もう詰んでいるんだよ
(前回のあらすじ)
一時はオキナの計略でムスタフ将軍を
◇◇
カノン・ボリバルは、生き残った盾の間からユラリと立ち上がった。その後ろから金色の毛並みのライガも。
「化け物め」
吐き捨てるようにカノン・ボリバルは
『遮断』
急速に魔力が掻き出されていく。
俺のまとっていた青い光が色をなくし、ミスリルの剣が放っていた細かいビィィィィィンッと振動する音も止んだ。
「おっとこれからはオレが相手だ。いいよな? ムスタフ将軍」
金色の毛並みに包まれた
「二対一か? それともここにいる全員か?」
冗談じゃねぇぞ全く、と不貞腐れたふりをしながらあたりを素早く見回してたら、ムスタフの野郎
「そちらはカノン殿、ライガ殿にお任せした。我らは王宮の制圧へ向かいますほどに。存分に
と笑いながら大太刀を肩にからげ、悠々と王宮へ歩み始めた。
「陛下をお守りしろッ」
と第三隊へ声を上げて、一歩踏み出せばカノン・ボリバルとライガ、獣人たちがこちらの前に回り込んで道を塞ぐ。
声をかけた第三隊の前にも、魔人軍が横陣を引いて壁を作ってやがる。
「もう詰んでいるんだよ、化け物」
立ち塞がるカノン・ボリバルに「退けっ」と突き掛かるも、キンッと火花が飛び、剣先が逸らされる。
「おいおいっ、カノンそりゃないぜ。退けよ、コイツはオレの獲物だよ」
ニマニマと笑いながらライガが進み出てきた。
「な? あんときの貸しがあるからオレだよな? 装備だって返してやった貸しがあるだろ? オレが先だよな?」
俺に聞いてどうする?
なぁ遊ぼうぜ的なノリで殺し合いに誘ってんじゃねぇよ!?
そして苦笑いしながら後ろに下がってんじゃねぇぞ、カノン・ボリバル!
後ろに下がりながら『遮断』を重ねがけするように、左手を
もう盛大に不貞腐れてやる。
チッと舌打ちして下を向きながら、九回ツーアウトのピッチャーのようにゴリゴリと足元を削った。
頭がフル回転しているのを誤魔化す仕草だ。
で、思いついたんだよね。
『遮断』で魔力が掻き出されるなら、それを超えるスピードで補充すれば良いんじゃね?
だってさ――幸い魔素は、青龍が開けた穴から無尽蔵に吹き込んでくるし。
さっきは予想以上の魔素が集まってきたんだ――出来るはずよね?
『魔練鉄心』
内八立ちに構えて、口から息を思い切り吐き出し、鼻から思い切り吸い込む。
あたりに魔素が集まってきたのか、金色に輝くキラキラとした粒子が集まってくる。集まっている。集まって――ってものすごく集まって来たよ、おいっ。
やっぱりか?
やっぱりあの穴が空いたせいで、魔素の濃度が高まっている。
『遮断』をかけられたときに俺の周りを取り囲んでいた、薄いピンクの膜がビリビリと震え始めた。
もう一息、と盛大に息を吐き出して今度は身体全体で魔素を吸い込むイメージをする。
「んんッ?!」
カノン・ボリバルが眉を
どうやら異常に気づいたらしい。魔素の動きは見えていないようだが、獣人特有のカンで危機を察知したようだ。
「ライガッ、様子がおかしい。今のうちに始末しろ」
カノンがライガに指示を出す。
「承知っ」
ガラリと引き抜いた大剣をビュウンッと振るって来た。
左つま先で地面を蹴ると、右に半円を描きながら丸く
ライガは振り切った剣先を手首を返すと、そのまま叩きつけて来た。すり足で踏み込みながら斬りつけてくるから、上体だけで
右つま先で地面を蹴って横っ飛びに転がる。
そのまま背筋で無理やり身体を引っ張り上げると、膝立ちのまま突っ込んでくるライガの出足を斬りつけた。
「ちぃっ」
ヒョイと飛び退いたライガが、トンッと柔らかく着地するとゆっくりと中段に構えを整えて、腰を落としていく。
極力魔素の吸収を優先したいから牽制するだけで、無駄に攻撃はしない。
「ふうん、ずいぶんおとなしいじゃねぇか? 何企んでやがる?」
チョイと大太刀を振り上げては、間合い寸前まで踏み込んで盛んに誘ってくる。
こちらも相手の間合いに持ち込まれたくないから、突っかけてみたり、右手の剣をだらりと下げてゆっくりと右回りに回って見せる。
その間も呼吸を整えては魔素の吸収を続けた。
キラキラ光って見える魔素が、天中と言わず鼻口と言わず大量に流入してくる。
まだ魔力になる前だから『遮断』の影響はない。
よし……整った。
『魔練鉄心』
たっぷりと吸収した魔素を急激に魔力へ変換して、身体強化と闘気へ変化させると、ドンッと足下が沈み込んだ。
「シッ」
短い気合いと共にミスリルの剣を振り切ると、パァンと『遮断』の膜が弾け飛んだ。
「ぬぉっ」
緊迫した縄が切られたように、カノンが後ろに仰け反りタタラを踏む。
「ライガッ、『遮断』を破られたっ。斬撃を出させるなっ」
鋭いカノンの指示に、ライガが弾けるようにこちらへ斬りつけてくる。
これまでの隙をついて、斬り伏せようとするような繊細な剣戟ではなく、撲殺を目的としたような力任せの乱打だ。
「のぉぉっ」
左手のバックラーで逸らしてら反撃しようとするのだが、こう回転が早くては受けに回るしかない。
「斬撃のタメを作らせるなっ」
カノンのセコンド指示がうるさい。おまけに背後に詰めていた獣人に向かって、
「ボヤッとするなっ、射撃でも投擲でも良いっ、手が空いてるヤツは後ろから援護だ」
ってほんと余計な指示まで出してやがる。
魔人軍がライトニングの詠唱を始め、獣人はそこら中に散らばる瓦礫を手に持つと
ライガの大太刀がブンッと鼻先をかすめ、上体を仰け反らしたときだ。ガツンと衝撃が走り、足元になんかの瓦礫が転がった。
目の前が真っ白になり意識が飛んだ。
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