攻防の行方

(前回のあらすじ)

  カノンたちを退け、他の魔人軍を第三隊に預けた俺はムスタフ将軍のいる本隊を攻撃。追い撃ちを仕掛けようとした時、ムスタフ将軍が出てきた。


◇◇


「やってくれたのぅ」

 

 そのセリフとともに姿を現した巨漢。

 シールドで直撃をまぬがれたとはいえ、ムスタフ・ゲバル・パジャの放った『断絶ブレイクダウン』を被弾して、全身がしびれたように動けない。

 衝撃波だけでもかなりの威力だ。


「っ痛ぁ――っ、痛ぁ――っ、やってくれるじゃねぇの」


 睨みつけながらダンダン足を踏み鳴らす。

 こうやって痺れを取り去っていく。足の感覚が戻ると腰、肩、首……と順にグリグリ回してミスリルの剣を一振り。

 すっかり感覚を取り戻した。

 

「――って、はあ?!」

 周りを見回すと、俺が盾にしてきた家屋どころか一区画ぐらいゴッソリなくなっている。


「え? はぁっ?」

 思わず二度見した。

 

 まるで爆撃の痕跡こんせきだ。

 このまま大火力の魔法を使わせていたら王都が吹き飛ぶ。

 どうにか一騎打ちタイマンへ持っていけないか?

 

 極力、平静を装って

「なぁ、ムスタフさんよ、あんたが残してきた殿しんがりの小隊は片付けてきたぜ。おいおい第三隊と、他の連中もここに集まって来るって算段だ」

 そんでもって聞きたいんだが――と、ミスリルの剣で肩をトントンッと叩きながら尋ねてみた。


「このままだとアンタら全滅だ。知らん仲じゃないから一応聞くが、降伏しねぇか?

 本国へ連絡を取らせてやるから、交渉の場を設けてもらうなりしたらどうだ?」


「あいかわらず甘いの。我らが知らぬと思っていたか? まだ我が小隊は生きておるし、全滅もない」


 と鬼の面のようなフェイスガードを押し上げた。

「我が国には武功カウンターなる魔道具があっての。部下の武功はその将と本部が把握できるようになっておる」


 なにそれ? ドラゴン◯ール的なあれ?

 魔眼が監視カメラ的なものだから、それのライブカメラみたいなやつ?

 戦況把握もライブ目線でできちゃうってこと?


「それによれば、我が小隊こそウヌらの兵を押しておるようだがの」


 ヤッベぇんじゃね?

 あの場を離れるべきではなかったか?


「便利なもの持ってやがるな。だが、状況不利には違いあるまいよ」

 と返してやると、ムスタフの野郎。


「このまま一気にぎょく(王様のこと)を取るつもりであったが、背を狙われながら押し通るのも無理がある。

 排除してから向かうとするかの」

 と抜かしやがる。

 おいっと声をあげると、十将だかの生き残りが前に進み出てきた。


「ここで一刻足止めしておけ。その間に王宮を落とす」

 とだけ告げてマントをひるがえすと、城壁に向かって歩き出し守備兵の後ろへ消えていく。


 よ……余裕こいてるじゃねぇか? 俺ごとき十将のなんたらで十分ってかよ?


 湧き上がる怒りを大きく息を吸い込み押さえ込む。十将だってあのムスタフ将軍が頼りにするくらいの連中だ。

 手持ちのコマの飛車角くらいの戦力だろう。

 

 ふぅと息を吐き切り、ミスリルの剣に魔力を流し込んでいく。流し込んでいく。流し込んで……?

 ブィィィィィンッて鳴ってるんですが?

 見ると剣全体から眩しいほどの白銀の光が放たれていた。


 体全体が真っ青な光な光に包まれちゃってる。

 これを『斬波』に乗せて切っちゃったら、どうなるんだろう?


「勇者コウヤよ。十将が一人――」

 と名乗りをあげようとしている鬼の面の巨漢に、ヒョイとふるってみた。

 ズベベドパーンッと石畳が捲れ上がり、十将のなんたらが吹き飛んでいく。


「へ?」

「は?」


 変な空気のなか、十将のなんたら君が二つに分かれて振って落ちた。


「ほえ……」


 互いに間抜けずらしてるのはわかってる。

 わかってるんだが、錆びついたロボットのようにゆっくり視線を交わした。


「……だ、だから警告したんだ。俺は無益な殺生はせん。ムスタフへ言ってこい。今ならまだ間に合うってな」


 精一杯の虚勢だ。

 軍隊の教科書だと三対一の戦力差になった時点で、降伏か撤退する。

 とうにそのラインは超えたはずだ――はずだよね?


「シュウ様ぁぁぁっ、シュウ様ぁぁぁ――っ」

 と魔人から悲鳴が上がる。


 え? その人シュウさんって言うの?

 そんでもって、すごく人気があったのかな?


「おのれっ、おのれぇぇっ、もはや我らの命なくともかまわぬっ! 貴様を塵もなく消し去ってくれるわぁっ」


 十人? いやもっといっぱい。

 魔人たちが大太刀を引き抜いて「きぇぇぇぇ――ッ」っと迫ってくる。


 誰だよ? 三対一が撤退ラインなんて言ってたヤツは? 死兵となって襲いかかって来たじゃん?!


 あ――ともかくだ。

 ソッチが殺るのは良いけど、殺られるのは許せないって、ねぇべ?


 ふぅ――っと、また息を吐き切った。

 ビィィィィィ――ンッて剣が鳴ってる。


「そりゃっ」

 横一閃に振り切った剣から弧を描くように斬撃が走り、巨漢たちが上下に泣きわかれになって崩れ落ちた。


「くぉのバケモノがぁぁッ」

 魔人たちが腕輪を触ると、半透明のカイトシールドが展開され、突き上げた拳から魔力が溢れ出してくる。

 

 やがてそれは中空で火の玉となり、一つ二つ三つと寄り集まってオレンジ色の塊と化した。

 それが一つ二つならまだ良い。

 数百に及ぶオレンジ色の火山弾ボルガニックが、シュウシュウ言いながら中空に浮かんでいる。


火山弾ボルガニック、放てっ」


 目の前が真っ赤になるほどの火山弾ボルガニックが襲いかかってきた。


「そおりゃ」

 こちらもじっと待っていたわけじゃない。

 とうに魔力を剣先に流し込んでいる。

 それが真っ白な閃光となって火山弾ボルガニックを迎え撃った。


 パパパ――パンッと破裂音がすると、高熱であたりが真っ白に染まる。


「うおっりゃ」と、もう一発。


 もうすっかり中空に浮かんでいた火山弾ボルガニックは消え去り、口惜しげにこちらを睨みつけている魔人たちが残っていたが、


「ぼわっ……」

「ふぐぉっ」


 しばらく俯いていたかと思うとドサリッと倒れた。

 

 これで邪魔者はいなくなった。さぁて――と、ムスタフ将軍の向かった先へ駆け出していく。

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