rainy day

姫川翡翠

rainy day

「わたしは休日を満喫していた。

 朝早くから気合を入れて朝ごはんを作り、お腹いっぱい食べた。それから昨晩回しておいた洗濯機から一週間分の洗濯物を取り出して、かごに詰める。そして軽々と持ちあげて、ベランダに出た。

 空を見上げれば、わたしの名前とおんなじ、どこまでも澄み切ったあお、あお、あお。気持ちがいい。今日はきっといい一日になると思った。

 皺ができないようにピシッと伸ばしてから、ハンガーにかけていく。すべて干し終わったら、その勢いのまま、お部屋の掃除タイムに突入した。けれど、午後はお買い物に行きたかったから、本格的なのは無し。簡単に箪笥の上やカーテンレールから埃を落として、テーブルを拭いて、掃除機をかけておしまい。

 トイレの便器と床も適当に拭いて、お風呂は見て見ぬふりをした。だってもう、いい時間だったから。

 今日はお化粧だって気合を入れたかった。2時間たっぷりかけて、わたしを綺麗に仕立て上げる。少し派手過ぎるかもしれないが、今日はそういう気分だからいいのだ。お気に入りの鞄をもって、お気に入りの服を着て、お気に入りの靴を履いて、お気に入りの香りを纏って。

 備えあれば憂いなし。素敵な男性に出会っても大丈夫なように、わたしはわたしに出来る最高の自分を用意して、マンションをあとにした。


 スマートフォンのメモアプリに書いておいた欲しいものリストを片手に、もう片手にはさっき買ったタピオカミルクティーを持って、ショッピングモールを歩く。ひとりでこんな風に自由にお店を回るのは久しぶりだった。

 メモにある欲しいものはもちろん買うつもりだけれど、ウインドーショッピングは絶対に欠かせない。必要ないものでも、高級すぎて買えないものでも、無駄にダラダラと商品を見て回るのはすごく楽しい。あれ可愛い。これいいな。そっちもあれば便利だろうけれど。うわ高っ! そんな風に言いながらお店を回るのが、わたしはとっても好きなのだ。むしろ、わたしにとって買い物は、ウインドーショッピングこそが常にメインディッシュなのだ。


 あらかた行きたい店を回って、両手は買い物袋や紙袋でいっぱいになってしまった。それでもわたしは飽き足らず、ショッピングモールを後にして街に出ることにした。


 わたしは紅茶を一口飲んでから、大きく息を吐いてノビをする。さすがに歩き疲れたので、一服しようとカフェに立ち寄ったのだ。

 心地のよい疲労感に浸りながらぼんやりとしていると、すぐに注文していたアップルパイがテーブルにやってきた。注文時、焼き上げるのに少し時間がかかると言われたが、そんなに時間は過ぎたのだろうか。時計を見ても、わからない。

 小難しいことを考えるのはやめて、美味しいもののことを考えよう。早速ナイフを入れると、パイ生地がサクリといい音を鳴らしながら割れて湯気が上がり、中から大きな林檎がゴロゴロと零れ落ちそうになる。パクリと口に入れた瞬間、爽やかな甘みが疲労した身体に染み渡っていく感じがする。

 アップルパイがとてもおいしい。他のものはどうなんだろう。きっとおいしいに決まっている。また来なきゃ。わたしは脳内でお店の名前にチェックを入れた。

 ここでしばらくまったりとしてから——いい雰囲気過ぎるから、まったりしすぎないように注意が必要だ——、スーパーで晩ごはんの材料を買って帰ろう。オシャレにパスタなんてどうだろう。そうは言ってもわたしが一番好きなのはナポリタンでオシャレさがあまりない庶民派だけれど、美味しいのだから仕方ない。

 煩わしい荷物は街に出る前に全部、駅のコインロッカーに入れてきた。それから長い時間、街にあるたくさんのお店を見て回ったけれど、荷物が増えることはなかった。手元にあるのはポケットに入るお財布とスマートフォンだけだ。

