やめてーーもう嫌っ となる

(前回のあらすじ)

 青龍の霊薬である血と回復魔法で無限に再生するカラクリを見破り一斉攻撃を開始。俺はディストラクションを放った。


◇◇

 あたりは魔素を高速で吸収するキィィィィン――ッとジェット音が響き、金色の光で満たされていく。


「ショット」

 世界の白と黒が逆転した。


 パァァァンッと真っ白に変わった世界を、真っ黒なエネルギー弾が螺旋状らせんじょうに渦巻きながら青龍を飲み込んでいく。


「ヴォウェェェェ――ッ」

 

 ビリビリと大気を震わせて青龍の悲鳴が響き渡り、黒々とした黒煙で空が満たされた。

 

 どうだ――? 

 

 閃光が収まるとモノクロームの世界に色が戻ってきた。

 空には青龍の噴霧化ふんむかした血なのだろうか、濃紺のうこんの雲が波紋が広がるように空を覆い尽くしていく。


 やがてそれを追いかけるように、高温にさらされた空気が雨雲を呼び、風を呼んでポツポツと雨が降り出した。


 ヒュンと音がして、あちこちでキンッ、キィンッと跳ねる金属音がする。

 何かの破片? 青い鱗がコイン大の大きさで降り注いでいた。

 

 これは青龍の鱗?

 と言うことは――青龍は粉々に砕け散った?

 撃退できれば恩の字と思っていたが、粉砕できるなんてなぁ……。

 凄くね?

 ね、俺Tueeee――じゃね?


 青龍の鱗がそれを証明するように降り注いでいる。

 ヒュンと音がして右手の甲にあたった。「――ったぁ、痛たぁぁ」


 涙目なんですけど?

 スッゲェ痛いんですが? 衛生兵ぇぇぇっ、どこぉぉ?! 誰か呼んできてぇぇ!

 

 しばらく悶絶していたが、誰も来ないし痛みも治ってきたからちぇっ、と舌打ちして歩き出す。

 シールドを展開しながらあたりを見回すと、雨粒を縫うように青龍の鱗が降り注いで、キラキラと反射していた。

 やがてそれもおさまり、霧雨のように降りしきる雨の中に蒼い鱗があちこち散らばっている。


 もう大丈夫よね? 


 と左手を通常モードへ直し、ミスリルの剣を血振りして納刀する。

 青龍の鱗を拾い上げて繁々しげしげと観察すると、サファイア色に輝いてとても綺麗だ。

 くんくん嗅いでみても生臭さはない。

 ナナミのお土産にでもと拾って回る。まぁこれだけ落ちてれば価値はないだろうけど。


 眉を上げて空を見る。

 終わったな……。

 青龍の魂が大きく体をたわませながら天空を駆け上っていくのが見えた気がした。

 が、突然グニャリと視界が歪み頭が割れそうな痛みに襲われて、近くの城壁にしがみつく。


「ぬおっ」


『……なんじおごルナカレ』

 思念波が襲いかかってきて目の前が上下左右に揺れ、目玉がグリグリと踊る。


「ぐおっ」

 腰から崩れ落ちながら、なんとか背を城壁に預けた。

 まだ終わってなかったのか?!


 ガクガクと震えながら、城壁に預けた背に力を込めてずり落ちそうになる体を支える。


「んおっ、のぉぁぁぁっ」

 吐き出した声で朦朧もうろうとなる意識を繋ぎ止めた。

 バラバラになっていた視界がゆっくりと像を結んでいき、強烈な頭痛が鎮まって来ると青龍のいたあたりを見ても、やはり青龍は影も形もない。


「なんだ……? どうなってやがる」


 体のあちこちを動かしてみても特に異常はなし。

 いや、なさすぎる。

 ふと右手の甲にキズを負ったのを思い出して、見てみると雨に当たったところから消えていく。


「これが『災禍』の祝福?」


『災禍』は災害と祝福のセットだ。

 傷を癒したのは青龍が爆裂したあと残した霧のせいだとすると、今降り注いでいるのは竜の血の霊薬となる。


 あたりを見回すと、軍団の連中が俺と同じようにあちこち体を触って傷が回復していくのを驚いている。


「おいっ、無事だったか?!」

「いや――死んだと思ったが……」

 倒壊した城壁の下からも、そんな歓喜の声が上がった。


 こりゃポーションが降ってるようなもんだ――ってオキナへ報告しなきゃ。

 通信石を取り出して『竜の血ポーションと青龍の鱗が降ってる。回収されたし』っと。


 なかなか理解してもらえなかったようだが、オキナ自身が外に出てきて納得してからが早かった。

 輜重隊しちょうたいやら、軍団の第三隊やらが樽だのマジックバックだの持ち出して大騒ぎしてやがる。


 やっと終わったってぇのに、現金なもんだ――そう思ったらはははっと笑いが込み上げてきた。


 見ると皆笑っている。

 勝ったと言うよりは生き残れたって感じだ。

 雲の隙間から陽が差してきて、見上げた空に白銀の飛行痕が描かれていく。

 コウとスンナだ。


「おーいっ」

 誰かが声をあげて手を振っている。

 バッカだな、聞こえるわけねぇじゃねぇかって言いつつも俺も

「おーいっ」なんて手を振ってたりして。


 青龍のいたあたりを二、三回旋回して本当に消滅したのか確認しているようだ。

 やがて確認が終わったのか、俺たちの頭上スレスレを飛び去り『コウヤ、やったね』と念話をよこしてきた。


 おかげさまで――そうコウとスンナには礼を言うつもりだ。


 ヒュンと背筋が冷えた気がして振り返った。

 咄嗟に左手をバックラーに変化させ身構えるとシールドを展開する。

 ガンガンッ、と空から落ちてきたそれが足元に転がった。

 赤いソフトボール大の球体。

 拾い上げて繁々と観察すると、宝石のようにキラキラ光っている。

 

 こいつは……?


「ドラゴンズ・アイ?!」

 やめて――もう嫌っ! 


◇◇◇


 まだ俺は城壁の上にいる。

 空からドラゴンズ・アイが落ちてきたこともあり、しばらく警戒してからオキナたちと合流すると伝言してある。


 城壁から眺める王都ド・シマカスは無残な姿に変わっていた。

 押し流された瓦礫がれきが綺麗だった石畳を覆い尽くし、ところどころ崩れた家屋が見える。

 屋根に大穴を開けられた家も。


 あれじゃあ家の中は悲惨なことになってるだろうな。

 下水もあふれ出しているだろうから、このあと疫病も流行るかも知れない。

 なんてことを考えていると通信石がブルリと鳴った。


 見ると文字が浮き出でくる。


『魔人軍らしき一団が国境を越えて侵入――』


 ウッソぉ〜ん!?

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