難易度の高いプール
@a123456789
難易度の高いプール
看板には「難易度の高いプール」とだけ書かれていた。難易度というのはどういった場面でのことを指すのか、また気をつけなくてはならない点はあるかなどといったことはいっさい書かれていなかった。僕は身に着けていたものをすべて放り投げ、必要なものだけをもってプールの中へゆっくりと入っていった。
水の中は生温く、頭上には大小さまざまな大きさの雲が浮かんでいた。雲は触れられる程近くなったかと思えば、どんな道具を使っても手の届かない高さへと遠ざかってしまうこともある。
「あなたは、いろんなものを置いてきてしまったのよ。私としては僭越ながら、取りに帰ることを推奨させてもらうわ」
「君は?」
「私は、いろんなものを落としてしまったわ」
「わかるよ」
「いいえ、分かるわけないわ。だってあなたは、すべてふりだもの」
「ふりなもんか」
だんだんと沈んでいく僕の体には指を動かす力さえ残っていなかった。視力を失いかけている僕の目の隅っこに一切れの紙切れが浮かんでいた。僕が使っていたノートの切れ端のようで、そこには見慣れた僕の筆跡でこう書かれていた。
「うんち」
うんちか、と僕は思った。いつからこんなに、物事がうまくいかなくなり始めたのだろう。
難易度の高いプール @a123456789
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