:「バカか?拾ったのは百円。オレの分だって足らないンだから、自分で買えよ」

亀吉:「チェッ!じゃあ、ひと口ちょうだい?」

金坊:「自分で買えって…」


ズボンのポケットから十円玉を幾つか…ジュースに足らない分を取り出そうと金坊が立ち止まる。亀吉は金も入れずに自動販売機のボタンをひとつずつ悪戯に押していく…。まぁ、ワタシも小学生の頃にやりましたっけネェ~。


さて、自動販売機からチョット離れたアチラから、キョロキョロとしながら少年が近づいて来る。やはり小学生。こちらは小学校低学年…って感じですかネ。腕白二人組よりも小柄な感じで、名前は定吉と申します。

何やらキョロキョロと探しているワケで、自動販売機の前で立ち止まっている二人には全く気付いていない様子…。

キョロキョロとアチコチで地面に屈み込みながら何かを探している…。

そのまま気付かず、悪ガキ二人に近づいて…近づいて…。


ドン………。


正に百円玉を自販機に投入しようとしている悪ガキに後ろからぶつかっちまいました!?

ふいをつかれた金坊は、よろけて百円玉を落とします。


チャリン!コロコロコロ………。


定吉:「あ、ごめんよぉ…」


地面に四つん這いになったまま謝る定吉。転がる百円玉。するってぇと…。


定吉:「あ、あった!」


定吉が叫びました。転がる百円玉に手を伸ばす定吉。

転がる百円玉を手にし、もう一度悪ガキたちに謝る定吉。


定吉:「ごめんよぉ…」

金坊:「なにしてンだヨ、痛ぇな…」


定吉のぶつかってきた尻を抑えながら睨む金坊。


定吉:「ごめんよぉ…。百円落として探してたンだよぉ。これオイラの…」

金坊:「オレが拾ったンだヨ。オレの百円だよ、返せヨ」

定吉:「でも、ほら…ここに大きくキズがあるでしょ?だから、これオイラの」

亀吉:「それじゃあ、オメェのだって証拠にならンだろ?」

金坊:「痛い目に遭いたくなかったら、とっとと返せ!」


そう言うと、金坊は定吉の腕を掴み…無理やり握りしめられた定吉の手のひらを開こうとする。


定吉:「だから、これオイラのなの…。止めてっ!」


亀吉に後ろから羽交い絞めにされ、抵抗も虚しく百円玉を奪われる定吉。

金坊は定吉から奪い返した百円玉をそそくさと自販機に投入する。


金坊:「はい、残念!もう入れちゃったゼ!」


得意そうな顔をした直後…


チャリン…。


飲み込まれた百円玉は釣銭取出口に再び姿を現した…。

チェッ!…と舌打ちをしながら、再度その百円玉を投入し直す金坊。

しかし何度やっても結果は同じ。自販機はスタンバイ状態にはなりません?!


定吉:「その百円使えないンだヨ…。だから返して…」


悔しくなって更に何度も投入を繰り返しますが、結果は同じ…。


定吉:「大きなキズがあるから認識してくれないンだよぉ~。だから返して」


いい加減諦める金坊。


亀吉:「じゃあ、代わりの百円よこせヨ…」


トホホホホ…。もはや意味が分からない…。…と云ったって、悪ガキたちにしてみれば拾った自分たちに権利があるハズだと…。


金坊:「そんなに欲しいのかヨ?この百円?」

定吉:「うん…」

金坊:「じゃあ、五百円と交換してやるヨ?どうする?それでも欲しいか?」

亀吉:「それいいネ!それでオレのジュースも買ってくれる?ハハハ。ラッキー♪」


アホなコトを言っている亀吉には目もくれず、定吉にニヤリとする金坊。その表情の憎らしいコトと云ったら?!嗚呼!ホント、首根っこ捕まえてとっちめてやりたいっ!


金坊:「どうする?」

亀吉:「換えてくれヨ~。オレ、ジュース飲みたいンだよぉ~」


もはや定吉にお願いしている亀吉…。コイツは状況を理解しているのかネェ~???トホホホホ…。


定吉:「…。換える。五百円玉あげるから、その百円玉返して…」


口をキュッと閉じ、強い目ヂカラで金坊を見つめる定吉。


金坊:「ま、マジかヨ?五百円だぞ?」

亀吉:「やった~♪儲けた~っ!オレ、どのジュースにしようかな♪」


あまりのアホ加減に、黙ったまま亀吉の頭を叩く金坊。

しかし、その目線は定吉に釘付けのまま。定吉も金坊から目を逸らさない。定吉は金坊を見つめたままポケットに手を入れ、中から五百円玉を一枚取り出した。『一寸の虫にも五分の魂』とは正にこのコトかってな具合で、ナンだかもはや立場逆転な感じですな…。


定吉:「はい、これで交換して…」

金坊:「………」

定吉:「はい…」


両手を金坊に差し出す定吉。その突き出した右手には五百円玉が。左の手のひらは空のまま。金坊は口を尖らせてながら渋々と言った…。


金坊:「ほら…」

亀吉:「ほらヨ」


再び黙ったまま亀吉の頭を叩くと、そのまま握っていた百円玉をそっと定吉の左手のひらに金坊は置く。


定吉:「ありがとう。じゃあ、はい」


そう言うと、もう一度五百円玉を乗せた右手を金坊に突き出す定吉…。


金坊:「要らねぇヨ…」

亀吉・定吉:「「えっ?」」


亀吉と定吉は思わず声を揃えて聞き返した。


亀吉:「何言ってンだよぉ~。貰っとこうよぉ~。ジュース飲みたいンだよぉ~」


またしても金坊に頭を叩かれる亀吉…。


金坊:「ちょっと黙ってろヨ…」

亀吉:「チェッ!チェッ!」

定吉:「どうして???」


不思議そうに聞き直す定吉とは目を合わせずに金坊は言います。


金坊:「それ貰ったら、ホントのイジメっ子になっちゃうじゃん…」

亀吉:「だって、イジメっ子じゃん?!」


バシッ!


もう何度目だったか?再び叩かれる亀吉…。


金坊:「ただで返すヨ…。その代わりナンでそんなにこの汚い百円玉に拘るのか教えろヨ?」

定吉:「この百円玉はネ…、




    死んじまったポチがオイラにくれたモンだから…」







幾ら積まれても…想い出は金じゃあ買えねぇ…っつうコトで、『百円玉』でございました。

本日はお時間でございます………。

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