【NL】アドラシオン・バトル

コウサカチヅル

本編

「何度も言っているでしょう。わたくしの宝であるフラム様が一番だと」

「はぁ? とても受けいれられないな。俺のところのネーヴェ様に勝る『天王てんおう候補』はいらっしゃらない」


 ここは、常春の天界・『アドラシオン』。

 天を統べる主――『天王』が治め、同時に次期『天王』となりえる少年・少女たちが日々、『神術しんじゅつ』の研鑽を積むところでもある。


 そして現在、次期『天王』の最有力候補は炎の使い手である令嬢・フラムと氷の使い手である令息・ネーヴェ。

 だがしかし、この物語は、幼少よりフラムとネーヴェ、それぞれに仕えるそれぞれの従者・セシルとアルベルトの闘いの記録なのである。


「見てください、フラム様の燃えるようなお色の美しいお御髪みぐしを!! わたくしが数時間かけてケアしているのですよ! つまりっ、より有能な側仕えはわたくし!!」

「笑止!! 俺のネーヴェ様の雪のように白い肌……この美容液を手に入れるのに俺がどれだけ苦労したか……っ」

 胸を張りあうセシルとアルベルトを、フラムはにこにこ、ネーヴェはぼーっと見つめている。


「いつも早朝から叩き起こされて結構な迷惑だわ★」

「美容液塗るの本当にめんどくさいー」


 全力で争っているにも拘らず、セシル&アルベルトは、少し離れた場所にいる互いの主人の声を敏感に感じとった。そして、

「ももも、申しわけございませんフラム様ぁああ!! こんな幼気いたいけな美少女に無体を強いていたなんてっ、ちょっと地上まで紐なしバンジーしてまいります……ッ!!」

「ネーヴェ様! 本当に失礼をばいたしました!! 少々切腹いたしますので、介錯をお願いできないでしょうか!!」

「「そんな簡単に命を捨てないで?」」

 滂沱の涙を流すセシルとアルベルトに、主人たちの声がユニゾンする。


(まったく、どうして私たちみたいに仲よくできないのかしら★)

(ねー)

 面倒になったので、テレパシーでの会話に切り替えることにしたフラムとネーヴェ(ちなみにテレパシーは、高い神力しんりょくとお互いの気持ちが通じ合っていないと使えない高等神術こうとうしんじゅつである)。


「もうもうもうっ、なんてお優しいのでしょうっ! ネーヴェ様はいつもぽーっとしていらっしゃるけれど、まれに天使な対応がチラリズムするのですね!!」

「フラム様もどSに見えて、こういうときはとてもあたたかいのだな……!!」


(燃やしていいかしら★)

(氷漬けにしたいー)


 そんな物騒な思考をぽそりと伝えあった令嬢・令息に気づきもせず、セシルとアルベルトの両者はもじもじとしだした。

「ね、ねぇ……アルベルト。今じゃない? おふたりにアレをお渡しするのは」

「そ、そうだな……コホン!」


 そしてふたりはそれぞれ、己が仕えているのと反対の主人へ小さな包みを差しだした。


「これはなに?★」

「なぁにー」


 セシルは頬を染め、うやうやしくネーヴェへ述べる。

「こちら、わたくしとアルベルトで焼いたマカロンです。普段からお世話になっている御礼にと、わたくしが企画立案いたしました」

「セシルは知識はあっても不器用だからな。お前の指示をほとんど俺がこなしたぞ」

「なっ……不器用なんて克服しようがないでしょう!」

 セシルがぐっと背伸びし、アルベルトへ顔を突きあわせると。

「俺は責めているわけじゃない! すごく助かったし、その、お前に――褒めて、ほしかっただけだ。……顔近い」

「~~!! ご、ごめんなさい……」

 ぽわぽわぽわっと、ふたりの背景バックに花が咲く。


「……なんで結婚していないのかしらこのふたり★」

「ねー」

 フラムとネーヴェはテレパシーも忘れ、そんな従者たちの犬も喰わないバトル遣り取りを眺めつづけるのであった。




【終】

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