 わたしの座っている席は二階のフロアの窓辺にあり、外の景色が望める。窓の外を見下ろすと、たくさんの人が行きかっている。さっきまで、わたしもあの中のひとりだったと思うと、少し面白い。わたしも誰かに見下ろされたりしていたのだろうか。

 ひとりで街を歩く哀れな女だと、思われていたのだろうか。それとも、わたしみたいな綺麗な女性がひとりでいるからラッキーだと思われていたのだろうか。嬉しいことに、今日お買い物している間に、何人かの男性に声を掛けられた。多分、みんな素敵な男性だったと思う。スマートで紳士的で、下品な雰囲気はなく、お金も持っていたみたいだった。わたしだって、そういう人と出会うために完璧に自分を仕立ててあげたわけだし、だって万端だった。けれど、どうしても気分になれなくて、誰の誘いにも乗ることはなかった。

 嫌な女だな、わたしって。ため息がこぼれる。

 空を見上げれば、空が曇り始めていた。

 嘘、と思って急いでスマートフォンで天気予報を確認する。時間ごとの天気予報を見ると、今日のどの時間帯も降水確率は30パーセントを下回っている。朝のテレビだって、たしか雨マークなんてなかったはずなのに。

 まあいいか、どうせ雨なんて降らないでしょう。そう高を括って、わたしはゆっくりとアップルパイを味わう。スマートフォンでは電子書籍を開いて、のんびりとながめる。楽観的になるのが、人生たのしく生きるコツだと思う。

 ティーポットを持つと、軽かった。カップにも何も入っていない。わたしは静かに手を挙げて、ウェイターを呼ぶ。次はカモミールティーにしようかな。


 わたしは休日を満喫していた。はずだった。

 喫茶店を出た時はまだ雨は降っていなかった。けれど、歩き始めて10秒もしないうちに雫が頬を打った。30秒もしないうちに本降りになった。

 当然傘なんて持っていない。駅までは10分もかからないが、このまま雨に打たれながら進むのは無理だ。

 どこかで雨宿りするべきかと思ったその時、偶然に目の前にタクシーが通りかかった。すぐに捕まえて乗り込む。

『はいはいどうもー。お客さん雨すごいですねー。どちらまでー?』

 馴れ馴れしそうなおじさんが尋ねる。わたしは駅まで、と答えそうになったところ、現金の持ち合わせがないことに気が付いた。お財布にはクレジットカードと小銭100円玉4枚だけ。絶対に足りない。試しにカードで支払えるのか尋ねると、

『あー、すいません。そういう機械を導入してないんでー、無理ですねー』

 わたしは向かい側にあったコンビニを指さして、いまからお金を下ろしてくるから、待っていて欲しいとお願いをした。

『いいですよー、早く戻って来てくださいねー』

 大雨が降る中、タイミングを見てタクシーを飛び出した。信号も横断歩道もない道路を罪悪感を無視して渡り、コンビニに向って走る。コンビニに入ると、レジが大渋滞を起こしていた。何事かとみると、皆ビニール傘を持って並んでいた。唐突な雨に驚いたのはわたしだけではなかったみたいだ。

 そんなことよりもATMだ。わたしは速足でATMに向かい、1万円を下ろした。そして、またしても急ぎ足でコンビニを出る。すると、先ほどまでとは比べ物にならない程、雨が厳しくなっていた。まさにバケツをひっくり返したかのような雨とはこのことだ。振り返って扉越しに、入り口すぐ横に用意されている傘コーナーを見る。すでに一本も残っていない。反対車線側でわたしを待っているタクシーを見ながら、少しだけ、もう少しだけ雨が弱くなるまで待とうを思っていた。

 だが、どうにも上手くいかない。大雨でよく見えないが、わたしを待っていてくれているはずのタクシーに、誰かが乗り込んだのが見えた。そして、タクシーは発車したのだ。

 大きなため息がこぼれる。諦めてコンビニで雨宿りせざるを得なくなった。


 20分ほど、雑誌コーナーで適当に時間を潰す。イートインスペースがあればもう少し楽に雨宿りできたのに、と内心で愚痴を吐きながらも、感謝の意を込めてすでに読み切ってしまった雑誌をレジに持って行って購入した。そろそろ足が辛いから早く帰りたい。コンビニを出ると、相変わらずの大雨。止むどころか弱まる気配すらない。

 あと3分待っても変わらなかったら、濡れて帰ろう。なに、3駅分だ。5キロもないから、1時間も歩けば帰れるだろう。荷物は明日にでも取りに行けばいいよね。

 180……150……100……60……30……10……0!

