裏話のあれやこれや

(前回のあらすじ)

 魔界と人間界に空けられた空間の穴で大気は撹拌かくはんされ、魔界の滅亡の危機は去った。一方コウヤは、魔王オモダルと誤認され勾留こうりゅうされる。


◇◇◇


「じ、冗談じゃねぇぞっ」


 声を荒げたのは審議会しんぎかいの最中だった。

 俺が魔王オモダルだって騒いだ貴族がいたとかで審議会しんぎかいが結成された。

 

 俺が突っかかったのは、その審議しんぎの方法だ。

 聴取ちょうしゅした内容や、軍監ぐんかんから出されたこれまでの魔王化を調べ上げて、

 再び同じ条件で魔王化は発動するか? をテストするという。

 

 その条件とは、

①俺の命が危険にさらされる。

②我を忘れるほど怒る。

③魔界にとっての重大な局面の時。


 さすがにこの状況を再現するのは無理だから、催眠魔法を使って、もう一度追体験する――らしい。


「冗談じゃねぇって! 夢の中で、何度も死にかけた体験をしろってかよ? いくらなんでもひでぇだろ?」

 と突っぱねると、

 

「お怒りはごもっとも。ですがご自身の魔王化を否定する証明ができません。公聴会の判断が……」

 と気の毒そうに審議官しんぎかんが告げる。


「いや、アンタに怒ってるわけじゃねぇ、ここまでしなきゃ信用できねぇって奴らに腹が立ってるんだって」


 そもそも自分の手柄がないからって、足を引っ張ろうとする貴族のために、俺がここまでされる必要あるの?!

 って猛烈に怒っていると、体が青く輝き始めた。

 

「騒いでる貴族ども全員連れてこいっ! そこの兵団ごとぶった斬るっ」


「魔王だっ!」

「魔王がでたっ!?」


 って大騒ぎになって報告があがり、サユキ陛下から裁定が下された。


「救国の英雄をおとしめるなど王国の恥である。以後、かの者を揶揄誹謗やゆひぼうするものは国賊こくぞくとみなす」

 の一声だった。


 その前に怒り狂った人がいる――コウだ。

 

「その貴族へ問いたい。二万とも三万ともいならぶ魔人軍の前線に出たことがあるのか?

 それをはね返したことは? 自身は何もせず、はね返した将軍コウヤおとしめるなら領国ごと焼き払ってくれるっ」


 さすがにこの話が広がると、一気に静かになった。

 実はもう一人、怒らせてはいけない人を怒らせたようで。

 その話が広がった二日後、騒いでた貴族たちが次々と謎の事故死を遂げた。

 以後、オキナ宰相の談話。


「気の毒です。助けられた恩を忘れた者は報いを受けることになる、との神のご意志やも知れません。

 もっとも私もそのような方々に配慮はいりょ容赦ようしゃもしたくありませんが」

 だって。


 それからの俺はとても平和で、毎日シャワーを浴びてちゃんと三食食べられて。

 時々ナナミと面会できている。


「ねぇ、(勾留こうりゅうが)いつ終わるんだろうね?」って聞いてくるけど、

「もう(騒動は)終わったから、良いんじゃね」

 と笑ったり。


 凶悪な魔人たちに斬りかかられることもなく、爆音にドキドキしながら夜を明かすこともなく、火山弾ボルガニックに焼かれることもない。

 とても静かで落ち着いた毎日だ。

 

――そして今日無事、釈放となりました。


「お勤めご苦労様ですっ!」

「「「ご苦労様っす!」」」


 シェルターの鉄の扉を開けると、“風の民”やら“獣人部隊”の連中がズラリと並んで出迎えに来ていた。

 

「みんな……」と口を開きかけた時、さらに走り寄る一団が。


「「「ご苦労様ッス!!」」」


 なんでそうガラが悪いの? それに人数が増えてるし。

 ――ほら、街の人たちがおびえてる。


「あ、ありがとう。みんなもご苦労様」

 

 鉄の扉から出てくると、迎えに来た連中に中腰で頭を下げられるという。


 もう俺、魔王じゃん。


 とはいえ、うれしいことには変わりなく。

 

「師匠っ、ずいぶん活躍したみたいじゃないッスか? カノンとライガを退散させて、あのムスタフ将軍を吹き飛ばしたんですって?」

 と、勘違いヤロウのリョウと握手する。


 ――それ、スンナとコウな。

 コウが守ってくれて――ってもういいか。


 青の立襟たてえりの長い上着(遊牧民の正装のデール)をまとって、満面の笑顔で近寄ってきたのは『風の民』の主梁しゅりょうカイだ。


「婿殿っ、いやさ大王ッ、よくぞご無事で――」

 と言ってるハナから「くうっ」っと号泣ごうきゅうし始めた。


 ナナミが涙脆なみだもろいのはコッチからきてたかぁ。


 となりでキタエ(カイの奥さん)さんが

「この人ったら……本当すみません」と頭を下げている。


 銀縁ぎんぶちのメガネをクイっとあげながら、サイカラさんが近づいて耳打ちしてくる。


「今なら、ゴシマカスを乗っ取れますぞ。『“蒼き狼”の生れ変わりだ』と乱波らっぱにうわさをばら撒かせましたので」

 と、危険な陰謀いんぼう披露ひろうしてくれて。


 勘弁してくれ――そこら辺からややこしくなっているかも知れねぇじゃん。


「伝説の話は他人に任せようぜ。今は――」

 とカイの後ろを見ると、姿が隠れるほどの花束を持ってくる女子発見。

 もちろん、こんな演出が好きなのは――


「ご苦労様です、コウヤ様」

 と、両手一杯の花束をワシッと押し付けてきた。


「ただいま、ナナミ」

 片手で花束を抱えると、空いている左手でナナミを抱き寄せる。


「俺はたぶん今日と言う日を忘れられないよ。ありがとうな」


 と申し合わせように、ナナミと二人でみんなに頭を下げた。

 それに気づいて互いに顔を見合わせて笑う。


「さて、続きは我が屋敷でいかがかな?」

 とオキナとコウが肩を並べて近づいてきた。

 

「コウヤ殿、長い間不便をかけてすまなかった。

 サユキ陛下からも『君の心中を憂慮ゆうりょしていると伝えてほしい』とのお言葉をたまわったよ」

 と軽く胸に手を当て黙礼する。

 

「なに言ってんだよ。陛下もコウもオキナも一緒になって怒ってくれたんだって? どんだけ感謝しても足りねぇよ」


 と頭をかきながらゴシマカス流の敬礼、胸をドンドンって叩いて拳を突き出す。

 それが意味するのは『私の命はあなたと共に』だ。


「ありがとう。オキナ、コウ――喜んで招待をうけるよ」


◇◇◇


 ビックリするぐらい広い屋敷に変わっていた。これまでの宰相さいしょうの屋敷を引き継いだんだそうだ。


 その広い庭にシェフを呼んで、慰労会という名のオープンパーティーみたいなことになってる。

 迎えに来てくれた全員が招待され、みんな良い笑顔だ。

 オキナとコウも久しぶりの屈託くったくのない笑顔。

 

 そんなオキナへ近づき、

「なぁ、オキナ――頼みがあるんだ」と打ち明けたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る