化け物めと言われちゃう話

(前回のあらすじ)

 ムスタフはウスケが交わした領土の三分の1をよこせと要求してきた。だが、それすらも罠。襲いかかってきた魔人軍にスンナが上空から襲いかかり、コウの魔法が発動した。


 ◇◇


 突然、ボウッと上空から風が吹き下ろし、キュルルーーイッと聞き覚えのあるいななきが聞こえた。

 ジャミングの残滓ざんしが吹き飛ばされ、ムスタフ将軍を含めた一帯が半球のシールドに包まれる。


『フレイム・コア』

 コウの魔法が発動した。


 地面にオレンジ色の半球が発生する。

 たちまち白色の光を放ち、シールド越しにもヤバい高熱が伝わってくる。


「うわっちぃぃ」

 熱い熱い熱風が巻き起こり、たまらず後方へ避難した。


 鼻からコレを狙っていたのか?

 俺がいることで時間を稼ぎ、サユキ国王を餌にムスタフ将軍を釣り出した。

 その間に、西北から押し寄せる魔人軍にかかり切りになっていたスンナとコウを呼び戻し、コウの『フレイム・コア』でムスタフ将軍を始末する。

 全てはオキナの計略。


 ムスタフ将軍は、スンナとコウを西北から押し寄せる大軍に掛かり切りになると思い込んでいた。

 見誤ったのは、スカイ・ドラゴンの飛行能力だ。

 ものの一分もあれば十キロなど一っ飛びで戻って来れる。

 あのムスタフ将軍をめるとはなぁ――呆れる思いで目の前に発生した白色の球体から発せられる熱波から目を逸らし「ゔ、熱ぃ」とさらに距離をとった。


 やがて熱波が収まって高熱の炉と化した一帯が、ブスブスと音を立てる黒い残骸へ変わると、シールドが解除され熱風が襲ってくる。


「えげつねぇな」

 範囲にして三十メートルの円形が黒く焼けこげ、熱せられた空気が陽炎となって立ち上っている。

 ガラリと黒く焼けこげた鎧だったらしきものが崩れ落ちた。


「まったく持って非情なものだ」

 下っ腹へ響くバリトンの声に飛び退いた。


「な?!」

 熱波に顔をゆがめながらうかがい見る先には、真っ赤な鎧に身を包んだ巨漢が立っている。


「ゴシマカス元国王は消し炭となったぞ。我が子を焼き殺すなぞ鬼の所業、我らがちゅうせねば天が許すまいよ。天に変わって成敗ぞっ」

「「オウッ」」と野太い声が響き渡る。


 お前らは月に変わって何かするヤツらなのか?

 激しく突っ込みたい衝動と驚きで声を上げる。


「ムスタフッ、なんで生きていやがる?!」

 

 左手のシールドを展開しながら光陰流の構えを取って、低く身構える。

 ガラリと引き抜いた大剣を肩にからげ、ムスタフ将軍はこちらへ向き直った。

 

「縮地くらい我が使えぬと思ったか? 市街地ゆえに範囲魔法を加減することくらい読めるだろう? さすがに肝が冷えたがな」

 

 笑いながらあたりに「互いに距離を取れ、スカイ・ドラゴンが来る」と指示を出している。

 コウのシールドが展開し切る前の一瞬に脱出したようだ。

 武将としてだけではなく、武人としても一級品ってか? たまらねぇな。


 上空を見上げると、スンナも大きく旋回して次の攻撃の体勢に入っている。魔人軍の展開するシールドにライトニングの矢が次々と襲いかかってきた。

 バチバチと閃光を放ちながら削り取っていく。


「ぬぉっ」

 シールドを支える魔人の魔導官が呻き声を上げた。

 空には点のように小さく見えていたスンナが間近に迫っているのが見える。

 途端に街のあちこちからオレンジ色の火山弾ボルガニックが打ち上がった。


 建物に隠れながら対空戦術をとっているようだ。

 障害物が何もないところなら、スンナのブレスで一掃できる。

 だがここは王都。

 火災が発生すると多くの都民が巻き込まれる。都民を人質にとられながら戦っているようなもんだ。


 狙ってやっているだけにやりずれぇ……。

 スンナの援護があるうちに陣形だけでも整えようと、後ろを振り返ると第三隊の隊長と目が合う。


「金属兵をありったけ連れてこいっ、ここで踏ん張るぞ」

 と声をかけると伝令がおうっと駆け出していく。

 向こう(魔人軍)は盾兵を並べて、小隊ごとに拠点を作りつつある。

 遠距離火力の撃ち合いに持ち込むつもりだ。こちらが高火力を撃てないと読み切ってやがる。


 上空を見上げても、スンナも建物の間から間断なく打ち上がる火山弾ボルガニックに、近づけなくなっていた。


 ムスタフ将軍が肩にからげた大剣を天に突き上げ、こちらを見てニヤリと笑う


「者ども、魔人の恐ろしさを骨の髄まで思い知らせようぞっ。かかれぃ」

 と大音声をあげると大剣を振り下ろした。


 あっという間にこちらのシールドへ襲いかかるライトニングの放つ閃光で、あたりは真っ白になる。

 パパンッ、パンパンッ、と爆竹が爆ぜるような爆音に満たされて、第三隊もシールドを保つのがやっとだ。

 金属兵もギッチョン、ギッチョン集まってきたが、ライトニングの一斉掃射に倒される者が相次いだ。


 集団戦の練度の違い?

 展開の速さ、追い込む陣形の変化の速さ。

 なによりこちらの陣形の薄いところを突いては、襲ってくる。


 ピュンッと跳弾が跳ね、シールドの隙間から第三隊の誰かを傷つけたのか「うぐっ」と押し殺した悲鳴が上がる。


「ふざけんなよ」

 ギリッと奥歯を噛み締める。


 思い上がってんのはテメェらだ。

 

 グルリと一回その場で回り闘気を蓄えていく。体が青く輝き始めドンッと地面が陥没した。

 体から放たれる青い光が、襲いかかってくるライトニングの閃光を跳ね返して、真っ青にあたりを照らした。


『斬波』


 横凪に振るった剣先から、横へ伸びる直線が放たれる。

 あちこちで拠点を作っていた魔人軍の並べた盾が、衝撃に耐えようと地面に深く突き刺さったのが見えた。

 だが……


 バァァァンッ、と木の葉のように金属製の盾が吹き飛ばされていく。

 目の前の魔人どもが消し飛んでいった。


「な?!」

 驚きの声が魔人たちから上がる。


「対魔法の盾を両断するとはな」

 呆れたようなしゃがれ声が聞こえた。


 俺が青く身体を発光させたままそちらへ向き直ると、生き残った盾の間からユラリと立ち上がる長身の男がいる。

 その後ろから金色の毛並みの大男も。


「化け物め」

 吐き捨てるようにカノン・ボリバルは佩刀はいとうを抜き放った。

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