 雨の勢いはまるで変わらなかったけれど、自分で決めたことだ。一歩、踏み出した。いくつもの雫がわたしに降り注ぐ。なんだ、やっぱり大したことはないじゃないか。死にはしないよ。もう一歩、もう一歩と足を進める。すると、

『まって!』

 そう言って腕をつかまれた。そしてわたしを打つ弾が止んだ。

『風邪ひきますよ。よかったらこの傘、使ってください』

 後ろから男の人の声がした。振り返ると、そこにいたのは、1ヶ月ほど前に別れた元カレだった。どうやら彼も気づいていなかったようで、わたしが振り返った瞬間、『あ』と漏らしたのが聴こえた。雨音がうるさいはずなのに、そんなものは関係ないかのように彼の声が耳に入り込んできて、こびりつく。

 彼は何も言わなかった。偶然だね。どうしてここに? 気まずく思ったわたしは苦しまぎれに口を開く。

『え、だっておれのアパートの近所だし……』

 そうだった。彼の家はほんのすぐそこ。このコンビニから駅に行くよりもうんと近いとことにある。まさか、無意識に足がこちらに向いたっていうの?

『え、なんかいつもと雰囲気違うね。全然気が付かなかったよ』

 もうわたしはあなたの女じゃないから。口から出かかった言葉を飲む混んで黙りこくる。彼はそれを察したように、

『そっか、そういう服が本当は好きだったんだ。知らなかった。別に俺の好みに合わせてくれなくてもよかったのに』

 そう言って彼は含みを持った笑顔を見せた。付き合っていた頃と変わらない、どこか遠慮したような笑顔と底なしの優しさ。わたしの胸を鋭く突きさす。

 ねえ、わたし……

『どうかしたのですか?』

 女の子がコンビニから出てきて、彼の袖を持った。小さくて可愛い子だった。彼女が『誰でしょう?』と首を傾げると、彼は目を泳がせる。わたしを見つめる彼女の瞳は、傍から見れば無邪気なものだったかもしれない。しかし見据えられたわたしには、はっきりと敵意が感じ取れた。

『ええっと、この人は……』

 しどろもどろになりながら、彼は説明しようとするが言葉が出てこないらしい。だから、代わりにいう。

 わたしが傘を差さずに歩き出した所を心配して、傘を貸そうと提案してくださったのです。けれど、大丈夫です。そう言ってから、わたしは彼の傘から出た。

 ちょっと嫌なことがありまして、今日は濡れて帰りたい気分なのです。冷たい雨にさらされながら、雑誌の入ったビニール袋をキュっと抱きしめて、わたしは強がる。

 素敵な彼氏さんをお持ちですね。羨ましいです。お幸せになってください。そう言ってから、逃げるように駆け出した。

 馬鹿みたいだ。

 今日は最低の休日だ。


 駆け出して2分もしないうちに、わたしはすっかり息が切れてしまって走れなくなった。膝に手をついて、呼吸だけに専念する。運動不足だなとか、もう若くないんだなとか、急に冷静な思考が流れるけれど、全部雨が流していく。その癖、耳朶にこびりついた彼の声はしつこい油汚れみたいに、流れてくれない。

 彼に別れを告げたのは、わたしの方だ。原因だってわたしだ。彼は別れたくないと、わたしをまだ好きだと、結婚だって考えていたといってくれたのに、何も理由を言うことなく、強引に突き放したのだ。

 それなのに、わたしは彼に腹を立てている。わたしを好きだといったくせに、もう新しい女の子を——しかもわたしよりもはるかに可愛く、若い——ちゃっかり彼女にしているのが、悔しかった。本当なら、そこにいたのはわたしだったのに。その権利を自ら放棄しておきながら都合のいい話だ。

