ムスタフ軍との攻防

(前回のあらすじ)

 ライガとの対決もコウヤの勝利で決着か? と思われた時、寸前でカノンに邪魔され、逃亡を許してしまう。


◇◇コウヤ目線です◇◇


「退けッ」

 カノン・ボリバルの声に、獣人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行き、あとは魔人の小隊のみが残される形となった。

 

 真っ赤な鎧を着た魔人が

「なあ?! 獣人が呆れたものよ。ここで踏ん張って居れば、後続が来るというに」

 と大声でわめき散らす。


 あれで味方の士気を鼓舞しているつもりらしい。

「後続が来るまでじゃ!

 コウヤもコヤツらもここで足止めをさせてやろうぞっ。

 その間にムスタフ将軍が国王を討ち取られる。それで我らの勝利じゃ」


「「「オウッ」」」


 だいたい総勢二、三十人だろうか。ムスタフ軍の赤い鎧の魔人どもが声を上げる。

 

 対するこちらは第三隊。

 ムスタフ将軍を迎え討つために五百人は王宮、あとは南門と水路の防衛線へ派遣されている。

 この場には百人ほどだがそれでも五倍の戦力だ。

 普通なら獣人とともに撤退するか、ムスタフ将軍の率いる本隊へ合流してもおかしくない。

 

 ところが誰も彼もが腕輪を触ると楯状のシールドを発生させた。それはカイトシールドのような大きさで、横一列に密集すると、まるで帯状の壁が出現したかのようで。


「構え――っ」

 向こうの小隊長らしき魔人が吠えると、一斉に腰を落とす。


「突撃――ッ」


 号令とともに走り出す。

 目の前に出現した横一列の壁が、こちらの隊列を突き崩し、体勢を崩した兵には壁の後ろから走り出てきた三人一組の魔人が襲いかかり血祭りに上げていく。


「ぐわっ」

「待てっ、待てっ、うわぁ」


 まるでブルドーザーを盾にしたゲリラ戦法だ。

 それを見た小隊長が声を上げる。


「密集を解いて鶴翼の陣っ」

 上から見ると、Vの字へ広がり的を絞らせないように素早く位置を動かした。


「相手は少数っ、真横からシールドの隙を撃てっ!」

 声を張り上げると、突っ込んでくるブルドーザーのようなシールドの一団を引き込んでは、盛んにライトニングを撃ち込んでいく。


「蜂の巣にしろっ」

「「応っ」」


 号令とともに、目にも眩いライトニングの豪雨が敵のシールドへ襲いかかっていった。

 さすがムラク軍卿の秘蔵っ子たちだ。

 敵のゲリラ戦法に即座に対応して、勢いを盛り返していく。


「コウヤ将軍っ、ここは我らに任せてサユキ陛下の元へっ」

 そう言いながら、王宮への道を指し示した。


「恩にきる。あんたらも死ぬなよっ」

 思わず口走った俺に


「妙なフラグはごめんですぞ」

 と複雑な顔で笑った。


 ともかく任せたぜ――と、ベルトに通してあるポーションストッカーを開き、後頭部の傷へ振りかけた。

 手で拭ってみると、焦茶色のカサブタがずるりとむける。

「……よく生きてるよね、俺」

「そこはコウヤ将軍ですから……」


 なんだかわからない認識の差があるようだね、君。

 

 とはいえ時間がないのも確か。

 ツッコミたい気持ちを脇に置いて、さっきムスタフ将軍が歩いて行った方向へ走り出す。

 真っ赤な鎧の一団が、王宮を囲む城壁の前に陣取っているのが見えた。


 城壁の上からは盛んにライトニングを撃ちかける一団がいて、それへ火山弾ボルガニックを打ち上げている魔人たち。

 今なら、完全に城壁へ意識が向いている。背を打つには絶好のポジションだ。


 走りながらミスリルの剣を引き抜くと、剣先へ魔力を流し込んでいく。

 ビィィィィィンッ、と細かい振動が甲高い音を立てた。

 体が蒼く発光していく。


「シッ」

 と短い気合いとともに剣を振り下ろすと、真っ青な三日月型の斬撃がそいつらの背に襲いかかった。

 背後を警戒していた一団ごと吹き飛ぶ。


「グォォッ」

「ズォッ」

 短い悲鳴はアラートとなってしまった。

 ザッという擬音が聞こえるくらいの勢いで、守備隊がこちらに向きなおると、壁を作るように走り込んできた。


 ジャキンッと長盾の下のスパイクを地面に突き立て、バリケードを構築していく。

 その後ろから魔導官らしき魔人が、詠唱を始めると中空に火の玉が浮かび上がった。


「撃てぇぇぇ――っ」

 号令とともに火の玉が襲いかかってくる。


「のぉ?!」

 シールドを展開すると、バチバチとシールドに当たる火山弾ボルガニック


「熱いんだって!」

 レンガ作りの建物の影に飛び込むと、ミスリルの剣に魔力を通し始める。

 再び剣先がビィィィィィンッと振動を始めた。

 

 連発はできないかな?

 そんな厨二心が湧いて、いつもの二、三倍の魔力を投入してみる。

 剣の振動がフィィィィンと高音を奏でるようになってきた頃合いで、建物から飛び出し斬撃を放ってみた。


「そぉらっ」

 ピュンと水平に振るったその斬撃は、真っ青な直線となって長盾を薙いでいく。


 パン、パン、パァァァンッと爆竹が爆ぜるような音と、吹き飛ばされていく長盾が宙を舞った。


「グォォォッ!」

「がはっ」


 少数の悲鳴と崩壊していく長盾の壁。

 破片が飛び散り魔導官らしき連中が腕で顔を覆っている。

 黒いローブが風に煽られてよろめきながら下がっていった。


 と言うことは、しばらく遠距離攻撃はないはず。


 もう一発! とその場でグルリと周り魔力を込めていく。また青く体が発光し始めた。

 どうなってるんだろ? 俺の体。


「ウリャッ」

 横一閃に走る青い直線。

 バァァァンッと赤い鎧たちが弾け飛んでいった。


「「「ウォォ――ッ!」」」

 すごい歓声が上がりびっくりして声の方をみると、城壁の上の連中が拳を突き上げている。

 王宮を守る第三隊の守備組だ。


 うむうむ。そうなるでしょう?

 これってヒーローのパターンじゃね?

 ピンチの時に颯爽と現れて、圧倒的に不利なシーンをひっくり返すヒーローじゃね?

 じゃあ……ご期待に応えてもう一発!


 その場でグルリと回った時だった。

断絶ブレイクダウン

 男前の低音が響くと、バンッと痺れるような衝撃が襲い掛かり目の前が真っ白になる。

 畳二畳分のシールドが攻撃に反応して俺を守ってくれてはいたが。

 

「やってくれたのう」

 真っ赤なマントを翻してムスタフ・ゲバル・パジャが現れた。

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