急転直下
(前回のあらすじ)
スンナのブレスで魔人軍は粉砕された。奇跡的に生き延びたムスタフ将軍は、撤退をせざろう得なかった。
◇◇そんな時の魔界。ライチ公爵目線です◇
魔界にはいつも暗雲が
魔素の濃度が高すぎるせいで、陽が照らす時間は何年減っていき、作物も魔素を吸収して魔物と成り果てている。
「なんと……?! ムスタフが撤退、とな?」
ワシ(ライチ公爵)に届いた知らせは、描いた
「またもか……。またも魔王オモダル様は“調和”を優先し、我らに絶望を与えられるのか?」
万全を期して送り出したムスタフ将軍が、なんの戦果も持ち帰れなかったのはそうだったとしか思えない。
武功カウンターの示す数字が、彼の完敗を物語っていた。
「ラ、ライチ公爵っ」
側近のガワツが駆け込んでくる。
おおかたムスタフ将軍の敗走を知らせるつもりなのだろう。
魔人の滅亡を暗示する凶報の、彼なりの
「ライチ公爵閣下っ」
「ムスタフの件か……? とうに知っておるわ。武功カウンターで見ておったからのぉ」
次なる手を考えねばならない。
次なる手を……と、思いガワツの顔を見ると複雑な顔をしている。
「何事だ?」と、聞いてやるくらいはせねばなるまいて。
「魔素の濃度が下がっております。どんどん魔素の濃度が下がっておるのです」
ガワツの顔はどう理解して良いかわからぬ――と言った具合だ。
「なにっ?」
「おそらく青龍が放ったブレスで、我らが魔界にも届く空間の穴が空いたのかと……」
声に誘われるように、分厚いカーテンを開けて窓の外を見る。ここしばらく見ることのなかった太陽の陽が降り注いでいる。
「馬鹿な……」
報告が間違いないことは目の前の光景が示している。暗雲が渦を巻いて中空に開いた穴へ吸い込まれていく。
「馬鹿な……」
ありえない光景に言葉を失った。
間違いなく吉報だ。
だが、我らは侵略を始めてしまっている。
“魔人の種の存亡をかけて”――と犠牲を
「いかがいたしましょう?」
ガワツの複雑な顔が、始めてしまった戦争の“収めどころ”の難しさを語っている。
「処理に時間が――のを?!」
空間からいきなり手が生えて来て、ワシを掴んだ。
「ライチ公爵閣下っ」
ガワツの悲鳴が聞こえ、ワシは信じられない光景を目にする。
強制的に転移させられた場所。
それはゴシマカス王国のまさに中心部、
なにが起こった?
なぜここにおる?!
転移魔法の告げる座標に、ゴシマカスの王宮に引き
そしてワシの首根っこを捕まえている御仁は――。
「な、なにをなさいます? 魔王オモダル様っ」
混乱の極みだ。
魔王オモダル様の凶悪な魔力を感じた。
「
と下腹に響くあの声とともに。
◇◇◇
場面は変わり、ゴシマカス王宮の地下シェルターで。
「でかしたっ!」
パーンッとオキナの背を張り飛ばすムラク元軍卿の手荒い祝福と、サユキ国王の
おそらく手形がついてしまったであろう背中を、そり返しながらオキナが通信兵へ
「コ……コ、コウ大佐へ『ムスタフ軍、撤退せり。スンナ殿と貴殿の
と指示を出した。
分析官へ向き直ると「北西の魔人軍(二万)の動きは?」と魔眼の映像を見ながら、進軍の位置を聞いた。
「開戦前と変わらず、北西十キロで止まっております」
少しホッとしたように現況を報告する。
「東西(五千ずつ)の動きは?」
「止まっております……」
さすがに不自然さを感じたのだろう。分析官も
「南のムスタフ軍が敗れたことで、計画が狂ったか……? 再編するまでのタイムラグで、我らの
と通信兵を向くや
「ミズイ
百名単位ならそのまま転移可能。中隊を編成なおし、転移して
と指示を出すと、ムラク軍卿――と声をかける。
「今一度、軍団のお力をお借りしたい。前後から
第三師団とともに二千ほど打って出て頂けませんでしょうか?」
「もとよりそのつもりだよ……自由に使いなさい」
と穏やかに微笑んで愛弟子を見つめる。
「それではこれより
コウ大佐はスンナ殿と上空にて待機、
各所に連絡――作戦開始まで……」
と壁に目をやり「三十分でいけるか?」と分析官を見る。
「各所に連絡、指令を発しました。すでに編成に動き出しています――返信きました。第一隊、準備ヨシ」
「同じく第二隊ヨシッ」
「第三師団、あと三十分で完了させると連絡」
「コウ大佐より返信『いつでも行ける』と」
「ミズイ辺境軍のサンガ中佐より連絡っ、『編成終わり、指示を待つ』と」
「第三隊は引き継ぎ王宮の守備に回ってもらう。
第一、二隊は、カール師団長の第三師団と合流し正面から打って出る。編成終わり次第、配置を急げ」
「コウヤ将軍は遊軍として動いてもらう。『王宮の地下シェルターへ帰還されたし』と連絡を――」
とオキナが言いかけた時だ。
「それには及ばぬ」
と俺が司令室へ入って行った。
俺がって傍点がつくので、おおかた察してもらえると思う。
俺は視界こそ俺目線だが、体の主体は俺ではない。俺の中にいる彼。
「魔王オモダルである――」
ゆっくりとオキナへ歩み寄る。
これまでを知っているオキナの顔が引き
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