 わたしより幸せになって欲しくないと思ってしまう。わたしを幸せにして欲しいと思う。どんな素敵な男性よりも、彼を思ってしまう。

 お気に入りだった服も、靴もぐちょぐちょ。きれいにセットした髪も跡形もない。お化粧だって、もうめちゃくちゃ。

 わたし、もうダメかも。

 わたしは道路に倒れ込んだ。呼吸ができない。苦しい。


 ああ、そうか。雨が強すぎるんだ。


 運動不足とか、若さとか、彼への気持ち以前に、雨が強すぎるから、わたし今、雨水で溺れかけているのか。

 わたしは道路に倒れ込んだ。辺りには誰もいない。このままわたしは死ぬのだろうか。大雨に打たれて溺死。現在進行形で死にかけているのに、なんだか面白い。

『いや、面白くないから!』

 そんな声が突然響いて、わたしを抱き上げられた。

 彼だ。

 彼は今の彼女を放置して、わたしのことを追いかけてくれたというのだろうか。

『いやいや、何言ってんの。莉子りこは今も俺の彼女でしょ! うわ、冷たっ! マジでヤバいじゃねえか!! 救急車呼ばないと!』

 そう言って彼はスマートフォンを取り出す。

 待って。大丈夫だから、とりあえずあなたのお家に連れて行ってちょうだい。

『ああ、わかった! まかせろ!』

 彼はわたしのことをおんぶしながら器用に傘を差して、走る。

 彼の広い背中は強くて、温かくて、……わたしの意識は……ここで……途切れた……」








——————————————————



 莉子が風呂から上がるとリビングでは、将也まさやが眉間にしわを寄せて待ち受けていた。

「そこに座りなさい」

 いきなりそう言って、将也は目の前に置いた座布団を指さす。逆らうことなく、莉子はぺたりとそこに座った。見れば部屋の隅には、莉子がコインロッカーに入れていた大量の荷物が並んでいた。莉子がお風呂に入っている間に取りに行ってくれていたみたいだ。嬉しくなって将也に抱き着こうとしたとき、将也が口を開いた。

「小説を書くのが趣味なのはいいよ。リアリティを求めて実際に主人公の行動に出るのもいいし、ネタを求めて多少の奇行に走るのも、……止めても無駄だからこの際まあ許す。けどね、危険なことをすることだけは本当にやめてくれ!」

 お風呂上りで軽くのぼせている莉子には、将也の言葉がきちんとは届かなかったようで、適当にはぐらかす。

「ごめんなちゃい♡」

「可愛く誤魔化すな!」

「可愛いでしょ?」

「可愛いけど、違う!」

 そう言って将也は莉子を抱きしめた。

「真剣に聞いてくれ。莉子のこと、本当に大切なんだ。もし俺に会わなかったらどうしてたんだ」

 そう言って将也は抱擁をやめ、莉子の手を握り正面から彼女の瞳を見据える。その手は冷たく震えていた。莉子は将也を安心させてあげたくて、強く彼の手を握り返し、

「あれは、将也に出会えたからだよ。将也なら、絶対助けに来てくれるって思ったからやったんだ。もし将也に会えてなかったら普通に電話して迎えにきてもらって……」

「そういうことじゃないだろ!」

 将也は強く強く、莉子の手を握りしめる。その痛みで、莉子の頭の熱はすぐに飛んでいった。

「俺はいつだって、どこにいたって莉子のことを助けに行くよ。けど! それは必ず助けられるってわけじゃないんだ! 俺はできないことだらけのダメな人間だ! 守りたいからって行動しても、絶対に守れるとは限らないんだ! 莉子を失うと思っただけで怖くなって、未だに震えが止まらない弱い人間なんだ…‥! わかってくれよ」

「……うん、ごめんなさい」

 二人はまた強く抱き合った。そして見つめ合い、唇と唇と近づけ……、

「あの……、お熱いところ申し訳ないんですけれど、妹の存在を忘れないでください……」

 キッチンからひょっこりと覗き込まれて、二人は飛び上がって背中合わせになった。今日、コンビニであった可愛らしい女の子は将也の妹だった。

「お邪魔をして本当に申し訳ないとは思っているのですが、しかし、あいにくの雨ですので、わたくしにはどうしようもないのです。もちろん、このわたくしが雨に打たれて風邪をひいてもいいならば、追い出していただいても構わないのですけれどね? しかし、有難いことにお二人の温情でわたくしをここにおいてくださるというのですよね? せめてものお礼として、こうして晩ごはんを担当させてもらっておりますが、それでわたくしが見ていないのをいいことに、エッチなことをしようとするのはいただけませんね。残念ですが、未成年のわたくしの健全な精神衛生のために、当然、ふしだらな行為は控えてもらいますよ。くれぐれも、清らかな二人のお付き合いを見せてくださいね……」

 そう言って覗き込まれた顔はキッチンの方に消えていった。と思ったらまたひょっこりと顔を出した。

「莉子さん」

 そう読んでからニヤリと笑うと、

「ちなみに、さっき『自分弱いですアピール』をしたお兄ちゃんですが、いざというとき莉子さんを助けるためだといって、結構前からこっそりと身体を鍛えていたのですよ。今日はその成果が出せて、本人の内心は大喜びだと思いますので、是非、莉子さんからも褒めてあげてくださいねー」

「おまっ! 余計なこと言わなくていいって!」

 「お兄ちゃんが怒りました!」と嬉しそうにいいながら今度こそキッチンに戻ったようだった。

 莉子も将也も背中を合わせたまましばらく何も言わなかった。お互いに恥ずかしくて、何も言えなかったのだ。

 意を決して、おそるおそる莉子が振り返ると、将也もまったく同じ風に振り返っていていた。お互いに顔が真っ赤で、まるで鏡でも見ているようだった。それから二人して笑いあった。

「今日は助けてくれて、ありがと」

「どうしたんだよ急に」

「さっきから謝ってばっかりだったから、ちゃんと感謝も伝えないと、と思って」

「いいよ。莉子のためなんだから」

「わたしのために身体鍛えてるって本当?」

「うーん……まあ、一応?」

「隠さなくてもいいじゃん」

「……そういうのはこっそりするものだと思ってさ。鍛えていることを自慢したくて鍛えているわけじゃないから、今日みたいなときにかっこいい所を見せられれば、いいかなって思って……」

「カッコつけちゃって」

「んな……!」

「嬉しい。ありがと。かっこよかったよ」

 将也は頭を抱えて悶えている。

「荷物も取って来てくれてありがと」

「……うん。いいよ、そのくらい。ところで、今日はどんな小説を書こうと思っていたんだ?」

「そうだね……なんか意識高い系でイキってる社会人の女(名前:山田 あお)が勘違いで浮かれている話を書こうと思っていたんだけれど、なんか雨に降られてから不幸が連続して、ちょっとづつ方向性がズレていって……将也にあった瞬間から完全に不幸な自分に酔ってるキモいやつを書こうとしてた」

「はあ……相変わらずよくわからん創作をしているな。それは面白いのか?」

「別に。お話が面白いかどうかは知らないけれど、書いていて楽しいよ」

「それならいいか。よし」

 そう言って将也は立ち上がった。

「どこ行くの?」

「晩ごはんの準備、手伝おうと思って」

「わたしも……あれ……」

 莉子は上手く踏ん張れなかった。今日はいろいろなことがあったから、本当に疲れていた。

「いいよ別に。疲れているんだろ? 休んでて」

 将也は莉子を抱き上げてソファまで運んでから丁寧に下ろすと、優しく頭を撫でた。それからキッチンの方へ向かう。途中で振り返って、

「そうそう。今日は泊っていきなよ。まだ雨が強いから」

「まだ雨降っているの?」

「うん。明日の朝までずっと雨だって」

「そうなんだ……あ゛!!」

 莉子は仰向けに倒れ込んだ。

「なに?! 何事?!」

「最悪だ……」

 ソファに深く沈み込みながら、天を仰いで言う。


「洗濯物干しっぱなしだわ」

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